説得へゴー!
「さあ、これからみんなで、あの二人を説得しに行きましょう!」
「ええ?!…私はてっきり、もう二人には了承を得てるものだと…これ、通販サイトなら、詐欺よ?クーリングオフされるわよ!なんってことよ!!」
「ミナミさん、私はジャパネットではありませんわ。大丈夫ですわ、こんなに素敵な令嬢が3人で頼んで、イエスと言わない殿方はいらっしゃいませんわ!!」
そう言って、楽しそうにアンジェリカは進んで行く。
ークーリングオフ?ジャパネット??
よくわからない用語が出てきたが、何故か会話が成り立っている二人に若干戸惑いながらも、先へ行くアンジェリカについていくランナだった。
「確か、リューク達は演習場で剣術の稽古中ですわ…あっ!いましたわ」
丁度、リュークリオンとランフォースが手合わせをしていた。
二人の実力は素人目でもわかるほど、洗練された身のこなしだった。
周囲もいつしか、手を止め、二人の手合わせに見入っていた。
真剣な表情で、しかし、どこか楽しそうに、剣を交える二人。
ほとばしる汗が、練習着を湿らせ、張り付く。
ーこんな表情もできるのね。
ミナミは素直にリュークリオンの事がカッコいいと思ってしまった。
「真剣なリューク、カッコいいでしょ?」
アンジェリカが耳うちする。
「…くっ…まあ、普段よりわね」
強がるミナミを見て、クスクス笑うアンジェリカだったが、その隣で惚けているランナに気づく。
ーあらっ。やっぱり私の思った通りね。
ーくそう!やっぱり、腐っても攻略対象ね…あの顔で、あんな剣さばき見せられたら、そりゃ、誰だって好きに…嫌々!私はなんないけどね!
ミナミが一人で葛藤していると、終了の笛がなった。
二人がお互いの健闘をたたえていると、ふと、リュークリオンがこっちを見た。
ー?目が合った??
ミナミがそう思っていると、リュークリオンとランフォースがこっちに向かってきた。
ーはっ、私ったら、バカね。リュークリオンが私の事を見るわけないじゃない。
真っすぐに、近づいて来るリュークリオンに耐えきれず、ミナミは自ら下を向いた。
「アンジー、来てたのだな」
ーああ…やっぱりね。目が合ったなんて、気のせい。
隣のアンジェリカを見てたのだ。
ミナミは期待しなくて良かったと思った。
自己防衛能力のスキルだけは上がってきていると、自嘲気味に思うミナミだった。
「…おい、おいっ!どうした??ずっと、うつむいて。具合でも悪いか?」
ミナミを呼ぶ声に、顔をあげると、眉をひそめて、リュークリオンがミナミの顔を覗き込む。
「顔色は…悪くないようだが?変なモノでも食べたのではあるまいな?」
「なっ!失礼な!そんなわけないでしょ!!」
「どうだか?おまえは常に腹が減っているようだからな」
ミナミは、リュークリオンの前で豪快にお腹の音が鳴った時の事を思い出す。
「ちがっ!あれは~!たまたま!いつも空いてるわけじゃないわ!レディに向かって失礼よ!!」
「誰がレディだって?」
そう言って、意地悪い笑顔をミナミに向けるリュークリオンだったが、ミナミはそれさえ、可愛いと思ってしまった。
ークソ!残念王子なくせして!顔が良すぎるのよ!!
自分の事を一番に見てくれなくても…こうして気にかけてくれる。
それだけで十分だと思うミナミであった。
ー私の幸福沸点低すぎだわ…。
自分で自分にあきれるミナミだった。
ランナがうっとりとランフォースを見ていたら、ランフォースと目が合ってしまった。
焦ったランナは何かしゃべろうとするが、緊張して言葉が出てこない。
「あの…う…えっと…」
ーしっかりするのよ、ランナ!一言でも…かっこよかったですとか…何か…。
このままでは挙動不審の変な女と思われてしまうわ!
