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乙女ゲームの主人公に転生したはずなのに悪役令嬢がみんなに愛されて過ぎていて私はほっておかれています。  作者: としろう


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セルジュール・サラ・ヘッドレンド

セルジュール・サラ・ヘッドレンド


小さい頃から厳しい両親の元、「貴族たるもの」はどう振舞うべきかを散々教え込まれてきた。

ヘッドレンド家の繁栄の為、同じ侯爵家であり、代々宰相など重要なポストを担っているシュナイデル家の長男と婚約が結ばれたのは、セルジュールが6歳の時だった。


貴族社会にとって、この年齢で婚約者が決まることは特段珍しい事でもなく、セルジュールもそういうものだと思っていた。


初めての顔合わせで見たセシリオは、まさしく王子そのものだった。

「初めまして、レディー」

そう言って、優雅にお辞儀をして見せる姿は、絵本の中から抜け出た王子に違いないと、セルジュールを確信させた。

セルジュールは、セシリオがひいた椅子に座ったはいいが、緊張で何を話していいかわからなかった。

だが、セシリオは、そんなセルジュールに優しく微笑みかけ、たわいもない話をしてくれた。

セルジュールは思った。


ーああ、この人が私の王子様なんだわ!


だけど、それは直ぐに自分の勘違いだと気づくのだった。


「僕の幼馴染達だよ」

そう言って、紹介されたのは、皇太子に、騎士、魔導士、それから公爵令嬢だった。

そうそうたる顔ぶれの幼馴染だなと思った。

どの子も、父に「くれぐれも粗相のないように」、そして「お近づきになれ」と言われた人物だった。


セルジュールはいつも以上に気を張った。

「絶対に粗相してはいけない、お近づきにならなくては」と。

今思うと、そんな考えが漏れ出ていたのかも知れない。

彼らは、「セシリオの婚約者」というだけで、特段、セルジュールに興味を示さなかった。


ただ、父は何とか娘と接点を持たせようと、色々な会にセルジュールを呼んで、彼らに会わせようとした。


そして…。

「アンジー、また君、頭に葉っぱをつけて。いったいどこを歩いてきたんだい?」


そう、優しい笑顔でアンジェリカの頭の葉っぱをとるセシリオを見た瞬間、セルジュールは気づいてしまった。


ーああ、私は彼の唯一のお姫様ではなかったのだわ。


「セシリオ、もう行く時間だ」

セシリオの父親が彼を呼んだ。

「わかりました。じゃあね、アンジー、また。あっ、セルジュールさんもまたね」


アンジー、セルジュールさん。

明確な呼び方の違いは、セルジュールの嫉妬心に拍車をかけた。


「あっ、セルジュール様ですわよね??セシリオの婚約者の…」

公爵令嬢が向こうから、挨拶してくる…本来なら嬉しいことだったはずだ。

だが、嫉妬心を飲み込むには、セルジュールはあまりにも幼かった。


「フンっ、公爵令嬢が頭に葉っぱをつけるとか…いかがなものでしょうか?」


ーアンジェリカ!この女さえいなかったら、セシリオ様は今でも私を、私だけを見て下さっていたに違いないわ!


それからは、アンジェリカを初め、セシリオが優しくする女の子すべてに嫌がらせをした。

大抵の女の子は直ぐに、セシリオから遠ざかるのに、アンジェリカは幼馴染で、公爵令嬢なのもあって、いつまでたっても目障りだった。


何度かセシリオに「やめないか」と言われたが、「セシリオ様が他の女性に優しくしないで、私だけを見て下さると言うならば、今すぐに辞めますわ」と言った。


だって、本当だった。


セシリオが自分だけを見てくれるなら、こんな事しない。


だけどセシリオは「わかってもらえないんだね」と悲しそうに言うばかりで、相変わらず他の女性に優しかった。


そのうち、二人で会う事は少なくなっていった。


「お姉さま、セシリオ様は今年も、イーストランドではお姉さまと最初に踊りませんのね?」

妹のルナジュールは、セシリオに大事にされていない姉を明らかに見下してきた。

「ああっ、私だったら、セシリオ様のお気持ちをつなぎとめておけましたのに…お姉さまでは…ねぇ??」

ルナジュールが、セルジュールの腕を絡めながらそう言うので、セルジュールは思わずその手を振り払う。

「きゃあっ!」

妹が床に倒れ込む。

そんなに強く振り払ったわけではないのに。

「なにごとだ?!」

「お父様…お姉さまがいきなり…」

駆け付けた父に、涙目で訴える。


バシッ。


父は躊躇なくセルジュールの頬を叩いた。

「お前は!妹になんてことをするんだ!ただでさえ、ルナは体が弱いっていうのに…冷たい姉だな」


「お父様…私は大丈夫です。お姉さまはきっと…セシリオ様の事で悩んでいたのですわ」

「まったく、シュナイデル家との婚約も、もう少し遅らせていれば、ルナ、お前と結んでやったのに。まったく、セルジュール、お前ときたら、男一人も懐柔できんで、どうする?」


セルジュールは父に罵声をあびせられても、表情一つ変えなかった。

「可愛げのない!妹のルナを少しは見習え!」

そう言い残すと、やっと二人は部屋から出て行った。


ー今更、可愛げと言われてもねぇ。


父も母も、セルジュールには厳しかったが、こと、体の弱い妹には甘かった。


セルジュールの言い分は全く聞いてはくれず、お気に入りのぬいぐるみも、大好きだった使用人さえも、妹に譲らされた。


今度はセシリオを欲しがっている。


ー確かに、ルナの方が、セシリオ様の好みよね。


ルナはセルジュール以外には愛らしくて、はかなげで、守ったあげたくなるような女の子に見えるだろう。


ーでも、これ(セシリオ)ばかりは譲りませんわ


例え、それが妹でも幼馴染でも、セシリオのお姫様には私がなる。


それは意地にも近い、セルジュールの恋心だった。



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