ここがあの舞台!いよいよ乙女ゲームの始まりです!
花祭りから1年半ー。
ーついににここへ来たのね!
ミナミは聖フォース学園の重厚な門を前に、興奮を隠せずにいた。
「いやあ、やっぱり貴族だけが通う学園は違うなあ。俺らやっていけるんかね?」
タクマは自分たちが何だか場違いな気がして、気おくれしていたが、ミナミはそんなこと気にも留めず、門をくぐると、ずんずんと進んで行く。
「おい、待てよ!」
タクマが続く。
ーああ!ここがあの噴水ね!
歴史的建造物でもある設定の図書館!
常に整備された庭!
全てがあの乙女ゲームそのままだった。
正直、今まで自分が乙女ゲーム「聖女の学園」の主人公に転生したと、確信はしていても、いまいち実感できなかった。
それは、おそらく、今まで過ごしていた領地がほとんどゲームででてこないからだ。
そりゃそうだ。
主人公の田舎など、ゲームにほぼ関係ない。
舞台はほぼここ、聖フォース学園で行われるのである。
つまり、今までは文字の羅列の設定で読んだ通りだっただけなので、実際のビジュアルとしての記憶はほぼ無いにひとしかった。
だがどうだろう?
今、ミナミの目の前に広がる光景は、まさしくゲーム通りの世界なのである!
これが興奮せずにいられようか?
「しかし、広い学園だな…迷子になりそうだ」
そう言って、構内案内図をしげしげと見るタクマをよそに、ミナミはまるでこの学園に何年も通っている生徒かのように、迷いなく進んで行く。
「…なんで?」
「タクマ!早く!こっちが大講堂よ!」
不思議がるタクマをスルーして、ミナミはタクマの腕を引っ張り、大講堂へと進んで行くのだった。
大講堂には、既に多くの生徒たちが集まっていた。
ーこの人たちが聖フォース学園の新入生、そしてこの中に攻略対象達がいるのね!
そう思うと、ミナミは思わず周りをキョロキョロしてしまっていた。
それを見たタクマは、
「そんなにキョロキョロしてどうしたんだよ?知り合いでもいるのか??」
元平民のミナミに貴族が通うこの学園に知り合いなどいるはずないのにと不思議に思う。
「あっ、いや、そう言うわけじゃないんだけど、みんな素敵だなあ~って」
「ふ~ん」
「にしても入学まで色々あったよなあ、まさかお前が光属性だったとはねぇ」
タクマは今でも信じられないというようにミナミを見る。
「本当にねえ…。タクマとも今じゃあ兄妹ですものね!」
花祭りで、ミナミの属性が光とされ、国の保護対象となたことから、領主はミナミを養女として養子縁組を結んだのだ。
領主の私生児だったタクマとは、兄妹となったのである。
「どうして領主の息子だって黙ってたのよ」
設定で知っていたので、驚きはしなかったが、ふと改めて聞いてみるミナミだった。
「まあさ、お前が思っているよりお貴族様は血筋を大事にするってことよ」
「そうね…」
養女として迎え入れられたミナミは1年ほど領主の屋敷で暮らした。
タクマの兄妹とは表面的な付き合いしかなかったし、ミナミの事は”国の保護対象”として気を使って接されているのがわかったが、ふとした時にタクマに対する兄弟の態度は気になるものがあった。
明らかにタクマを下に見ていた。
設定で書かかれていても、実際に体感するのはこうも違うのかと思ったのである。
「まっ、元平民の私にしたらタクマも十分貴族だけどね!」
「ばーか」
そう言ってタクマはミナミの頭をクシャクシャにする。
「ちょっ!やめてよ!これでも一応セットしたんだから…!」
その時、アナウンスがなり始めた。
「えー、お持たせしましたこれより第89回聖フォース学園の入学式を始めます」
いよいよ、入学式が始まる。
ミナミは少しづつ緊張してきた。
ーもうすぐ。
ーもうすぐね。
順当に入学式は進む。
そしてアナウンスが流れる。
「えー、続きましては新入生挨拶。代表、リュークリオン・マリオン・サンジュール君、登壇願います」
「はい」
静寂が流れる。
彼の足音だけがこの大きな大講堂内に響いていた。
そして彼が登壇する。
身長180センチはあるであろう、高身長から伸びる手足はスラっと長く、しかしながら、しっかりとしている。
やや長めの金色の髪は、講堂の窓から差し込む陽の光に照らされ、一層輝きを増している。
形の良い唇、通った鼻筋、やや切れ長の目の中にはコバルトブルーの瞳が揺らめいている。
ドクッ。
ミナミの心臓が飛び跳ねる。
ー彼が、リュークリオン。
ー攻略対象者…!
ミナミは胸の高鳴りが抑えきれずにいた。