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「シンヴレスの発案」

 政務の時間、あまりにも民から窮状や不満を訴える声が多いことに、ついにシンヴレスも辟易してしまった。

「ディオンさん、民の心を一気に明るくさせる方法は無いでしょうか?」

 文官でシンヴレスの政務を手伝うディオンが軽く思案するように顔を天井へ向けると言った。

「恐れながら、皇子殿下には既にお考えがあると見ましたが」

 ディオンに見抜かれ、シンヴレスは頷いた。前々から心に温めていることがある。彼の脳裏には叔父であるドラグナージークの住むガランの町の様子が思い浮かんでいた。

「うん。ガランの町では竜を祭る祭事が行われてるんだ。ここは帝都なのにただ静かで治安が行き届いているだけの町、誰もが王宮に遠慮してはしゃいだりしない。だけど、発散の場所が必要なんじゃ無いかと思うんだ」

「なるほど」

 ディオンは頷いた。

「どう思いますか?」

「良い案だと思います。確かに帝都が静か過ぎるのに、息が詰まっている民衆もいると思います。もう戦争に怯えることもなくなったわけでございますし」

「だからですよね、小さいことが目に入ってこんな風に隣人を訴訟する様なものばかり送られてくるのは」

「左様ですね」

「ならば、この祭りは帝都全体を巻き込んだお祭りにできないだろうか」

「どのようなイベントかお考えはあるのですか?」

 ディオンが穏やかな声で尋ねてきた。シンヴレスはただの思いつきだったために、正直に答えた。

「いえ、まだ何も。ただ、ガランの町では人々が飛び入りで夜通し歌を披露したり、食べ物が無料で提供されているそうです」

「歌は良いですね。ガランの町では特に競ったりはしないように聴こえましたが」

「そうです。もう少し具体的なアイディアが出たら、また相談させて下さい」

「私で良ければ」

 ディオンは微笑んだ。

 そうして二人は政務に戻ったのであった。訴状はやはり、細かいところばかり訴えられている。平和なのにこんなに人の心に余裕が無くなるなんて変なものだな。と、シンヴレスは思ったのであった。



 2



 限られた時間を剣術に費やする。

 サクリウス姫と剣を交え、打ち合い、叩きのめされた。

「シンヴレス皇子、立てますか?」

「立てます。もう一本、お願いします!」

 と、言ったところでシンヴレスの脳裏を過ぎった。

「シンヴレス皇子?」

 サクリウス姫が怪訝そうに尋ねた。

「何か御悩み事でも?」

 鬼とカーラが競っているのを見て、シンヴレスは話した。

「実は、今、この帝都でもお祭りができればと思って考えていたのですが、一つイベントの案が思い浮かびました。平和になって腕自慢の竜傭兵達は自領の巡回ぐらいしか任務がありません。そんな彼らに再び闘志を燃やしてもらうべく、武術大会を開いてみてはどうかと思って」

「それは妙案です。人々も帝国領の腕の立つ者達を見て、感嘆、あるいは安堵することでしょう」

 サクリウス姫にそう言われ、シンヴレスは心が明るくなるのを感じた。

「遠方の人は来れないだろうけど、できれば帝国中の人々の耳に入る楽しく印象深いお祭りにしたいと思ってます」

「仮にその案が通れば、大きな工事が必要になりますね」

「工事ですか?」

「来訪した人々が泊まる宿がありませんと」

「確かにそうですね。……予算は大丈夫かな」

「皇子殿下、悩むのは後にして今は剣術を」

「そうですね」

 シンヴレスは木剣を正面に構えた。

「そらああっ!」

 咆哮し、サクリウス姫に向かって行ったのであった。



 3



「武術大会と歌唱力の大会が今の所の案です」

 朝食の席で、シンヴレスは父である皇帝エリュシオンに言った。

「祭をやる狙いは何かあるのか?」

「はい。民衆の鬱憤を晴らすためにございます」

「と、言うと?」

「実はディオンさんと政務をしていて、平和なのに、民同士での諍いが絶えない様子なのです。数々の訴状を目にしましたが、とても訴状と呼べるような立派なものは存外少なく、いざこざというものが多いように思うのです」

 シンヴレスの言葉を聴き、エリュシオンは先を促すように頷いた。

「民の鬱憤を晴らすことと、帝国が如何に平和なのかを噛み締めて貰うために、熱狂できる競い合いの祭にしたいと思っております」

「確かに腕自慢の竜傭兵らは鬱屈しているだろうな」

「ただ、国中から人々が来るので、受け入れる施設の増築が必要です」

「その通りだ。だが、城下はいっぱいだ。どうするんだ?」

「そこはまだです。歴史ある白亜の城壁を破壊するわけにもいきませんし」

「一つよろしいでしょうか?」

 サクリウス姫が言った。

「ならば馬車や竜で交通機関を埋めてみてはいかがでしょうか? 近隣の宿は大忙しになるとは思いますが」

 シンヴレスは助け船を出してくれたサクリウス姫を抱き締めたかった。

 エリュシオンは腕組みした。

「だが、来訪する民達の人数を侮ってはいけないぞ。話を聴く限り、面白いとは思う。だが、帝都が広いとはいえ、来客達を全て迎え入れられるのは到底不可能だ」

 父の言葉にシンヴレスは愕然とした。

「では、陛下、平和になり職業が危ぶまれるのは竜傭兵だけではありません」

 サクリウス姫が再び口を開く。

「というと?」

「国中から建築家達を集めて、コロッセオを建設してみてはいかがでしょう。普段時も戦士や、兵士達の華々しい活躍を見るための場所にすれば良いのです」

「なるほど、平素の戦士達にも目標が出来る場所になるということだな」

「父上、御裁可を!」

 シンヴレスが腰を上げ声を上げて言うと、エリュシオンは頷いた。

「宿の増設と交通手段、そして大勢を収容できるコロッセオ。シンヴレス、誰に助けて貰っても構わない。だが、お前の責任でこの計画を始めて見せなさい」

 皇帝エリュシオンが言い、シンヴレスは心が踊った。

「必ずや成功させて御覧に入れます!」

 シンヴレスの頭の中は既にどういう手順で、どこに何を建て、近隣のどの町に宿の増設を頼むかなど、目まぐるしく思案が行き渡っていたのであった。

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