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「闇騎士の再来」

 巡察に出ていたのが幸いだった。

「不動の鬼殿ー!」

 一人の兵士が泡を喰った様子で名を呼びながら駆けて来た。

「どうした?」

 不動の鬼が問うと、兵士は息を切らし、膝をついて喘ぎ喘ぎ言った。

「凄腕の城門破りが……アーニャ殿が相手を務めてますが……もちますかどうか」

「何だって!?」

 シンヴレスは驚いた。だが、兵士も臣下だ。アーニャだけでなく他の門番を傷つける者を許しては置けない。

「アーニャ殿で勝てぬのなら、この城で勝てる者はもはや」

 不動の鬼が難しい顔をする。

「ひとまず、行くわよ! あたし達だって剣士なんだから!」

 カーラの一声で、シンヴレスと不動の鬼は頷き走り出した。



 2



 入城者希望者達の列が大きく乱れていた。打ち合う鋼の音色、漆黒の鎧兜に身を包み、バイザーを下ろした賊が、アーニャの槍を次々剣で叩いていた。

「加勢を!」

「待って」

 シンヴレスは止めた。不動の鬼とカーラがこちらへ目を向ける。

「その勝負、帝国皇子のこのシンヴレスが預かる!」

 シンヴレスはそう言うと歩みを進めた。

「皇子、この者、とても強いです。迂闊に近付かないでください。このアーニャが何とかします!」

「大丈夫」

 シンヴレスはアーニャの肩を優しく叩き、賊に向かって一礼した。

 人々も臣下も呆気に取られていた。これは一国の皇子が賊を受け入れたという事実に変わりはない。

「闇騎士殿、お久しぶりでございます」

 訳の分からない人々の前でシンヴレスは言った。

「貴公がシンヴレス皇子か。五、六年前に会ったな。あの頃は守られるだけだったが、良い身体つきになった。甲冑も様になっているぞ」

 闇騎士が嬉しそうに言うと、人々はますます混乱していた。あちこちで首を傾げ静寂が包んだ。

「みんな、大丈夫?」

 倒れていた門番達に声を掛けた。

「我々は無事ですが、皇子殿下、これは一体」

「アーニャにも詳しく教えてください」

 門番達が唖然としながら言ったので、シンヴレスは彼らを集めて小声で言った。

「こちらの御方こそ、ベリエル王国の国王陛下であるリオル・べリエル様です」

「何だって!?」

 兵らは慌てていたが、敬礼すべきか迷っている様子だった。

「アーニャ、みんな、お騒がせしてごめんね。鬼、カーラさん、馬を持って来て下さいませんか?」

「無用無用、歩いて行く」

 闇騎士が言い、シンヴレスはならばと頷いた。



 3



「皇子、ダンハロウを破ったそうだな」

 闇騎士が楽し気に言った。

「破ったというよりも認めて貰えたと言った方が正しいと思います」

「我が妹を巡って、よくそこまで熱くなってくれたものだ。サクリウスが好きか?」

「大好きです!」

 シンヴレスが言うと、バイザーの下で闇騎士は大笑いした。その声は鉄仮面の中でくぐもり低い声音となっていた。

「ありがたい。竜のための国を造るには貴国との連携無くしてはありえないからな」

 数年前、闇騎士が妾腹の子ということで冷遇され、末将の一人であった頃、彼はシンヴレスとドラグナージークを襲った経緯がある。凄まじい刃の応酬を見たが、幸い剣の質で優っていたドラグナージークが勝つことができたが、おそらく隣に並ぶこの背の高い黒い剣士こそが大陸一の剣の使い手だろう。地上ではだ。空なら叔父であるドラグナージークが大陸一番だとシンヴレスは信じている。先王と議会を強引に粛清して王位を継ぎ、共に竜との共存を望み発展させるためにと、未来永劫の不可侵同盟を求めて来た。今はもう敵ではない、頼もしい味方だ。

「すぐ下にも町が出来ているようだが、あれは何だ?」

 闇騎士が問う。

「実はコロッセオを建てようと思いまして、その客達が滞在できる宿場町にしているのです」

「ほほう、面白いことを考えつくな。腕が鳴るわ」

 闇騎士は再び笑った。

「しかし、べリエル王陛下、今日は何故、我が帝都に?」

「深い意味はない。ただ、無理矢理送り出した妹の機嫌を伺いにな。だが、皇子が妹を好いてくれているのなら要らぬ心配だったやもしれぬが」

 その時、一頭の馬が前方から駆けて来た。真紅の外套を靡かせ、甲冑姿のサクリウス姫が腰の剣を抜いて立ちはだかった。

「賊だというから来てみれば、兄上でしたか」

「よぉ、妹、息災か?」

「はい、帝国の人々には良くして貰っています。お久しぶりです兄上。ただ、何でも門前で揉め事を起こしたそうではありませんか?」

 サクリウス姫が目を鋭くし、責めた。

「ただの座興だ。だが、あの女兵士はなかなか腕が立つ。我が嫁に欲しいぐらいだ。きっと強い子を孕むぞ」

「兄上!」

 サクリウス姫が声を上げ、リオル王は冗談だと言った。

「それにしても急な来訪何かございましたか?」

「用が無ければ来てはいけないのか?」

「当たり前です。一国の王が自ら動くのですから。帝国にも受け入れる時間が必要です」

「すっかり帝国の人間になったな。では、王城より、呼び声が掛かるまで、貴様らを揉んでやろう」

 リオル・べリエル王、いや、闇騎士は片手剣をスラリと抜いた。

「剣を収めてくださいませ、民が動揺します」

 不動の鬼が慌てた様子で言うと、闇騎士は溜息一つを吐いて剣を鞘に戻した。

「シンヴレス皇子、どこぞ、剣を振るえる場所は無いのか?」

「それでしたら、兵士の演習場へ行きましょう」

 シンヴレスが提案すると、カーラが言った。

「大丈夫なのかい?」

「む、お前がダンハロウの孫か」

「そうです、陛下」

 カーラは不機嫌そうに言った。

「各地を渡り歩いたそうだな心強い。姫の御守役を頼んだぞ」

「え、ええ。まぁ、姫も皇子も守るつもりはあるけど」

 カーラが戸惑い気味に応じると、ちょうど前方から騎馬隊が駆けて来た。市井の人々は慌てて周囲へ避けた。

「どうやら、剣を振るえるのは後らしいな」

 騎馬隊が隊列を左右に開け、イルスデン皇帝が、普段は着ない甲冑姿で出迎えた。

「ようこそ、ベルエル王」

 皇帝が言うと、兵士が五人、馬から下りて跪いた。

「イルスデン皇帝殿、特に用も無く急な来訪だが、しばらく滞在を許してくれるか?」

「勿論。王都の方は留守にして心配は無いのですか?」

「ああ。ダンハロウに指揮を取らせている」

「左様か。まぁ、ひとまず、城へ。長旅で御疲れであろう」

「ありがたい。それと、門のところに黒い馬がいる。そいつを厩舎まで連れて行って貰えまいか?」

「誰ぞ、向かわせよう」

 そして、皇帝と国王を先頭にシンヴレスらは兵士達から馬を借りて城へと戻ったのであった。

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