第0話 新共和国
これは、魔術というものが存在している世界の話。
この世界では、魔術が産業や工業、果ては政治にまでも幅が及ぶため、魔術こそが権力の象徴とされてきた。
しかし、そんな絶大な力を扱うにはまだ人類は未熟であった。
文明が発達していくにつれ、国の間で争いが増えていく。たまに、戦争に勝利した一つの国が王国としてこの世を支配し統治する時期もあったが、すぐに内乱が起きて滅ぶため、誰かがこの世を支配しては滅び、また他の誰かが支配するの繰り返し。
そこで、ある国が共和国をつくり、支配ではなく協力による統治を促し、世界に暫くの平穏が約束された。
…が、共和国とはいっても、どの国々も対等な権力を持っているわけではなく、力持たざる弱小な民族には発言権はおろか、経済的な手助けなどなく、むしろその土地に資源があれば搾取され淘汰されるだけ。常に共和国の場にいるのは強き民族のみであった。
このような状況なので、故郷を捨てはるばる首都へと難民が流れてくることもしばしばあった。しかし、そんな難民に対して国民は寛容ではなく、その者たちを奴隷としてこき使い、その上差別してきた。それに対して政府は見て見ぬふりを決め込むばかり。
そんな世間の流れを見た平等と平和を願う数人の政治家が、首都圏での奴隷制度取締法と難民に対する基本的な人権の尊重を制定。これで国民難民共に平和に暮らせると思われたが、今までの扱いに不満を募らせていた元難民は、すぐさま反乱軍を結成し、共和国に対して戦争を仕掛けた。これが、人類史上最大規模の大戦争、
第一次民族大戦である。
奴隷から解放されたことで武力を取り戻した元難民たちによる反乱軍の軍事力は凄まじいものであった。
津波の如く押し寄せる火の海。世界の終焉を彷彿させるほどの魔術による嵐。
一つ一つの民族は軍事力があまりなかったのだが、魔力総量が高い人種が多いため、強大な兵器を持たずとも反乱軍の戦力は共和国の軍をもしのぐほどであった。
大戦は次第に激化していき、20年にも及ぶ大戦争は、ついに白旗を上げた共和国によって反乱軍の勝利という結果で幕を閉じた。
その後、それぞれの民族間で平和条約を制定し、新共和国として生まれ変わった。
冬から春へと変わりゆく時期、空気中に含まれる魔力が活性化されることを一年の節目とし、魔力暦が定められたのだった。