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第47話 跡継ぎ①

「……」

「……」


 客室の空気が一気に重くなった。それは言葉にするまでもなく、龍ヶ崎家の当主である吾郎が入ってきたことに他ならない。1つ1つの所作に厳かな雰囲気を感じる。


 それだけならばいいのだが、何十年も当主であり続けたことで身に付けたと思われる鋭い眼光は僕の心などいとも簡単に読み取りそうだ。この人の前では嘘をついたところですぐに見透かされる、そう思えてしまう。


 齢70とは思えないほど、若々しく見える。これはまだまだ現役から退くことはないだろう。


「おじい様、恭也さんにお話ししたいことがあったのですよね?」


 吾郎も僕も沈黙を貫いていたが、その雰囲気に耐えられなくなったのか、ミナが吾郎に話をするように促す。


「そう畏まらんでも良い。別に儂はお前さんを取って食おうなどと思っておらん。ただ純粋にミナの認めた人物とやらをこの目で見たくなっただけじゃ」

「……そうですか」


 そう言われたからといって、緊張をほぐせるわけもなく、僕はただビクビクと吾郎から発せられる言葉を待つだけだった。


「さっそくじゃが、本題から行かせてもらうぞ」

「はい」


 僕を呼び出した用件。わざわざ吾郎自らが僕に会いに来て話すのだ、余程重要なことなのだろう。


「恭也、お前さん……龍ヶ崎家を継ぐ気はないか?」

「は……?」


 理解できない。急に何か言い出せば、龍ヶ崎家を継ぐだって? 何を言っているのだろうかこの人は。


「僕がですか?」

「なんじゃ、伝わらんかったのか? もちろんお前さんの他に誰がいる?」

「ミナさんじゃダメなんですか?」


 龍ヶ崎家の正当な後継者は吾郎の孫にあたるミナのはずだ。何故それを差し置いて龍ヶ崎家と関係のない僕が龍ヶ崎家を継ぐという話になるんだ。


「私、この家を継ぐつもりはありませんよ?」

「え? そうなの?」


 飛んでも発言を聞き、僕の心はさらに乱される。ミナが龍ヶ崎家だと知った時には龍ヶ崎家の当主になるみたいな雰囲気を醸し出していたはずだが、それは嘘だったということか。


「確かにこの家に生まれたことで何不自由なく生きてこれたのは本当です。ただ、その後の人生までも決められてしまうのは私嫌なんですよね。もっと自由に行きたいですし」

「ということだ。娘も自由に仕事を選ばせてやったのに、孫には選ばせんというのもな不公平じゃろ? それに頑固じゃから何を言っても無駄なことはわかっとる」


 ミナ=頑固というのは僕の中でも納得がいく。何せ、夏祭りに行くだけでも何度、千順が折れていたことか。


「ミナさんに後を継がせる気がないのは分かりました。でもそれにしたってどうして僕なのですか? 僕は龍ヶ崎家に関係のある家系でもないですし、もっと適任者がいるのではないですか?」

「何を言っとるんじゃ? お前さんがミナと結婚すれば丸く収まるではないか」

「おじい様⁉ 何を急に言っているのですか?」


 吾郎のとんでも発言を聞き慌てふためくミナ。


「どうじゃ名案じゃろ?」

「お断りさせていただきます」

「恭也さん⁉」


 この人の前で嘘をついたところですべて見透かされる。であるならば差し世から嘘偽りなく話すのがよっぽどマシだろう。


 僕にとってミナは読書友達。それにミナは久志のことが好きだからな。僕とミナが結婚することはどの世界線でもありえないだろう。


 ミナはというと、僕にきっぱりと断られたのが多少なりダメージがあるのか、落ち込んでいた。


「冗談はここまでにして、ミナ。儂は恭也と大事な話がある。悪いが席を外してもらえんか?」

「そうなのですね、分かりました」


 ミナは席を立ち客室から出ようとしたとき、再び吾郎がミナに話しかける。


「あの約束はしっかり守るんじゃぞ」

「分かっています。おじい様もしっかりと守ってくださいね」


 約束とは何なのか、気になることはあるけれどそんなことを聞けるような雰囲気でもないので、心に留めておくことにした。


 ミナが客室から出て行くなり、吾郎の鋭い眼光は再び僕を捕らえた。


「ミナもいなくなったことだ。本題に入るとしよう」

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