説明会を開きます!
「皆様、今回は私達と一緒に、学園祭での模擬店出店に同意頂きありがとうございます」
アンジェリカがかしこまって、皆の前で挨拶をする。
今回、談話室に参加メンバーを呼んで、顔合わせを兼ねた親睦会を開いたのである。
あれから、タクマの友人やランナの友人も参加してくれるということで、十分な人数を確保することができた。
タクマの友人も最初は無理と言っていたようだが、アンジェリカが望んでいると聞いて、裏方ならと快く?参加してくれたようだった。
アンジェリカとミナミは、自分たちの交友関係の狭さを申し訳なく感じていた。
「簡単ではありますが、今回の模擬店の大まかなコンセプトなどをそこに書き示してありますので、ご覧くださいな」
ランナが皆に資料を配る。
「詳細は後々詰めていくとして……ここまでで、何か質問とか気になることがありましたら、遠慮なくおっしゃってください」
アンジェリカが微笑む。
アンジェリカに微笑まれては、大抵の人間が、惚けて質問などないのだが、やはりセルジュールは違うようだった。
「では、ひとつよろしいかしら?」
「ええ、何でもおっしゃって」
「予算は、この金額で決まっているのですよね?それは公平さを保つ為に仕方のない事だとは思うのですが、こちらは仮にも皇太子殿下もいらっしゃるのですから、あまりにも粗末なものはお出しできないでしょう?この予算で足りるでしょうか?」
さすが、宰相の妻になる(予定)の女。
しょっぱなから、予算をついてくるとは。
ミナミは感心してしまったが、アンジェリカは少し困惑してしまっている様だった。
正直、今日は顔合わせ程度と思っていたので、細かい事はまた今度と言って、ミナミとランナとの打ち合わせを切り上げてしまったのだった。
「そうですわよね……えっと……」
ーああ、もっと細かく打ち合わせしておけば良かった!
アンジェリカは猫耳の事しか頭になかった。
「そうですね、なので、ある程度は市販品ばかりではなく、手作りできるものは手作りをと考えています。ねっ、アンジェリカ様!」
ミナミが助け舟を出す。
「え……手作り……?」
ミナミにとっては学際と言えば、ちょっとちゃっちいくらいの手作りが基本と思っていたが、ここのご令嬢たちは違った様だった。
皆がざわつく。
「自分たちで作るのかしら……」
「従者にやらせてはいけないのかしら?……」
「大丈夫です!お菓子でも簡単なモノにすれば初めてでも、できますし!裁縫は皆さんお得意でしょう??」
貴族女性は淑女の嗜みで、大抵刺繍を習っていると聞く。
「ええ……まあ……」
「テーブルセットなどはどうなさるおつもりで??学園のものをそのままつかうのですの??」
セルジュールが心配そうに尋ねる。
「そうですね……例えば、新たに購入しては予算がありませんが、捨てる予定だったものを再利用するとかでしたら低予算で収まると思います。」
ミナミはアンジェリカの方を見る。
「確か、ドミエール家で今度、調度品の入れ替えがあるとお聞きしたのですが?」
不意にふられたアンジェリカだったが、すぐに質問の意図を理解した。
「ええっ。今度、離れの丁度品を総入れ替えする予定ですの。以前の物は寄付したり、譲ったり、もしくは廃棄予定ですが。」
「廃棄予定のモノなら、予算はかかりませんでしょうね」
ミナミがにっこり笑顔で言う。
ーかぎりなく黒に近いグレーゾーンでは?!
そこにいる誰もが、光属性の少女の闇部分を見た気分になった。
「今思い当たるのはひとまず、これくらいですわ」
セルジュールが、とりあえず納得する姿勢を見せた。
「では皆さま、他にご質問は?」
アンジェリカが見渡すと、他には何もなさそうだった。
「他に質問はなさそうですので、説明はこれくらいにして……本日は親睦会も兼ねて、お菓子や飲み物を用意させて頂きましたわ!」
アンジェリカがそう言うと、サラを筆頭に、ドミエール家の従者たちが、飲み物や菓子を運んでくる。
談話室は一気に立食パーティーのような雰囲気となった。
「遠慮なく召し上がれ」
そう言って、アンジェリカはにっこりと微笑んだ。
皆、ざわめきながら、嬉しそうに席を立ちあがるのだった。
「セルジュール様!私達も頂きましょう!」
友人達にせかされ、セルジュールも立ち上がる。
ー原則、一人のお付きを除き、家の者を学園に呼ぶのは禁止なはずでは??
