47 番外編 ドングリ
今回は虫の描写があります。
本編とはそこまで繋がっていないので、苦手な方はとばしてお読みください。
「あら?アンジェリカ様!いらっしゃたのね。良かったら一緒に食べません??」
タクマの参加の意思も得られたので、ミナミとランナは助け舟を出す事にした。
アンジェリカは、待ってましたと言わんばかりに、嬉しそうな顔を見せたが、「そうね。そうしましょうかしら。では、ごめんあそばせ」と上品に言って、席を立つのだった。
ミナミは去り際にタクマを睨み倒す事を忘れなかった。
「なあ...…ミナミさんって、やっぱりちょっと怖いよな?タクマよく平気でいられるな…...」
ミナミ達が去ったあと、タクマに友人が耳打ちする。
「まあ、今回は明らかに俺が悪いからね」
「え?なんて?」
「いや、何でもない。まあ、ミナミは友達思いのイイ奴だよ」
「そうかぁ?でも……さっきの表情、マジで怖かったけど……。まあでも、わりと可愛いよな。顔は結構俺、タイプかも」
「え?ミナミが?タイプなの?」
身内をタイプと言われ、タクマは妙な気分になる。
「顔は普通に可愛いだろ。まあでも俺は、隣にいたこの方が好きだな。なんか、面倒見のいい、お姉さんタイプで。甘えたい。」
「わかる~。尽くしてくれそうな。……まあ、でもやっぱりアンジェリカ様だよな~」
そう言って、友人たちは先ほどのアンジェリカの天使の笑顔を思い出して惚ける。
「いいなぁ、タクマ。どこで知り合ったんだよ?俺だって、その学園祭の模擬店だっけ?参加できるならしたいよ」
友人たちは羨ましそうに、タクマを見る。
「俺は、ほら、ミナミとアンジェリカ様が仲いいからその縁で……。学園祭だって、ただの人数合わせだろ?まぁ……それに、リュークリオン様もいるらしいからな。それで良ければいつでも代わってやるけど??」
「いや……遠慮しときます」
さすがに皇太子と一緒に模擬店をする勇気は友人たちにはなかった。
「ミナミさん!ランナさん!やりましたわ!とにかく、なんとかタクマ様の参加をとりつけましたわ」
「アンジェリカ様……頑張りましたね」
ミナミとランナは涙ぐんで、アンジェリカの健闘をたたえた。
「あの……タクマ様って……意外とクールなところがあるんですね。私が持っていたイメージと何だか今日は違って見えて……」
ランナのイメージでは、タクマはもっと人当たりのよい、穏やかな雰囲気の人だった。
「いえ……タクマ様はきっと、ランナさんが思っているように、穏やかで優しいお人ですわ。もし、今日違う風に見えたのなら……それはきっと……私のせい……」
アンジェリカが、うつむきがちに答える。
ランナは聞いていいのか迷った。
ーアンジェリカ様とタクマ様、何かあったのかしら??
ランナはアンジェリカが何となく、タクマの事を気にしているのには気づいていた。
だが、リュークリオンという、不動の婚約者がいるし、相当溺愛もされている。
とはいえ、それは親同士が決めた事。
本人の気持ちは別……と言うことも考えられる。
が、単に、リュークリオン達以外の男性に免疫がないだけともみえる。
かと言って、国政にも関わるこの関係性を安易にかき乱したり、踏み込んではいけないとも感じていた。
ランナは何を言っていいかわからず黙った。
「いや……タクマは優しくて穏やかな人間じゃないわ!!」
その沈黙を打ち破る様にミナミが強めに言い出した。
「え?……いいえ、そんな事は……ミナミさん、私に気をつかってくださらなくてもよくってよ」
「ううん、タクマは怒ると怖いのよ!そんで、結構根に持つタイプね!最近怒らせることも無かったから忘れてたけど」
ミナミは思い出したように話し出す。
「あれはそう……私が5歳くらいの時だったわ。タクマが大切にしていた、お菓子箱のお菓子を全部食べちゃって……。やばいと思った私は、とりあえず、その空き箱にドングリを敷き詰めておいたんだけど……」
ランナは嫌な予感がした。
弟がドングリを空き缶に入れっぱなしにしていた時の事を思い出す。
「後日そんな事すっかり忘れてて……。で、タクマがお菓子を一緒に食べようって、久しぶりにそのお菓子箱を開けたんだけど、そしたら、まあ……ドングリから多量の虫が湧いてて……もう、ひどい有様だったわ!!」
ランナとアンジェリカは絶句した。
「そのあと、1カ月も口きいてくれなかったのよ。思い出した、アイツは案外女々しいのよ!!」
「いや……ミナミさん、それは普通に怒るわよ!」
ランナがすかさずツッコむ。
「そう?確かにお菓子を食べちゃったのは悪かったけど……でも、ドングリ入れたから良くない?だって、あれくらいの子はみんなドングリ好きでしょ?メイちゃんもドングリを追って、トトロに会うのよ?」
「メイちゃんって、誰?!まあ、それは置いといて……そのドングリがいけなかったのよ!お菓子を食べられただけならまだしも、久しぶりに開けたら、お菓子が虫になっていたなんて……」
「想像するだけでゾッとするわ」
ランナは身震いする。
「え~?そんなに私ひどい事したかな??まあ、あれからしばらくはドングリを見るたび逃げ回ってたわね~」
ミナミはまるで、いい思い出だとてもいうように楽しそうに笑う。
ー反省の欠片もない?!
ミナミのあっけらかんとした態度にアンジェリカもランナもあきれ返ってしまった。
「……やっぱり、タクマ様はお優しい方なのですね。こんなミナミさんとずっとお友達でいて下さったのだから」
「え?嘘?!ランナ、それはひどくない?!」
「……やっぱり、私が悪いのですわ……」
一層落ち込むアンジェリカだった。
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