切り札は猫
「え?メイド喫茶??」
談話室に来たミナミは、アンジェリカの淹れてくれたお茶を飲みながら、計画を話した。
「そっ。普段、給仕されている側の貴族令嬢達が、給仕してきてくれた人達をもてなすってわけ。どう?おもしろそうだと思わない??」
「…面白そうではありますけど…それでセシリオ様とセルジュール様をどうやって仲良くさせるのです?確かにセルジュール様のメイド服姿は…ギャップ萌えはありそうですけど…セシリオの事ですから、他の令嬢みんなに可愛いとか言い出しそうですわ」
それでは結局今までと変わらない。
「確かにそうかもしれない…でも任せて!セルジュール様にだけ特別仕様にするのよ!」
「特別…?」
「コレよ…!」
ミナミは手で頭にこぶしをのせ、猫ポーズをする。
「まさか…猫耳!!」
ミナミは黙って頷く。
「いや…いくらセシリオが猫好きでも、猫耳くらいで落ちるわけ……」
アンジェリカは考える。
「……あるかも!!」
「でしょう?!」
「いけるわ!だって、セシリオってああ見えて、意外と単純だし!普段ツンツンしているセルジュール様が猫耳つけて、メイド服で”お帰りなさい、ご主人様”なんて言った日にはもう!確実に落ちますわ!!」
こうして、ミナミとアンジェリカは学園祭でメイド喫茶を開くことにしたのであった。
「まずはメンバーね。私にアンジェリカ、それにランナとセルジュール様…でもこれだけじゃあ、ちょっと人でが足りないのよねえ」
「そもそも…貴族令嬢が侍女がやるような給仕をすることにセルジュール様が納得されるかしら?ただでさえ、お堅い方なのに…」
アンジェリカが不安げに言う。
「あら?そこは、アンジェリカ様がいるじゃない」
「私??」
「そうよ、公爵令嬢のあなたが進んでお茶を淹れたり、給仕をしたら、侯爵令嬢のセルジュール様はやるしかないんじゃないの?そのほかの偏見も全て、あなたがやれば大丈夫よ」
「…私を使いますわね」
「策士と呼んでくれる?」
ミナミはニヤッと笑う。
「そういえば、あまりにも自然すぎて忘れてたけど、アンジェリカ様は自分でお茶を淹れるのね。しかも凄くおいしい…」
「美味しいと言ってもらえて嬉しいわ。侍女のサラにコッソリ教わって…。両親に見つからないようにこそッとリューク達に淹れていたんだけど、ここでは好きな時に好きに淹れられて嬉しいわ」
ーお茶ひとつ自分で自由に淹れられないのね。
案外、貴族令嬢も不便だとミナミは思った。
「ふふっ…実は私、夢がありますの。断罪されて辺境にいったら、少しづつ世界中の茶葉を集めて…。もし、許されるなら紅茶の専門店を開きたいなって。まぁ、私の断罪具合にもよりますけど」
そう言って、楽しそうに話すアンジェリカは強がりでもなんでもなさそうだった。
「皇后に未練はないの?ほら…小さい頃から厳しい王妃教育に耐えてきたんじゃないの??それなのにそれが全部無駄になっちゃうのよ?」
「あっ、それなら大丈夫ですわ。タクマ様との辺境地ルートに入ろうと決めた時点で、王妃レッスンは最低限必要なことしかやっていませんから。あとはさぼり…少し気を抜いて受けて、その余力で、紅茶の知識を入れていましたから!!」
「そういうこと?!」
ー今一瞬、さぼりって言ったよね?仮にも公爵令嬢が…。
「もちろんですわ!ですから、皇后に何の未練もありませんし、あんなに頑張ったのに!みたいな悔しさは微塵もありませんわ!!…まぁ、さぼりすぎて赤点とってしまっているのは改善しないとですけれども…」
少し恥ずかしそうにアンジェリカが言う。
もはやさぼっていたことを隠す気はなさそうだ。
ーなるほど…だからまったく覚える気が無かったのね…。
ミナミは体から力が抜けていくのを感じた。
トキメカナイ理由で、勉強をしないアンジェリカの気持ちがようやくわかった気がした。
「皇后になるのでしたら、感性で行動してしまう私より、策士のミナミさんの方が適任ではなくて?」
意地悪い顔でアンジェリカがミナミに言う。
「冗談…!だいたい、私はアンジェリカ様とタクマの事は応援しますけど、だからって、私とリュークリオン様がくっつかないといけないわけじゃないと思ってるから!…あくまで、あなたたちが婚約破棄までいけたらそれでいいと思ってるわ!」
「でも…そしたらリュークが一人になってしまいますわ…そんなの元婚約者として忍びないですわ…ね!だからここはミナミさんが…」
「ああっもう!この話はお終い!今はメイド喫茶の事を考えましょう!…そうねぇ、老若男女の客層を取り入れるにはリュークリオン達にも執事役をやってもらうほうがいいのだけれど…説得したらやるかしら?後は…ランナを入れてもメンバーが足りないわ…セルジュール様のとりまきもなんとかメンバーに入れれないかしら?…審査基準はどこに…」
ーん?審査基準??
勝負ごとになると燃えてくるミナミはいつの間にか、”最優秀賞をとるにはどうしたらいいか”を考え出している事に、アンジェリカは気づいたが、あまりにも目が真剣だったので、そのままにしておくことにした。
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