魔法化学を受けるのは
「そういえば、お腹の調子はどう?」
ランナが心配そうに、ミナミに尋ねる。
「ああ!もう、全然大丈夫!」
そういえば、お腹の調子が悪いと言って、出たんだったとミナミは思い出した。
「なら、良かった。次の選択授業は、席が自由だから、早めに行きましょう」
そうして、二人は魔法化学の教室へ向かう。
ーリュークリオンいるかな?
「大丈夫?ちょっと顔赤いように見えるけど…」
「だっ!大丈夫!」
裏庭でのリュークリオンを思い出し、顔を赤くするミナミを心配するランナだった。
教室を見ると、セシリオとパトリオットの姿が見えた。
そして…セルジュールとそのとりまきたちもいた。
ーげっ…あんまり関わらない様にしとこう。
ランナもそう思ったのか、ミナミと目を合わせると、二人はこそこそと、セルジュール達とは離れたところに席を探す。
だが、人生、そううまくはいかないものである。
「やあ、ミナミさんに、ランナさん!二人も魔法化学を選択してたんだね」
そう言って、セシリオとパトリオットが近づいて来る。
「え?セシリオ様がお声をかけている相手って…?」
「パトリオット様とセシリオ様と一緒にいる方達って…」
この二人にしゃべりかけられては、注目はまぬがれない。
ミナミは横目でセルジュール達を見た。
当然、こちらに気づいて、凄い目で(特にとりまき達が)ミナミ達をみている。
「ははっ。お二人も一緒だったんですね…」
ミナミはややひきつった顔をしながら、セシリオ達が座って居たあたりをみまわす。
ーまだ来てない?…それとも
「ああ、アンジーは選択してないよ。まあ、魔法基礎であれだからね。応用の魔法化学は当然のように選択しないと言われたよ」
少し残念そうにセシリオが言った。
「え?アンジェリカ…様?!」
「え?違うの?誰か探している様子だったから、僕はてっきり二人がアンジーを探しているのかなって…」
ーん?二人??
ミナミがランナを振り返るより早く、ランナがセシリオに答えた。
「もちろん!アンジェリカ様です!あっ…一緒に授業出られたらと思ったのに残念です…」
すると、パトリオットが、急に吹き出して笑うと、「ああ、因みにリュークとランフォースも魔法化学は選択していないよ。ランフォースは、魔法より剣技派だし、リュークもまあ、そんなとこかな」
そう言って、ミナミ達に含んだような笑顔を向ける。
ーこの人…性格ワル!
イラつきを前面に出すミナミに対して、真っ赤になって小さくなるランナ。
そんな二人を見て、またニヤニヤするパトリオットだった。
「パトリオット、何ニヤニヤしているんだい?あんまり彼女たちをからかうのはやめてあげなよ」
そう、苦言を呈すセシリオだったが、ふとミナミの髪の色が目に留まった。
ー栗毛色?
「へえ、ミナミさんてっ、綺麗な栗毛色だったんだねえ」
そう言って、セシリオはサラっとミナミの髪を手ですくう。
「え?ああっ、そうですか?普通ですけどねぇ…」
「それに…よく見ると綺麗な琥珀色の瞳をしているね」
そう言って、セシリオはミナミの顔を覗き込む。
ーちっ近いって!セシリオ様!
ミナミは美形に顔を近づけられてドキッとしつつも、セルジュールが気になって、彼女の方をチラッと見てしまった。
……見なければ良かったと後悔した。
キーンコーンカーンコーン
予冷がなった。
「おっと、予鈴がなってしまったね。さ、席に座ろうか」
そう言って、にっこり笑うセシリオに流されるまま、ミナミとランナはセシリオ達の横で授業を受けるのであった。
「ふう~っ、やっぱりソルビット先生の授業は面白いわ」
ミナミは初めこそ、リュークリオンはいなくてがっかりしたものの、授業が始まればもうそんな事はどうでも良くなっていた。
ただ、前世のリュークリオンルートとは違うのかとは思ってしまった。
ーやっぱり、フラグは立ちそうにないか…。
ミナミは少しほっとしたような、残念なような微妙な気持ちになった。
「それじゃあ、ミナミさん、ランナさん、また来週」
そう言って、セシリオ達と別れると、ランナは「来週も一緒に座るのかしら」とミナミに耳打ちするのだった。
嫌ではないのだが、彼らと座ると注目されるので困る。
平和な学園生活を送りたいのに…。
「さ、私たちも早くここを出ましょう」
そう言って、ランナがミナミを促す。
そう、先ほどからセルジュールの取り巻き達が、凄い形相でミナミ達を睨みまくっているのだ。
二人は慌てて、片づけると足早に席を立った。
が…。
「お待ちください!」
二人が振り向くとセルジュールとその取り巻き達がいた。
「少し向こうでお話よろしいかしら?ミナミさん」
扇子で顔を隠したセルジュールが、ミナミに凄んできた。
ーううっ、面倒くさい。きっとさっきのセシリオ様とのことに、いちゃもんつける気だわ。
ミナミはうんざりしたが、ランナに迷惑にならないよう、ランナに先に戻るように言おうとした。
だが、ランナは「お話なら、是非、今この場で話して下さい」
そう言って、ミナミの前に出たのであった。
「なんなの?!あなた!セルジュール様に向かってその態度!」
とりまき達がランナに文句を言おうとするが、すぐにセルジュールがそれをとめた。
「およしなさい!…みなさま先に戻って下さい」
「ですが…」
セルジュールがにらみを利かすと、彼女たちはミナミ達を睨みつけながら、すごすごと教室から出て行った。
程なくして、教室にはセルジュールとミナミとランナだけになった。
すると、「ランナさんも聞いて下さる?」とセルジュールが言ったので、二人で残ることにした。
「話とは…なんですか?」
引き留めたわりに、全く話そうとしないセルジュールにしびれを切らし、ミナミが言う。
実はさっきから、セルジュールは黙り込んだままで、一向に何も話さないのだ。
「あの…それはですね…その…」
シーン。
ーいや、もう帰っていいかな?!
ミナミはいい加減、面倒くさくなった。
「すみませんけど、次の授業が…」
「ごめんなさい!」
ー?!
「え??」
二人はあまりにも予想外の言葉に唖然としてしまった。




