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おにぎり:Lv999

作者: 芹井 由

スキルとはなにか。

そう聞かれてあなたはどう答えるだろうか。


例えば、その人が持つ技能、能力を可視化したもの。

もしくは、スキルレベルに合わせて、世界をねじ曲げるような能力。


近年では後者の方が多く見かけることだろう。

神や世界から与えられた、人ならざる力。

その人がそのスキルに対して知見を持つか否かに関わらず奇跡を起こせてしまう力。


これはそんな力が生み出した、とある悲劇の物語。


―――――――――



「おにぎり食べたいなぁ」


その時唐突に白米に飢えていた男はそう思った。

そしてたまたま、それを通りがかりの神様が聞いた。

なに、たまたま目の前で死んだ人間を異世界におまけつきで転生させてくれる神がいるくらいだ。通りすがりの人間の望みを叶えてくれる神だってそりゃあいるだろう。


『ほいよ』

ぽん。


「え?」


男の目の前には『おにぎり:Lv999』の文字が浮かび上がっている。


「なんだこりゃ?」


あまりにもふざけた文字に呆れの声を上げる男。

それもそうだ。おにぎりはなんだかわかるが、Lv999ってどういうことだろうか。

まさかおにぎりを美しく握るスキル?

そんなくだらない考えに思わず笑ってしまう。

もしかして生産できる能力だろうか。無限に生産できるなら、生産したものの物量で戦う主人公を見たことがある。戦うことだって不可能じゃない。


「おにぎり、出ろっ!」


なにも起こらない。どうやら無からおにぎりを作り出すスキルではなかったようだ。

では何かを握ってみよう。

そう思って男はコンビニへと向かった。


さっそくコンビニで米の入った弁当と、ついでに菓子パンを買った男。

弁当の蓋を開け、意気揚々と米に手をかざした。


「おにぎりになれっ!」


するとどうだろうか、弁当に入っていた米が、見事な三角形のおにぎりに変わったではないか。

しかも米の鮮度まで上がっている気がする。

艶々ふっくらの米は今にもかぶりつきたくなる。男は我慢せずにかぶりついた。


「うっっま!なにこれうっっま!塩も振ってないのに!」


食べきってしまうのが惜しくなるほど美味い!

だが物は有限だ。おにぎりは食べればなくなる。

後に残ったのは米の無い弁当だけだ。こんなもの、さっきのおにぎりの前ではおかずにもならない。


「ああ、もっとおにぎりが食べたい」


さっきのおにぎりを思い出した瞬間、残っていたおかずが三角形になった。

三角形になったおかずに、もしやと思い更におにぎりをしっかりと思い出し、想像する。

すると三角形のおかずは米の詰まった立派なおにぎりに姿を変えたではないか。


どうやらLv999だとおにぎりを錬成できるようだ。

男は喜んでおにぎりを食べ、まだ欲を満たせていないので菓子パンもおにぎりに変えた。

なんと便利な能力だろう。おにぎりがあまりにも美味しくて、他に何もいらなくなる。


腹を満たした男はそのスキルを自慢しようと、早速友達の家に遊びに行った。


「オレ、なんでもおにぎりに変えられるんだぜ!」

「はぁ?なに馬鹿なこと言ってんだよお前」

「いーからいーから、なんか食材貸してみ」


友達は不思議そうに冷蔵庫の中身を出して来たので、男はそれらをみんなおにぎりに変えてみせた。


「どうなってんのこれ!?すげー!でも変なの!」

「食ってみ!マジ美味いから!」


「うめー!」と二人して喜ぶ。

これは?こっちは?これも変えられるの?次々と試していく男と友達。

なんと腐った食べ物や無機物だっておにぎりに変えられたのだから凄いものだ。


「こりゃすげーぜ、無機物もおにぎりに変えられるなら、壁や金属だっておにぎりにできる。銀行強盗だってなんだってできちまうぜお前!」

「ああ、俺もそんな凄い能力だなんて思わなかった!」


男も友達も大興奮だ。

試しに街に繰り出して、雑草をおにぎりに変えてホームレスに配り歩いたり、ゴミをおにぎりに変えて見せたりした。

なんて便利な能力だ、しかもおにぎりも美味いじゃないか!

あっというまに男は人気者になった。


男の噂はたちまち広がって、各国から食糧支援の要請が送られ、引っ張りだこになった。

貧困にあえぐ土地ではゴミをおにぎりに変え、武装地域では武器を片っ端からおにぎりにした。

男はその能力で世界を救ったのだ!


