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乙女ゲームの主人公に転生したはずなのに悪役令嬢がみんなに愛されて過ぎていて私はほっておかれています。  作者: としろう


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そんなこと、とっくの昔に知っている

ーああ、緊張する。


セルジュールはドアの前で、教室の中に入るのを躊躇っていた。

セシリオと会うのはあれ以来だ。

できるだけ、ギリギリに教室に入り、隅に座って、チャイムが鳴り次第すぐに教室から出よう。

そうすれば、セシリオの視界に入ることなく授業を終えられる。


嫌われているのはわかっている。

ならばせめて、彼が不快にならないようにしてあげることが自分にできる精一杯だ。


ーそろそろ予鈴が鳴る……。

だが、一向に足がいうことを聞かない。

自分はどこまでも臆病で、勇気がないのだろう。


「あっ、いたいた。セルジュールさん!もう今日はお休みなのかと思ったわ。見に来て良かった。さっ、入りましょう!」

ミナミはそう言うと、セルジュールの手を掴み、教室に入る。

不安そうな表情をするセルジュールに気づいたミナミは、

「大丈夫。セシリオ様とはうんと遠い席をとってあるから」

と笑った。


ーああ、この子はなんでこんなに他人に気遣えるのだろう。


「別に、私はそんなこと気にしてませんわ」

「はいはい、そういうことでいいですよ」

ミナミは、安定のツンデレだと思いながら、後ろの席に案内する。

そこには、タクマとその友人たちも一緒だった。

タクマが優しい笑顔でセルジュールを迎える。

「俺とミナミはセットのようなものですから」

「フン、まぁ……しょうがないわね」

そう言って、セルジュールは恥ずかしそうにしながらミナミとタクマの間に座る。

「安心して下さい、こいつら無駄に図体でかいんで。対包囲網はばっちりですよ」

タクマがセルジュールに冗談ぽく言う。

「おい!タクマ!無駄にってどういう意味だよ?」

「そうだ!包囲網ってなんのことだよ??」

タクマに詰め寄る友人たちをみて、セルジュールは思わず笑ってしまった。

「ふふっ」

それを見たタクマの友人たちは一瞬固まってしまい、それに気づいたセルジュールは慌てて、扇子を出して平然を装う。

「ごほんっ。……何か?」


「あっ……いえ……」


ーツンデレ!!


