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談話室へようこそ

「…こちらのソファーをお使いくださいね」

「ありがとう、アンジェリカ様」

タクマはそう言って、ランナを優しくソファーにおろす。

「ありがとうございます、タクマ様」

そう言うとランナはふうーっと息をもらす。

ランナは、ここに来る道中、好奇と羨望のまなざしを受けて、恥ずかしいやらなんやらで生きた心地がしなかったが、ようやく落ち着けたのだった。


「アンジェリカ様、応接室を案内して頂きありがとうございます」

ランナが改めてアンジェリカにお礼を言う。

「えっ?…ええ、いいのよ、これぐらい気になさらないで」

そう言うアンジェリカだが、どこか浮かない表情だ。

ミナミは不思議に思い、アンジェリカに問いかける。

「どうしたの?さっきから、何だか浮かない顔をして…はっまさか!」

「…!!」アンジェリカはドキッとしてミナミを見る。

「やっぱり、談話室を勝手に使うのはまずいのね!きっと後でリュークリオン様達に怒られてしまうんでしょう?」

「え?」

アンジェリカは自分が予想していた言葉とあまりにも違い過ぎて拍子抜けた。


それを聞いて、ランナとタクマもはっとする。

「ごめんなさい!すぐにお暇するわ!」

「俺たちアンジェリカ様の優しさにすっかり甘えて…」

「いや、違いますわ…その…」

もはやアンジェリカの言葉を聞かない3人はそそくさと部屋を去ろうとする。

「ランナさん、立てるかい?無理ならもう一度俺が抱きかかえていくよ…」

タクマがそう言った時だった。

「だっっっだめーーー!」

突然のアンジェリカの叫びに3人は驚いて止まってしまった。

「とっとにかく、私の事は本当に気にしないでいいので、どうか、ランナさんが落ち着くまでここにいて下さい…お願いします…」

大声をあげてしまって、恥ずかしかったのか、アンジェリカの声はだんだんと小さくなって言った。

3人は顔を見合わす。

「おっ…お茶を今淹れてきますわ!ゆっくりなさって!」

アンジェリカはそう言うと、そそくさとお茶を淹れ始めた。

耳まで真っ赤なのが後ろ姿でもわかるぐらいだった。

「…なんだか可愛いなあ」

思わずタクマがそう漏らしたのを女子二人は聞き逃さなかった。

「いやっ、だからってどうもしないよ?間違っても皇太子様の婚約者に手を出そうなんてそんな…」

慌ててタクマが言う。

ー恐るべし!…愛され令嬢!

ミナミは前世のゲームでは自分がそのポジションにいたというのはもはや幻だと思うことにした。


アンジェリカがお茶を淹れて戻ってくると、ドアをノックする音が聞こえた。

「アンジー?居るのかい?入るよ」

そう言って、パトリオット、セシリオ、ランフォース、そしてリュークリオンが入って来た。


ーげっ。

なんだか面倒くさそうな予感がする。


「おい、お前、明らかに面倒な奴がきたって顔したよな?」

「気のせいです」

ミナミのあからさまに嫌そうな顔を見て、早速リュークリオンが絡んでくる。

「まあ、いい。それより、アンジー!ヘッドレッド家の令嬢に絡まれたと聞いたぞ!大丈夫だったのか??」

リュークリオンは、アンジェリカの手を握り、心配そうに顔色を顔を覗き込む。

「ええっ、まあ、なんともありませんわ。それより皆さま見てますから。お手をおはなしになって下さい」

「別に気にすることないだろ」

そう言って、はなそうとしないリュークリオンをパトリオットが制する。

「まあまあ、あんまりアンジーを困らせないの!」

「ふんっ」

リュークリオンはしぶしぶアンジェリカの手を離す。

パトリオットはこちらを向き直すと、「実はランフォースと僕はさっきの見ていたんだ。ミナミさん、大変だったね」

そう言うとパトリオットは同情するような顔をこちらに向けた。

「いえ、私は別に…。私のことをよく思わない人がいるのは知ってますから。それに元平民ですから。まあ予想通りと言ったところでしょうか。それより心配なのはランナさんよ!あの令嬢たちに目をつけられてしまわないか心配だわ。もう、私の事なんてほっておいて良かったのに…」

