ゲームの強制力はあるの?
避暑地でのバカンスを終え、ランクレッド家に戻って来ると、タクマに対する家族の態度が急変していてびっくりした。
あんなに兄をバカにしていたマクミリオンさえ、きちんと出迎えて「兄上」とか呼ぶしまつだ。
「…ミナミ、俺は16年間生きていて一番の恐怖を感じているよ」
「ははっ、本当にね」
ミナミとタクマはそれぞれ、自室に入り一息ついた。
「はあ~、ドミエール家の別荘は素敵だったけど、やっぱりあそこまで豪華だと疲れちゃうのよね」
庶民気質が抜けきれないミナミにとっては、ランクレッド家くらいが一番落ち着く。
ミナミは、リュークリオンと踊った時の事を思い出していた。
まるで夢の様…なんて表現、今まで大げさだと思っていたが、リュークリオンと踊っている時は本当に夢なのかと思った。
リュークリオンが、真っすぐに自分を見つめていた。
自分を、自分だけを。
いつもアンジェリカだけを見つめ、アンジェリカの事しか考えていない彼が、今は自分だけを見ている。
彼も自分の事を思ってくれているのではないだろうか。
そんな錯覚さえ起こさせる。
いつまでもこの瞬間が続けばいいと思ったが、時間はあっという間に終わりを告げた。
ダンスが終わるとリュークリオンの足を1度踏んでしまったことをこれでもかと言うくらい罵られた。
やっぱりこいつにときめいたのは気の迷いかと思った。
ランフオースの「俺は4回踏まれた」という、フォローを思い出し、ミナミはクスッと笑った。
あの時のあきれた様なリュークリオンの顔、見ものだったわ。
ミナミは改めて前世のゲームと今いるこのミナミの世界を考えてみた。
…設定は大体ゲーム通りだわ。
私は光属性で、ランクレッド家の養女になる。
アンジェリカは皇太子のリュークリオンと婚約する…。
でも、池に落ちたのはミナミではなくアンジェリカだし、そもそもミナミを避暑地に誘ったのはミュークリオンではなくアンジェリカだ。
それに、入学当初、どうにか前世の知識でリュークリオンとフラグを立てようとしたのに全く立たなかった。
ー大まかな設定はあるものの、個人の行動は制限されていない??
でも、絶対に私と踊らないと思っていたリュークリオンが私とダンスを踊った…。
細かいことは、自由にできても大筋は変えることができないとしたら…。
もし、ゲームの強制力が働いているとしたら…、やっぱりアンジェリカは断裁されるの??
そんな事を考えていると、部屋をノックする音が聞こえた。
トントンっ。
「ミナミ?今大丈夫か…?少し話がしたいんだけど」
タクマだった。
「マクミリオンはいったい何があったんだ?さっきも、避暑地でどうだったか教えてくださいなんて、目をキラキラさせちゃって。また今度ゆっくりなって、逃げてきちゃったよ」
困惑気味な表情を浮かべて、ミナミに言うタクマだったが、どこか嬉しそうだった。
ミナミは、何はともあれ、このままタクマがランクレッド家で人権を取り戻してくれればいいと思った。
「まあ、いつまで続くかわからないけど、少なくともバケーションが終わるまでは続いて欲しいものね」
「だなっ」
ふう~っと息を吐くタクマに、ミナミはずっと思っていたことを切り出すのだった。
「ねえ、タクマ、アンジェリカ様と何かあった??アンジェリカ様が池に落ちてから、タクマの様子がおかしかった様な気がするの。ただの罪悪感だけじゃない様に見えたわ…」
「…流石ミナミ。相変わらず人の機微には敏感だねえ。自分の事には案外鈍感なのにな」
え?なんかちょっとディスられてる??
「うん…。実はさ、聞いちゃったんだよね。アンジェリカ様とミナミの話を」
ーえ?話ってどの話を?!
「…なあ、ミナミ…前世ってどういうことだ?!」




