第63話
上澤に臆病者と呼ばれてから数日が経った。その間もこれといった手掛かりを見つけることはできなかった。上澤とミナとの縁談の話も吾郎が何も話してくれないらしく詳しい情報は得られていないようだ。
こうなると上澤に直接聞かないと分からないわけだが、避けられているのか目が合う度にすぐにどこかへ行ってしまう。彼からすれば僕とは話すつもりが一切ないのだろう。
僕の何が臆病者なのか、その理由が知ることだけでもできれば話は変わるのだが、全く分からなくて困り果てている。
瀬川の告白作戦もこの現状では全く進めることが出来ずに、とうとう文化祭の日が明日へと迫ってしまった。
文化祭の2日目の後夜祭に告白するからあと1日にあるとはいえ、あと1日でどうにかなるようなものなのだろうか。もしかすれば以前行き詰っていた時のように謎野からの電話もあるのではないか期待していたのだが、今日までかかってくることはなかった。
複数の案を頭に浮かべては実行できないと没にしたりと考えを巡らせながら帰路についた。
鍵穴に鍵を差し込むとしまっていないことに気づいた。戸締りを忘れたのか? いや、しっかり占めたと思うが。
僕は恐る恐る扉を開ける。万が一に備えてすぐに逃げれるような体制で部屋に上がる。
「おかえり、随分と遅かったじゃないか」
「……なんでいるの?」
僕の目の前に広がる光景は先程の恐怖の感情を一気に呆れさせるほどのものであった。
「お義父さん。来るなら一言言っておいてよ。泥棒がいるんじゃないかとヒヤヒヤしたんだから」
「悪いな。最近顔も出してくれてなかったし、驚かしてやろうと思ったんだ」
この人は、僕の両親が亡くなった時に引き取ってくれた。父の実の兄であり、僕の伯父さんに当たる人だ。
「言ったでしょ、バイトを始めたから夏休みは帰れなかったって」
「だから学生の間はバイトなんかしなくていいと言ったじゃないか。ちゃんと弟からも養育費は貰っているし、なにより俺もそこそこ稼いでいるんだぞ」
父は何かあった時のために僕にお金を残しておいてくれたらしい。弟の遺言だからと、叔父は自分の子供のように僕を育ててくれた。
「何から何でも頼っちゃうのは良くないじゃん、できることなら自分でもがんばりたいと思ったんだ」
「無理をしないなら別に止めない。ただ勉学を疎かにしてまではする必要がないからな」
「それはもちろん」
義父は僕の気持ちを一番に考えてくれる。今だって僕がバイトをしたいという気持ちを考えてくれているのだから。
「ところで今日は何をしに来たの?」
「明日文化祭なんだろ? だから遊びに来た」
「遊びに来たって……、お義母さんは?」
「母さんなら仕事が忙しくて来れないようだ。申し訳なさそうにしてたぞ」
「それは忙しそうだね……」
「ああ、だから今度顔を見せに行ってくれよ」
この時代に戻ってきてから、勉強だの、アルバイトだの、指令などで全然家族のことを考えられていなかったからな。冬休みは必ず帰るとしよう。
「今日は泊っていくの?」
「いや、少し顔を見たかっただけだから、もう帰るさ。明日の文化祭も少しではあるが寄るつもりではあるからな」
「そっか」
「なんだ寂しいのか?」
「全然」
僕のそっけない態度に少し義父はダメージを受けているようだった。だが、すぐに真面目な顔へと戻った。
「何か最近困ったことがあるのか?」
「ん、何で?」
「顔が暗いからだ」
家族にもポーカーフェイスは通用していないらしい。こちらの心の内をしっかり読み取っている。
「実は……」
僕は今抱えている問題について話した。とは言っても、タイムリープのこと龍ヶ崎家のことは伏せてだ。あくまでも上澤に臆病者と言われたことに対してだけだ。
「なるほどな」
「お義父さんは何か知ってる?」
義父は難しそうな顔をした。何かを隠しているのはすぐに分かった。
「知っていることがあるなら教えて」
だけど義父は首を縦に振らなかった。
「悪いな恭也。これは弟との約束なんだ。その時が来るまでは教えることができない」
「その時って」
「まぁそんな急ぐな。そう遠くない未来、恭也も知るときが来る」
そう遠くない未来っていつだよ。ここから6年先の未来までで僕はそんなこと知らないかった。それに僕は今すぐ知りたいのに。
「残念ながら今教えることはできない。だが協力できることはある」
「協力?」
「上澤くんの連絡先は分かるか?」
連絡先は交換出来てはいないが、瀬川に聞けば分かるだろうか。
「少し待って」
瀬川に上澤に連絡先を教えてくれるようRIMEを打つとすぐに返信が返ってきた。
「一応分かったけど」
「じゃあ、少し借りてもいいか?」
そういって義父は僕から携帯を受け取り、電話を掛けた。すぐに上澤は出たのか、義父は僕には聞こえないよう別の部屋へと出て行った。
5分ぐらい経った頃だろうか。ようやく義父は戻ってきた。
「ありがとう」
そういって義父は僕にスマホを返す。
「それと上澤くんから伝言だ。明日の文化祭が始まる前に会いたいそうだ」
「お義父さん、一体何を話したの?」
あんなに僕から避けようとしていたのに、急に会ってくれるだなんて。
「別に脅しちゃいないさ。でもこれで問題は解決するはずさ」
「そう。ならありがとう」
お礼を言われて少し義父は照れ臭そうにしていた。これ以上義父に訊いても教えてくれることはなさそうなので、その時というのが来るのを待つとしよう。
それよりも義父が帰るまでの短い時間ではあるが久しぶりに親子で何気ない会話をするのが良いだろう。