ーまた、怖がらせてしまったか。
自分の前で、困ったような仕草を見せるランナを見て、ランフォースはそう思うのだった。
彼女は剣術を見るのが初めてだったかもしれない。
乱暴な男と思われてしまっただろうか。
ランフォースは、せめてもと、木刀を後ろに隠す。
アンジェリカは、このフラグが立ち始めている二組をニマニマ見ていたいと思ったが、今回の本題は別にあったことを思い出す。
「ちょっと、二人にお願いあって来たの。この後少し、いいかしら?」
「お願い?なんだ??」
「まあ、立ち話もなんですし…とりあえず、さっさとその汗くさい服を着替えてきてくださいな!」
「うっ…!」
アンジェリカにそう言われて、若干ショックを受けつつもスゴスゴとリュークリオン達は更衣室へ向かう。
途中、リュークリオンがミナミに「におったか?」と恥ずかしそうに聞いたので、思わずミナミは笑ってしまった。
「いいから、早く着替えて来てくださいって」
アンジェリカがそう言うので、リュークリオン達はいそいそと着替えに行った。
「リュークも可愛らしいところがあるのね、好きになっちゃった」
ー?!
「ちょっと…...アンジェリカ様!耳元でアフレコするのやめてくださいます?!」
アンジェリカは楽しそうにミナミから逃げ出すのだった。
ーアフレコ??
ランナは、ミナミが時々知らない言葉を使うなぁと不思議に思った。
「待たせたな。で、アンジー、話とはなんだ?」
5人は、演習場の近くにある、木陰のテーブル付きベンチに座った。
日陰になっており、心地よい風が吹き抜ける。
着替え終えた二人は、汗を流してスッキリしたのか、普段より一層爽やかに感じられた。
ほのかに柑橘系の匂いも漂ってくる。
ーいつも以上に爽やかさを感じるわ…まあ、私は汗のしたたるリュークリオンもなかなか…。
って!これじゃあ、なんだか変態みたいじゃないの?!
いつもと違うリュークリオンに動揺が隠せないミナミだった。
「なんか、お前、今日はいつもより…一層、おかしいぞ…どうした??」
挙動不審なミナミを心配(警戒)して、リュークリオンが訪ねるのであった。
「私たち、今度の学園祭に出店しようと思っているのですけど、それにリューク達も参加して欲しいのですわ」
アンジェリカは、そう言って、先ほどチラシをリュークリオン達の前に出す。
「学園祭で出し物をするのか??」
リュークリオンが出されたチラシを手に取りながら訪ねる。
「ええ、私たち、メイド喫茶を出したいのだけれど、それにリューク達も参加してほしいのですわ」
「メイド喫茶??」
リュークリオンとランフォースは目を合わせる。
二人は目が点になっていた。
まったく、想像がついていないようだ。
「ああ、正確にはこうですわ」
アンジェリカが、出し物の申請欄に書かれたメイドの前に執事と書き加えて渡す。
「執事、メイド喫茶??いや、アンジー、まったく意味が解らないのだが、これはどういった出し物なのだ?!」
困惑するリュークリオン達にアンジェリカはドヤ顔で説明する。
「なるほど。システムはわかった。要は、私たちが執事や侍女にふんして、来場者をもてなすというわけだな」
「そう言うことですわ。ね?やってくれますわよね」
リュークリオンとランフォースはまたも、顔を見合わせる。
そして、ため息をつくと、リュークリオンが言った。
「アンジー、君に協力したい気持ちは山々だが、流石にこれはできかねる。学園祭には、父上たちは…来ないかもしれないが、恐らく、叔父上や、伯母上など多くの王族も来るし、臣下たちもくる。そこで、皇太子が執事の真似事をして、給仕してたなど…あきれられてしまうよ」
「…どうしても、ダメですの??」
アンジェリカがお得意の?上目遣いで、きゅるるんとお願い攻撃を仕掛ける。
「う…!」
リュークリオンが一瞬たじろいで、ランフォースを見るが、ランフォースは表情を変えずに首を横に振る。
手強い。
「アンジー、申し訳ないが、学園祭に出たいなら、別のものに変更できないか??一緒に考えよう」
「…わかりました」
「ああ、良かった。じゃあ何か別で…」
「もし、参加してくださるというなら、今なら!ここにいるランナさんとミナミさんと執事侍女姿で、一緒に学園祭をまわれる特典をお付けしますわ!!」
アンジェリカの奥の手と言わんばかりに、ドヤ顔で発言する。
ーいやいや!それ、単に休憩を衣装のまま、まわるってだけだよね?!しかも、ランナには悪いけど、私とランナとまわれるって言っても…説得できないでしょうよ!そして、なぜ、まだ某通販サイトみたいな口調になっているのよ!
ミナミの心のツッコミが止まらない。
リュークリオンはため息をつく。
「はぁ~。いいかい?アンジー、そもそも…」
「よし、わかった。参加しよう」
ーん?
最後のセリフはまさかのランフォースです!
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