「だって、私、ミナミさんが部屋に戻った後も寝る間を惜しんで勉強していたの、知っていましたもの。それなのに、何もしらない人たちが好き勝手言って…。とても黙ってられなかったの」

「ランナさん…」

「でも、駄目ね、結局言い負かされてしまったし、最後には腰が抜けてしまって…。慣れないことはするものじゃないわね」

そう言ってランナは笑った。

「あなたは駄目ではない」

そこへ急にランフォースが口を開いた。

「珍しい、ランフォースが会話に入ってくるなんて」

パトリオットが少し驚いたように言う。

「別に。勇気ある行動をしたのに、自分を卑下する必要はないと思ったから、そう言っただけだ」

それだけ言うとランフォースはいつものように仏頂面に戻ってしまった。

「あっ、ありがとうございます…」

ランナはタクマのお姫様抱っこに続き、自分の顔が赤くなるのを感じた。



「それから!アンジェリカ様!改めてありがとうございました、本当に素敵でした」

ミナミは改めてさっきのアンジェリカを思い出していた。

扇子越しに相手を威圧するような態度…。

ー悪役令嬢みたいで…とは言わないでおこう。


「久しぶりに扇子越しのアンジーを見たねぇ」

「パトリオット様!からかうのはおよしになって下さい!」

恥ずかしそうにアンジェリカが言う。

「あのっ…どうか怖い女だと引かないで下さいね」

そう言ってチラッとこちらを見る。

もちろん、引いたりなんてしないのに。

「はん、アンジーのあの姿を見て引くなんて無礼にもほどがある!そんな者は私が片づけてやるさ!」

「もう!リュークは黙ってて下さいな。今私は、ミナミさん達に聞いているんですから!!」


イチャコラするなら向こうでやってくれと思うミナミであった。


「アンジェリカ様のこと、素敵だとは思えど、怖くて引くなんて者は、ここには誰もおりませんよ」

そうタクマが答えると、アンジェリカはほっとしたように、「それなら良かったですわ」と胸をなでおろした。

リュークリオンはなんだかそれが気に入らず、アンジェリカを後ろからぎゅっと抱きしめるのだった。

「ちょっ!急になんですの?リューク??離して下さいまし!」

ーだからさあ、イチャコラは向こうでやってくれよ!!

本日2度目のミナミの心の叫びだった。


「それにしてもさあ、ヘッドレッド家のお嬢様…ミナミがソルビット先生と親しいとか、なんで知ってたんだろうなぁ。ミナミの前回の順位も最初から知ってたみたいな口調だったしさ…」

タクマが不思議そうに話す。

確かにそれはミナミも不思議だった。

「元平民でリュークリオン様にまとわりつく勘違い女だと、今も警戒されていたのかしら??」

自分で言っていてなんだか悲しくなる。

そして誰も否定してくれない。

えっ?うそ泣きたい…。


「…それはセシルオが知ってるんじゃないの?」

ため息を吐きながらパトリオットが口を開いた。

ーえ?セシリオ?

さっきからミナミは違和感を感じていた。

いつもならリュークリオンの暴走?を一番最初に止めるのはセシリオである。

だが、どういうわけか談話室に来てから一言もセシリオが発言していないのである。

あの、普段無口のランフォースさえ口を開いたのに!!


「う~ん、まあ、そうだねえ。一つの可能性としてあるかもなんだけどね」

なんとも歯切れの悪い言い方をするセシリオに代わってアンジェリカが口を開く。

「セシリオ様とセルジュール様は親が決めた婚約者同士なのですわ」

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