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第38話 すれ違い

――――――――――――――――――――――――


「私、体育祭で優勝出来たら楠本さんに告白しようと思ってるんです」


――――――――――――――――――――――――


 どうやら金山は期末考査の成績発表の日に告白できなかったときからもう一度久志に告白するタイミングを探していたらしい。


 もし体育祭で優勝することができれば、校舎裏に呼び出してそこで告白するつもりのようだった。


 そして、選抜リレーで久志が1位をキープ。その結果僕たちEF組は体育祭で優勝した。優勝したと分かるなり、僕は金山に校舎裏に来るよう呼び出されていた。


「それでこれから久志を呼び出すんじゃないの?」

「そうなんですが……緊張が凄くて。ちゃんと言えるか心配なのです」


 僕も鶴井に告白した時は凄く緊張したな……結果はフラれたけど。でも久志は金山のことがまだ好きらしいし、告白すれば間違いなくOKを貰えるだろう。


「大丈夫? かなり震えてるみたいだけど」


 僅かではあるが、金山はぷるぷると小動物かのように身体を震わせていた。そりゃ緊張するなという方が無理があるか。


「そんなに緊張してるなら、久志を呼び出す前に練習してみたら?」

「練習ですか?」

「そう、一度声に出して言ってみるだけでも、緊張がほぐれるんじゃないかな?」


 う~んと考える素振りをした後、


「そうですね、やってみましょうか」


 自分の中で納得したのかそうつぶやいた。


「練習相手も欲しいので恭也さん、私の前に立ってもらっても良いですか?」

「まぁ、それぐらいなら」


 練習した方がいいと助言したのは僕であるし、最後まで協力すると言ってしまったからな。


「それじゃあ、いきます」


 金山は一度深呼吸をしてから真剣な眼差しで僕の方を見た。


「私と付き合ってください」


 僕に言われているわけではないと分かっているものの、一瞬ドキッと感じてしまった。これを断るような人はいないだろうと思えるほど、金山を可愛く思えた。


「どうでしたか?」

「良いと思うよ。後は久志に伝えるだけだね」

「はい‼」


 『ガサッ』と誰かが草木を踏んだのか、後ろの方から音が聞こえた。振り向いて見ると、そこにいたのは久志だった。


 やばい、そう思ったのも束の間、久志はその場から急いで立ち去るように走って行ってしまった。


 急いで追いかけたいところだが、すでに自身の身体は限界であることに加え、例え健全であっても久志に追いつくことは無理だと分かっていた。それならば、今僕がしなければいけないのは金山のフォローの方かもしれない。


 久志から見た構図は完全に金山が僕に対して告白しているところだ。好きな人に勘違いされたとあっては、どうしていいか混乱してしまっているはずだ。


「あれは、勘違いさせてしまったかもしれませんね」


 そう思っていたが、金山は至って冷静であった。何事もなかったように平然の顔さえしている。


「意外と冷静なんだね。もう少し戸惑うかと思った」

「これでも動揺はしているんですよ。ただ動揺は顔に出すなと小さい頃から言われていましたから、ポーカーフェイスが得意なのです」

「そうなんだ……」


 金山も僕と同じようなことを小さい頃から言われていたんだな。それでも金山は龍ヶ崎家の跡取りであるし当然と言えば当然の教育か。普通の家のはずの僕の方が珍しいか。


「ただ、少し予定が狂ってしまいましたので、今日はこの辺で失礼させていただきます」

「その方が良いかもね。また何かあれば連絡してね。喜んで協力するから」


 今の久志には何を言っても届かないだろう。それならば日を置いて冷静になったところで改めて告白した方がいいかもしれない。


「ありがとうございます。では、恭也さんまた夏休みに」


 そう言い残して金山はグラウンドの方へと戻っていった。


 金山の告白計画は失敗してしまったが、それ以外のことは上手くいくことができた。謎野からの指令は無事達成が出来た。これで僕たちの高校生活はしばらくの間は続けられそうだ。

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