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「鬼とカーラの恋の行方」

 結婚の決まっているシンヴレスは自分が増せているような気がしてならなかったが、それでも、鬼とカーラが気になっていた。

 二人とも三十代。平素もよく話し、剣の腕を磨き合っている。二人の心の秘密を知るのはシンヴレスだけであった。

 子供が出しゃばり過ぎるのもよくないとは思うけど、時は待っていてくれないんだ。奥手の二人を思いながら、シンヴレスはサクリウス姫に相談することに決めた。

 サクリウス姫は温室で成長した株に水や肥料を足したりしていた。

「そろそろ根詰まりを起こしそうですね」

 幾つかの観葉植物の物凄い成長ぶりを眺めながらサクリウス姫が言った。

「では、城下に土と大きな鉢を買いに行かねばなりませんね」

「そうですね」

 サクリウス姫が頷き、シンヴレスは思い切って口を開いた。

「サクリウス姫、実は、ある人達の恋を成就させたくてどうすれば良いのか、御助言をいただきに来ました」

 サクリウス姫は眼を瞬かせた。

「もう、四年ぐらい、二人は互いに気持ちをいだきながら特に動こうとしないのです」

「恋とはどちらかが告白しなければ、すれ違ったままですからね。そうですね、その二人に共通の趣味はありますか?」

「剣です」

 するとサクリウス姫は微笑んだ。

「鬼さんとカーラですか?」

「凄い、よく分かりましたね」

 シンヴレスは心底から驚いた。

「皇子の周りで剣を握る男女と言えばあの二人ぐらいなものですから」

 そこでシンヴレスは話した。カーラは自分を初めて打ち破った男を伴侶とすることを述べ、それが鬼であること。鬼の方は自分に初めて両手を使わせて剣を握らせた女性を結婚相手とすることを。それがその二人なのだ。

「時折、連日の休暇を与えて二人でどこかに行くのを勝手に期待はしていたのですが、ダメでした」

「二人は、お互い、恋が破れたらどうしようか不安なのでしょう。あの二人らしくも無い」

 サクリウス姫は言うと、シンヴレスを見た。

「皇子殿下、今日の護衛は鬼殿ですね?」

「ええ、そうです」

「では、ここは鬼殿に頑張ってもらうことに致しましょう」

 サクリウス姫は真面目な顔をすると、廊下への扉を開け、鬼を招き入れた。

 鬼は成長した観葉植物の数々を見て多少は驚いたようだ。

「鬼殿、お話があります」

「はっ、サクリウス姫様、何でもおっしゃって下さい」

「何でも?」

「ええ、何でも遠慮なく命じてください」

 鬼が答えると、サクリウス姫は言った。

「鬼殿はカーラを愛しているのですね」

 その言葉を聴き、鬼はシンヴレスを一瞬だけ見た。

「はい。彼女は私に初めて両の腕を使わせた女性です」

「本当にカーラを好いているのですか?」

 サクリウス姫が畳みかけると鬼はしどろもどろになっていた。

「カーラさん、カッコいいよね」

 シンヴレスは助け舟を出した。

「はい、女の身でありながら、目を奪われました。出会いこそ、最悪ではありましたが。彼女とともに剣で歩んで行きたい。おそらく、剣で歩んで行ける女性は彼女のみでしょう」

 鬼も思い切って思いを述べたようだ。

「この植物達に負けないように、鬼殿、あなたもカーラも成長して下さい。時間は待ってはくれません。植物達がここまで立派になったように、シンヴレス殿下がダンハロウを破った様に、もう時は充分満ちているのではないですか?」

「そう、思われますか?」

 鬼が戸惑ったようにサクリウス姫に問う。

「皇子殿下」

「うん。思うよ。鬼とカーラさんはいつだって剣を合わせて切磋琢磨してきた仲じゃないか。カーラさんが誰かに奪われても良いの? カーラさんはべリエルの人だよ。武者修行をしているし、そのうち思いを告げられないまま王都へ帰ってしまったら、それで良いの?」

「いいえ、よくありません」

 鬼は細い目を見開いて言った。

「だったら、少し急がなきゃ」

「ですが、カーラは、どう思うでしょうか」

「それは当たって砕けて見なければ分かりません。けど、鬼さんの誠意は伝わると私は思います」

 サクリウス姫が言った。

「皇子殿下の護衛は私がします。鬼殿は、カーラを探して、愛を告げに行きなさい」

 その言葉に鬼は泡を食ったような顔をした。

 シンヴレスは鬼に歩み寄り、頷いた。鬼も頷き返す。

「では、行って参ります」

「頑張れ、鬼!」

「はっ!」

 不動の鬼は、その異名に関わらず慌てふためいた様子で廊下を駆けて行った。

「サクリウス姫、ありがとうございます」

「二人が好き合う者同士なら、必ずや結ばれるでしょう。さぁ、殿下、政務のお時間に大遅刻ですよ」

「あ、行ってきます!」

 シンヴレスも廊下を駆けた。頭は願いでいっぱいだった。カーラさんが素直に鬼を受け入れてくれますように。二人とも誇り高い剣士だ。その誇りが要らぬ邪魔をするかもしれない。シンヴレスの危惧はそれだけだった。



 2



 政務を終えて隙間時間に中庭に剣の鍛練を行う。

 シンヴレス、サクリウス姫、鬼とカーラ、いつもの仲間達だ。

 シンヴレスはサクリウス姫と剣を交えながら、もう片側で、互いに激しい猛襲を打つ二人の様子を見ていた。上手くいかなかったのだろうか。立て続けに響く激しい鋼の音色に、シンヴレスは不安を覚えた。

 その時、肩鎧を強かに打たれて、我に返った。

「あの様子なら、心配は要らないでしょう。お互いの遠慮が本当の意味で無くなった証です」

 サクリウス姫が言った。

 鬼は両手で握り締めた剣でカーラのグレイググレイトを叩いている。一方のカーラも剣の重さと鬼の応酬に負けじと追いついている。シンヴレスはカーラが微笑んでいるのが分かった。とても楽しそうだ。鬼の方を見ると、彼もまた口元を嬉しそうに歪めているのが分かる。

 猛襲は一瞬止んだ。と、思った瞬間、膂力を乗せた最後の一撃が甲高い音を上げて激突したのであった。

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