セルジュールはそう思いながらも、皆が嬉しそうにしている姿を見て、”原則”とあった事を思い出し、グレーゾーンなら良いのかも知れないと思うのだった。
「アンジー、お疲れ様。素晴らしかったよ」
「リューク、ランフォース様!……いいえ、まだまだよ。ミナミさんやランナさんに手伝ってもらってやっとですわ」
そう、恥ずかしそうにアンジェリカが答える。
「助けてもらうのは恥ずべき事じゃないさ。そのために仲間がいるのではないか。アンジーは立派だったよ。なあ、ランフォース?」
「ああ、まるで別人のようだった」
「ええっ!?そこまで言うと、今までの私が何だったのかと逆にショックですわ」
そんな、二人のやり取りにリュークリオンも思わず笑ってしまう。
ー本当に、成長したな。
リュークリオンは、幼い時、いつも怯えてびくびくしていたアンジェリカを思い出す。
「大きくなったのだな」
リュークリオンはそう言うと、アンジェリカの頭を優しくなでる。
それはまるで、妹の成長を見守るような慈愛に満ちた表情だった。
「えっ……」
アンジェリカは思わず、固まってしまった。
「あっ!悪い!……これもまずかったか……?」
慌てて、リュークリオンはアンジェリカから手を離す。
実は、ここに来る前に、いつものようにべったりしてはいけないと言われていたのだった。
具体的にはハグ、キッス、必要以上に名前を呼ぶなど……。
「大丈夫ですわ。ただ、何だか懐かしくって。昔はよくこうやって、頭をポンポンしてくれていたなあと思い出しましたの」
「そうだったな」
ランフォースも同意する。
「ねえ、リューク、ランフォース様。私ね、本当に幼馴染のみんなには感謝しているの。みんながみんなであったから、私は私でいられたんだと思うの」
「何を改まって。そんなの当然だ。どうしたんだ?なんだか、なぞかけみたいになっているぞ」
アンジェリカの突然の話にリュークは少し戸惑った。
「この先、何があっても、4人は私の大切な幼馴染ですわ。それはかわらないって覚えていて欲しくて」
リュークリオンは、アンジェリカの発言になぜか胸がぎゅっとなった。
何かが変わっていく予感。
居心地の良い、5人の世界。
変わりたくはない、だけど、変わらなくてはならない。
そしてそれはきっと、アンジェリカも自分も望んでいる事だった。
「……なあ、アンジー、それはセシリオとパトリオットもいる時に言った方が良かったんじゃないのか?」
ランフォースがいない二人の事を不憫そうに話す。
「ああっ!そうね!今度二人には別の機会にお話しするわ!!」
アンジェリカがいけないっといったように慌てる。
「ふっ、そういうところは変わらないでいてくれよ」
リュークリオンは優しい笑顔をアンジェリカに向けるのだった。
「セルジュール様!このマカロン、凄く美味しいですわ!」
「こちらのフルーツタルトも中々……」
「流石、ドミエール家……すべてが美味しいですわ」
楽しそうな3人の姿を横目で見ながら、静かにセルジュールはお茶をすすった。
ーなるぼど。紅茶も美味しいわ。
アンジェリカ様に入れてもらった紅茶も美味しかったけど、アンジェリカ様はまさか使用人に教わったのかしら??
