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「メイド喫茶?!聞いたことないですわ??」
「まさかとは思いますが…私たちに侍女がやるような事をやらせるおつもりじゃあありませんわよね??」
取り巻きズ達が、次々に言ってくる。
「そのまさかです。私たちが、侍女に扮して、学園祭に来た方々をお出迎えするのです。」
「はあ?!何を考えてますの?!」
「私たちがなぜ侍女のまねごとをしなくてはならなくって?!」
予想通りの反応だ。
「ふんっ、下賤な元平民の考えそうなことですわ!」
これも予想通り。
「学園内では身分の差はない…お忘れですの?」
セルジュールがその令嬢に睨みを利かすと、「う…私としたことが…申し訳ありません」その令嬢は素直にセルジュールに謝った。
ーセルジュールさんが、庇ってくれるなんて!予想外!やっぱ好き!
嬉しそうにするミナミを見ながら、”そこは私の出番だったのに”と、密かに危機感を抱くアンジェリカだった。
「でも…いくらミナミ様のお願いでもこの案は聞き入れがたいですわ…。学園祭には家の者達も来ますし…後でどのように言われるか…」
学園祭には、家族や親せきなどを招待してよい事になっている。
侯爵家の令嬢がメイドに扮するなど…例え両親が許しても、周りが許さないかもしれない。
「少しお待ちください」
アンジェリカはそう言って、席を立つ。
ーアンジェリカ様はこの提案に乗ったのかしら?ご自身の立場をどう考えてらっしゃるのかしら?さすがに公爵令嬢が給仕をしてたなんて…いくら学園祭とはいえ…。
セルジュールは考えを巡らせていると、
「お待たせしましたわ」
そう言って、アンジェリカはお茶とお菓子を持ってきて、セルジュール達に振舞う。
「さあ、召し上がって」
公爵令嬢自らのおもてなしを受け、セルジュール達驚きを隠せなかった。
そして、恐縮しながらも、当然断ることもできず、恐る恐る頂くことにした。
「美味しい…」
セルジュールの口から、思わずそう出てしまっていた。
貴族として、それなりにお茶を飲んできたので、舌は肥えている方だと自負している。
今まで飲んだお茶の中でも、上位に入るくらい美味しい。
ーもしかして、専属侍女を奥に控えさせているのかしら?
セルジュールはチラッと奥を見た。
その目線に気づいたアンジェリカは、「奥には誰もいませんわ」と言うと、
「私が淹れましたの。お味はいかが?」
そう言って、にっこりと微笑む。
「ええ?!アンジェリカ様が?!本当ですの??」
「うそでしょ?!こんな美味しいお茶を公爵令嬢であるアンジェリカ様が淹れらるはずありませんわ!」
取り巻きズは信じられないと言った表情で、お茶とアンジェリカを交互に見る。
結構失礼だなっとアンジェリカは思ったが、ここは計画の為に多めに見ることにした。
信じられないといったように、ソワソワする取り巻きズに、アンジェリカは奥の手を出す。
「ねぇ、皆様。皇太子…リュークリオンの執事姿、見てみたいと思いません?」
ー?!
取り巻きズはアンジェリカの方を見る。
「想像してみてくださいな。あの、リュークリオンが執事の服を着て、お茶を持ってくる…そして、あなた達にこう言うの」
ゴクリっ。
取り巻きズは生唾を飲み込む。
「お帰りなさいませ、お嬢様っ」
ーきゃー!!!
取り巻きズは想像だけで、天にも昇る気持ちになった。
あのリュークリオン様が私に微笑みかけて(とまでは言っていない)お嬢様と呼ぶ?!
そんなの見てみたいに決まっている。
手ごたえありと思ったアンジェリカはさらにダメ押しの一発を放つ。
「いまなら、あの無口なランフォースもついてきますわ」
ーなんですって?!
普段、無口のランフォース様が優しく(とは言っていない)私たちを出迎えてくれるですって?!
無骨なランフォース様が、かしづく姿を見てみたい!
ミナミは、前世で見た、某通販サイトを彷彿させるアンジェリカの巧みな話術に思わず、関心した。
取り巻きズはうっとりした表情を見せる。
その後ろで、ランナも惚けていることにミナミはまったく気づいていなかった。
「決まりね!じゃあ、このメンバー欄に署名してもらってもいいかしら」
ミナミがすかさず、申込書をセルジュール達の前に差し出す。
取り巻きズは、先ほどとはうって変わって、セルジュールに早く署名するように促す。
セルジュールはため息をつくが、「まぁ、…皇太子であるリュークリオン様がおやりになるのでしたら、誰も文句は言わないでしょう。いいわ、一緒にやらさせて頂きますわ」
そう言って、セルジュール達はメンバー欄に署名するのであった。
「あの…セシリオ様もご参加に?」
セルジュールが、少し気まずそうに、聞いた。
「それが、お誘いしようとしたのですが、どうやら、2年の先輩がするマジックショーの手伝いにパトリオットと誘われている様で…親しくしている方の誘いなので断れないと言ってまして」
アンジェリカがそう言うと、セルジュールは、ほっとしたような、残念なような複雑な気持ちになった。
「そうなのですね。わかりましたわ」
「では、細かい話はまたこれから」
そう言って、セルジュール達は談話室から出て行こうとした。
だが、急にセルジュールは立ち止まり、振り返り、言った。
「…アンジェリカ様、お茶…とても美味しかったですわ…」
ー?!
「では、私達はこれで!行きますわよ、皆様!」
そう言って、セルジュール達はそそくさと部屋を出て行った。
扇子で顔を隠していたがセルジュールは、明らかに真っ赤になっていた。
長年、ライバルとして敵視していたアンジェリカを褒めるのが恥ずかしかったのだろう。
アンジェリカはミナミとランナの方を見る。
「ツンデレ?」
二人は親指を立てて、イエスの代わりに答えるのだった。
「それにしても、よく、あのリュークリオン様がやってくれるって言ったわね。さすが、婚約者だわ」
ー令嬢たちを納得させ、かつ最優秀賞を狙うとなれば、リュークリオンの協力が必須だとは言え、あの男を説得できるなんて…。
やっぱり、溺愛がなせる業かとミナミは頼もしくも、少し複雑な気分になった。
「いいえ」
「ん?」
「いいえ、まだリュークにもランフォース様にも言ってませんわ。許可はこれからみんなでとりに行きましょう!」
ーはあ?!
ニコニコ笑顔でそう答えるアンジェリカに、ランナでさえ少し不安になるのだった。
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