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第0話 プロローグ

 ―――私立夕才(ゆうさい)高校


 卒業生の多くが一流企業への就職や政界に進出していることから、入学するだけで勝ち組になれるという噂があるほど受験生やその保護者から人気の高い高校である。その噂を真に受けた多くの受験生が、それを目当てにこの高校を受験していた。


 そして僕、内海恭也うつみきょうやもかつてこの夕才高校に通っていた。3年間の総合成績では学年で6位という好成績を残したため、ほとんどの大学であれば推薦で進学ができ、将来は安泰なはずであった。


 だけど、僕はその選択をすることはなかった。そして、あろうことか自身にはレベルの高すぎる大学へと一般入試で挑戦してしまった。


 結果など言うまでもないだろう。初めから推薦を選んでおけば受かっていたはずの大学も、一般入試で受けたことで掠ることもなく落ちた。


 不幸中の幸いだったのは、滑り止めとして受けていた大学は合格することができていたため浪人という結果にならずには済んだことだ。


 とはいうものの、一度敷かれたレールから外れてしまえば立て直すのは難しいものだった。その後の大学生活でも思うように過ごすことが出来ず、あっという間に就活シーズンとなった。


 そして案の定、就職活動も上手くいくことはなかった。夕才高校の卒業生というブランドはあったものの、大手企業からは書類選考で落とされ、面接にすら進むことはなかった。


 理由は明確であった。夕才高校の名というブランドの実情は噂とは大きく異なり、たとえ入学できたとしても必ず勝ち組になれるわけではなかった。


 まず1つは、一定の成績が修められなければ問答無用で退学させられることだ。僕の代では卒業する頃には入学した時の30%の生徒は退学していた。


 そして、多くの生徒が目的にしていたであろう一流大学への推薦は、夕才高校で上位の成績を修めた者だけであった。そのため、夕才高校を卒業していながら偏差値の低い大学へ通っているだけで企業からの評価は大幅に下がる。


「コイツは夕才学園で怠けてたやつだ」


 そういった先入観を持たれてしまうのだ。だからこそ、たった4年間の大学生活では簡単にこの評価を覆すことはほぼ0に等しい。


 だからこそ、夕才高校は弱肉強食の世界というのが正しい見方だ。弱いものは社会的地位を失い、強いものは高い地位を得られる。


 ここまでくれば、何故僕がその恩恵を捨ててまで推薦で大学へ行かなかったのか疑問に思えてくる頃じゃないだろうか。


 僕だって入学当初はこの高校の特典を使うつもりであった。そのために上位の成績を1年生の頃から取っていたのだから。


 だけど、たった1人の女性、鶴井沙織つるいさおりに出会ったことによって、僕の人生は大きく狂わされることとなった。


 彼女は2年生1学期の期末考査まですべての教科で学年1位を取っていたうえに、身体能力も校内で1,2位を争うほど優れていた。一言で言ってしまえば、まさしく完璧超人であった。


 そんな彼女であるからして、学年を問わず多くの男子生徒からの人気は非常に高くあった。高校生活の3年間で何人の男子生徒が告白しては玉砕していったかなんて数えきれないだろう。


 彼女に対して僕は初め、単に頭が良い生徒という認識しかしていなかった。何故みんなして彼女を好きになるのだろうか不思議でたまらなかった。


 実際に話してみたことで気が合った、楽しかったとかであるならば、十分納得はできるのだけれど、彼女が男子生徒と話しているところなど見たことはほとんどなかった。


 それなのに、彼女に告白する人が多かったのは、超がつくほどの美少女でもあったからに違いないだろう。整った顔立ちに、長く真っすぐに伸びた茶色の髪は多くの生徒の目を引き寄せた。


 男子からすれば鶴井は自分たちの隣に置きたいそんな存在であったのかもしれない。ただ僕にはそれが理解できなかった。顔だけで誰かを好きになる、そんなことが本当にあるのか不思議であった。


 そんな僕であったが、体育祭で彼女と関わるようになった。それまで一切の絡みはなかったのだが、全員リレーで僕が彼女にバトンを渡すことになった。


 そのきっかけから僕は彼女と話すようになった。最初こそはただの女友達。そういった意識しか持ち合わせていなかった。


 だけど文化祭、修学旅行と接する機会が増えていくうちにいつの間にか僕は彼女に恋心を抱いていた。


 そしてつい僕は欲張ってしまった。修学旅行最終日、気分が高揚していた僕は彼女を呼び出し、告白した―――そして振られた。


 ここで彼女のことを諦められていたのならば、どれほど良かったことだろうか。彼女への恋心はもはや呪いのようであった。忘れようとしても忘れられない。そんな日々が何日も続いて、僕の心を蝕んだ。


 そして僕はここで誤った選択をしてしまった。多くの大学への推薦を蹴り、彼女が行く大学へ僕も行こうと。そうすれば彼女に並び立てると大きな勘違いをしてしまって。


 気づけば手元に残ったのは多くの不合格の通知ばかり。そこでやっと僕は目が覚めた。


 ああ、彼女は高嶺の花だったんだと。自分なんかが決して欲してはいけない人間であったと。


 今更こんな後悔しても意味がない、そう思っていたのだが……


「なんで手を抜いたりしたんですか?」


 僕の目の前には1人の女性、鶴井沙織の姿があった。かつて彼女に恋をした時代、高校2年生の姿で。


 これは夢などではない、現実である。事実、僕は高校2年生から人生をもう一度やり直している。


 そして本来この時期には関わっていないはずなのだが、1学期期末考査の結果発表の日、僕は彼女に話しかけられた。


 何故この日、彼女が話しかけてきたのか、僕には分からない。


 そして何よりも僕に対して怒りを露わにしているのかますます分からない。


 とにかく今は、彼女の怒りを抑えることを優先しなければ……

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