一同、心の中でそう思うのであった。


「……リオ、セシリオ!聞いてる?」

「あっ……ごめん。パトリオット、なんだった?」

「いや……もういいよ」

パトリオットがそう言うと、「そう?」と言って、また下を向いて教科書を見る。

さっきから、1ページもめくられてはいない。


「気になるなら話しかければいいのに」

「?何か言ったか?」

独り言のような、パトリオットのつぶやきにランフォースが反応するが、「いや、なんでもないよ」と答えるのだった。




放課後になり、久しぶりにセシリオは図書館で歴史書を読みふけっていた。

最近、学園祭でのマジックショーの手伝いやら、公務やらで中々歴史書を読むが暇が無かった。

隅のこの場所は静かな図書館の中でも、ひときわ静かだ。

小窓から注ぐ木漏れ日が、ほこりをキラキラと輝かせる。

かび臭い本のにおいさえ、愛おしく感じるのだ。

セシリオはこの空間が好きだった。


ー入学当初は彼女が隣に来たりもしていたな。


ふと、セルジュールの事を思い出す。

ちょこまかと、自分につきまとっていた彼女は、図書館にもついてきて、斜め向かいに座り、歴史書を読んだりしていた。

うっとおしいと思ったが、特に話しかけては来なかったので、セシリオは気にせず本を読みふけった。

だが、そのうち来なくなった。

ーまあ、歴史書なんてつまらなかったのだろうな。さして興味もなさそうだったし。

セシリオはチラチラと自分の方ばかり見ていた彼女を思い出す。

彼女が来なくなったおかげで、図書館はセシリオがひとりになれる特別な空間になった。


「…...あった……これかな?言ってた資料」

「だな。こんな奥まで入ったことないから知らなかったわ」

男子学生がそんな話をしながら本を手に取る。

この辺は、専門書や歴史書が並ぶ。

興味のない者が知らないのは当然だとセシリオは思った。


「しかし、セルジュール様って、あんなに可愛いかったんだな。俺、全然気づかなかった」

「俺もだよ。そもそも俺たちのような下級貴族の者なんて見下していると思っていたし」


誰もいないと思ってるのか、二人は大きめの声で話し出す。


「ツンツンしているかと思ったけど、意外と良く笑うのな。笑顔が恐ろしく可愛いし。」

「それな。ミナミさんと二人で笑い合ってる姿とか、マジ二人とも天使……。あの授業の唯一の癒し……」


ーセルジュールの笑顔が可愛いだって?


セシリオはイラっとする。


ーはっ?何を今更。


そんなこと、とっくの昔に知っている。


セルジュールと初めてあった時、彼女は緊張して震えていた。

セシリオは自分がリードしないとと、習いたてのお辞儀をしてみせると、彼女は花のように微笑んだ。


”ああ、花が咲いたように笑うとは、こういうことを言うのだな”と思った。


その後も、彼女は僕のたわいのない話を嬉しそうに聞き、微笑んでくれた。

この子が僕の婚約者。

こんな花の様に笑う少女が僕の婚約者だなんて、僕は本当についていると思った。


だが、その気持ちは徐々に変わっていった。


彼女は僕の話を不機嫌そうに聞くことが増えていった。

そして、やれ、貴族がどうの、侯爵家がどうのという話をしだした。

”そような下賤な者はセシリオ様に相応しくない”と、人を見下すような発言までし出した。

さらには、隠れてアンジェリカに嫌がらせをしていたことがわかった。

アンジェリカは否定したが、パトリオットが調べたところによると、セルジュールが人を使ってやらせていたと言う。

詳しく聞けば、他の令嬢にも数々の嫌がらせをしていたようだった。

僕はなぜ、セルジュールがそのような事をするのか訪ねた。

そして、もし本当なら今すぐ止めるように言った。

だが、セルジュールの答えは……。

「セシリオ様が私だけを見てくださるなら、今すぐにでも止めます」

だった。

その時の彼女の表情は今でも忘れられない。

怖かった。

背筋がゾッとしたのを覚えている。

8歳の少年が背負うには、あまりにも重たすぎる愛情だった。

それから……セルジュールとは最低限の婚約者としての礼儀を果たすにとどまり、会うのを避けていった。


いつしか彼女は花のように笑わなくなっていた。


ーあの時、あの愛情を受け入れていれば何か変わっていたのだろうか。


ふとそう思ったが、やはりあの時のセルジュールを受け入れるのは、自分には到底無理だと思ってしまった。


「できればセルジュール様も一緒に図書館に来て欲しかったな」

「いやあ、そこまで求めるのはさすがに贅沢っしょ。資料を教えてもらっただけでもありがたいと思おうぜ。俺たちなんてタクマのおまけみたいなもんだし」

学生たちは自虐的に笑って言う。

「でもなんか、”邪魔したくない”みたいなこと言ってなかったか?図書館に行きたくない理由が何かあるのかな?」

「うーん、静かにするところだからな。俺たちみたいなのと一緒にきてうるさくしたら、他の人に迷惑……あっ」

そこまでしゃべって、今更ながらに自分たちがうるさく話していたことに気づいた二人は、そそくさと資料を持って、貸出カウンターへ向かって行った。


”邪魔したくない”


セシリオは斜め向かいの席で、チラチラと自分を見ていたセルジュールを思い出す。

だが、それはおぼろげで、彼女がどんな表情をしていたか、よく思い出せなかった。





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