公爵令嬢が使用人に教えてもらうなんて、セルジュールには、にわかに信じがたかった。
ーきっと、特別な家庭教師でも雇ったのであろう。
そんな事を考えていると、聞き覚えのある声が自分を呼ぶ。
タクマだ。
「セルジュール様、あの、少しよろしいですか?」
あれ以来だったので、少し気まずさがあった。
「ええ……、まあ……」
「あ、私たち、向こうのテーブルもみてきますね」
気を使った友人たちは席を外した。
タクマは改めてセルジュールを真っすぐに見て言った。
「あの、この前はすみませんでした!!」
予想以上に大きな声に、皆がタクマとセルジュールを見る。
友人たちは気を使った意味がない!とあきれるのだった。
「もちろん、セルジュール様の為にって気持ちはあったんですが、それ以外の気持ちもあって……。とにかく、結果的にセルジュール様を傷つけてしまった事には変わりなくて」
タクマは素直に反省の意を示す。
セルジュールは大きなため息をついた。
「ふうっ。……こんな素直に謝られては、許すしかありませんわ。もう気になさらないで」
そう言って、セルジュールがにっこりと微笑むと、タクマは心底ほっとしたような姿を見せた。
ータクマ様は本当に素直な方ね。それに、とってもわかりやすいわ。
セルジュールはセシリオを思った。
彼はいつもにこやかに微笑んでいるが、本当のところ、何を考えているのかわからない。
この前だって、結局、何をそこまで苛立っていたのかわからない。
うるさい空間を嫌う人ではあるけれど、あのように怒りを前面に出して怒るなんてことは、今まで見たことが無かった。
「はあ~」
「えっ?!また、ため息つきました??やっぱりまだ怒ってます??」
またもつくセルジュールのため息に、タクマは不安になる。
その、おどおどした表情に、セルジュールは思わず笑ってしまう。
そんなセルジュールにつられてタクマも笑うのであった。
タクマはセルジュールに気を張らない居心地の良さを感じていた。
お互い切ない思いをしているという勝手な共感意識もあった。
ー彼女の前でもこんな風に素直になれたらいいのに。
幼馴染2人に囲まれて、少女のように微笑むアンジェリカを、ただ見つめる事しかできないタクマだった。
愛おしそうに見つめ、アンジェリカの頭をなでるリュークリオン。
ーまた、今日も私は溺愛を見せられるのか。
ミナミは、いつもの事だと、気にしない様にしようとするが、つい目で追ってしまう。
その時点でもう落ちてしまっている事に、本人はまだ気が付いていなかった。
そんなミナミを見て、ランナが声をかける。
「ミナミ、このマカロン、本当に美味しいわよ。あのスザンヌさん達でさえ、絶賛してたわよ」
因みにセルジュールといつも一緒にいるのはスザンヌ、ジュリアナ、エリー、いづれも伯爵令嬢である。
「ありがとう。あっ……本当美味しい!」
ミナミの顔に笑顔がこぼれる。
ランナはほっとした。
友人の切ない表情を見ていると自分も辛くなった。
ーミナミはまだ、リュークリオン様の事が……。
ランフォース様がアンジェリカ様と仲がいいのを見るのは、ランナももやッとはするが、心のどこかでアンジェリカ様にはリュークリオン様がいるという安心感みたいなものがあった。
ーもし目の前で、ランフォース様とその婚約者様が仲睦まじくしていたら……私なら耐えられないわ。
「レシピ教えてもらえないかな…?いや、でもマカロンは難しいし、廃棄が増えてしまっては予算オーバーに…」
だが、ミナミは既に模擬店をいかに成功させるかに意識をシフトチェンジしたようだったので、ランナは苦笑いしつつも、安心するのだった。
ランナは演習場での事を思い出していた。
リュークリオン達がランナ達に気づき、こちらに向かって来た時、ランナにはリュークリオンが、ミナミに最初に気づき、そしてアンジェリカへ目を向けた様に見えた。
ミナミは下を向てしまっていたので気づかなかっただろうが。
その後も、いつもと様子が違うミナミをリュークリオンはしきりに気にしていた。
それは、まるで恋人を気遣うようだった。
そして、ミナミの前で見せる屈託のないあの笑顔……。
ー少なくとも、私ではあの笑顔は引き出せないでしょうね。
だけど、たとえ何かしらの感情があったとしても、貴族が恋愛結婚できるとはランナも思ってはいなかった。
特に、彼らのような上流貴族ならば尚更だ。
その中で、お互い慕っている相手と結婚するリュークリオン様とアンジェリカ様は理想だと言える。
それが例え恋とは違くても。
ランナは横目でミナミを見た。
ーだけど、もし、ミナミが数十年に一度の聖女として覚醒したとしたら可能性はあるかも…...?。
確か、前回の聖女も身分はそれほど高くはなかったが、王族と結婚していたはずだ。
「これは、簡単だけど材料費がかかりすぎるし……いや、でも皇太子オススメとか言ってセットにすれば高い値段でも売れるんじゃ……粗利は……」
ミナミは、今回出されたどのお菓子で儲けようかと、真剣に考えているようだった。
「……流石にこんな俗っぽい聖女はいないかなぁ?」
「え?何?ごめん、聞いてなかった」
ほおにクリームを付けながら、こっちを振り返るミナミに、ランナは故郷にいる弟妹を思い出し、思わず顔がほころぶ。
「ふふっ、ミナミ、クリームが顔に付いてるわよ」
「ええー!ちょっ……どこ??」
もしかして、顔に食べ物を付けるのが私にある唯一と言っていい主人公チートなのでは?!と思ってしまうミナミであった。
ー別に何の役にも立たないけどね!!
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