そうして自分にできることを一通り終えて満足した男はようやく休息を取り、一人で物を考える余裕ができた。

……それがいけなかった。


男は自分のスキルについて改めて考えた。


「待てよ、なんだっておにぎりに変えられるなら、()()()はどうなんだ?」


例えば虫なんかもおにぎりにできるのか。そんな考えをしていた時のことだ。

ぽん、と男のすぐそばで野良猫がおにぎりに変わった。

庭先では植木が、芝生が、飼い犬が、隣人が、次々におにぎりに変わっていった。


「な、なんだ?なんだよ!なんでおにぎりに変わってくんだよ!」

「なんだ?一体何が起きてるんだ!」


友達が飛び込んできた。

男の手を掴み、友達がそこから離れようと引っ張る。

先程見た光景が男の頭を過ぎった。

途端、友達の顔が三角形に変わった。


「…あ?なんで…」


まるでおにぎりのようだ。

ぽん。

友達が完全におにぎりに変わった。


「ぁ…ぁああ!!ああああああああ!!!!」


手の中に残ったおにぎりに、男は絶叫を上げた。

なんで。なんで!


真実を言えば、男がそれを「変えられる」と思ったからである。


スキルとはなんだろうか。

今一度問おう。

理を捻じ曲げるような力だった時、それを振るう人は詳細まで意識しているだろうか?

例えば「建築」のスキルを持っていたとしよう。

彼らが金槌を振るえば豪邸が建つようなスキル。しかし彼らは装飾の細部まで考えているわけではない。

あくまで彼らが想像したのは「それっぽい大きなお屋敷」だ。

ではその細かな装飾は何処から来たのか?

それはスキルによって自動(オート)で補われている部分だ。


つまりスキルは、「それができる」という自信と想像があれば、ある程度勝手にやってくれるのだ。

それは無論、スキルレベルが上がるほど補正も大きくなるだろう。

では、Lv999では。


男はそれまでさんざおにぎりを生成してきたせいで、詳細なおにぎりの想像はもちろん「それをおにぎりに変えられる」という自信、いや、固定観念すら持っていた。

それは男がおにぎりを想像するのをきっかけ(トリガー)に、認識したものを次々とおにぎりに変えていたのだ。


「やめろ、やめろ!もうおにぎりを作りたくないんだ!」


そう思ってもおにぎりは生成されていく。

おにぎりのことを考えないようにすればするほど、逆に頭に鮮明におにぎりが浮かんできてしまう。

「考えないようにしないと」「なにを?」「おにぎりを」

そんな負の連鎖が続く。


「わぁ!うちのポチがおにぎりに!」

「か、彼女が!彼女がおにぎりに変わった!」


悲鳴と怒号が上がる。

おにぎりを作り出せるのなんて男だけだ。すぐに被害に遭った遺族たちが乗り込んできた。


「お前よくも!」

「来るな!来ないでくれ!オレに認識されないでくれ!」


ぽん。

上がる悲鳴。ああ、もう嫌だ。

もう死んでしまった方がいいのではないか。

銃を構える音が聞こえる。もうそれに任せよう。

銃身から銃弾が放たれ…そう言えば弾頭って三角形してるよな。

ぽん。べちょべちょ。

男を貫くはずだった弾頭はおにぎりになって砕けた。


「ああ、ちくしょう、満足に死ぬこともできやしないのか!」


男は崩れ落ちた。

男を支えるものはもう大地しかない。

それ以外は全部が全部、柔らかく艶やかなおにぎりだ。

男に変えられないものは大地、いや、星だけ。


………いや、果たして本当にそうだろうか?


星を変えるには何レベル必要なのだろう。

それはLv999では不可能なのだろうか。



ぽん。



男は全てがおにぎりになったのを知った。


ああ、そうだ。ここにはもうおにぎりしかない。

もう何かをおにぎりに変えてしまうことを恐怖しなくていい。

全てをそのまま受け入れればいいのだ。

男はおにぎりの上に、おにぎりに埋もれるように横たわった。

そう、全てはおにぎり。

この世は全て一つ。男すらも。


ぽん。

友人とげらげら笑いながら話してたネタを書き起こしてみました。

つかぬことをお伺いしますが、どうやったらハッピーエンドになったんでしょう?

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