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「好敵手」

 カーラは、嘘を吐いてはいなかった。皇帝立ち合いのもと、ダンハロウとの再会を喜び、ダンハロウの方も心から嬉しそうだった。カーラは本人が言っていたように武者修行に出ていたとのことだ。今後どうするのか、皇帝が問うと、しばらく帝都で剣の腕を磨きたいと言っていた。そして不動の鬼を指さした。

「この男に剣で勝てるまでは都を去るつもりはない」

 カーラはそう宣戦布告した。

 客分として部屋を与えられ、カーラは大満足に見えたが、次の日から追従するようにシンヴレスと不動の鬼に付いて回った。

 竜乗りの訓練としてシンヴレスが空を飛んでいる間、カーラは相当暇だったらしい。不動の鬼に何度も何度も勝負をせがんで来たようだ。不動の鬼はそれでも、断り続け、シンヴレスの訓練の終わりを大人しく待っていた。仲の良い竜舎の職員からそう聞いた。

「鬼、カーラ殿の剣の相手をしてあげても良いんだよ」

 シンヴレスが空からの帰還後に言うと、不動の鬼はかぶりを振った。

「ここで御曹司の帰還を待つのが私の役目です。それに、この女は剣を帯びてはおりません」

 そこでシンヴレスもだがカーラも気付いたようだ。剣は昨日鬼に圧し折られ、柄しか残っていなかったことを。カーラは慌てた様子で腰の剣を引き抜き、無惨な様を確認してガッカリした後、鬼を見て言った。

「城の武器庫へ案内して頂戴」

「貴殿は帝国の軍人では無い。武器庫に入る権限は無い」

 不動の鬼がきっぱり断ると、カーラは喚いた。

「あたしを剣無しの剣士にさせる気?」

「城下で自分で手に入れればよろしかろう」

「それができれば苦労はしないよ」

 カーラが尚も食い下がり、シンヴレスは、カーラがさほどお金を持ち合わせていないのだろうと察した。確かにこの人は剣以外に取り柄がなさそうだ。シンヴレスは半ば同情し、言った。

「私の権限で倉庫の武器を持って行って貰おう」

「しかし」

「へー、皇子様、話しが分かるじゃない」

 カーラは嬉しそうに言い、不動の鬼を振り返った。

「御曹司がそう申されるのなら」

 倉庫に案内し、カーラは冷めたように言った。

「べリエルの方が武器は充実してるわね」

 そして両手持ちの剣のところへ来ると、しばし、悩むように考え、シンヴレスを振り返った。

「三本ぐらい持って行ってもいい?」

「コソ泥じゃあるまいし、それなら一度べリエルへ戻り、そこで御自慢の剣とやらを見付ければよろしかろう」

 不動の鬼は珍しく不機嫌のようであり、皮肉を言った。

「どうぞ」

 シンヴレスが言うと、カーラは大喜びし、あれもこれもと手を伸ばしていた。

 不動の鬼は呆れた様子を見せた。



 2



 剣の稽古にもカーラは付いてきた。

「御貴殿はどこへでも行かれませ」

 不動の鬼が冷たく言うと、カーラは不動の鬼を指さした。

「あたしを打ち負かしたと思ってるのかい? あれは剣が寿命だっただけだ。また挑ませてもらうよ。だけど、まずは新しい剣に慣れなきゃいけない」

 カーラは素振りをしているシンヴレスの隣に並んだ。

「聴いたよ。サクリウス姫との面会の全面許可を得るためにじい様に挑戦してるそうじゃ無い」

「その通りです」

 シンヴレスは素振りをしながら声だけ返した。

「あたしも言っとくけど、相当強いよ。あたしに勝てなければじい様にも勝てないと思った方が良い」

 シンヴレスは剣を止めてカーラを見た。

「ならば、あなたと一手、お手合わせ願いたいです。良いかな、鬼?」

 不動の鬼を振り返ると、鬼は頷いた。

「ただし、剣は木剣でが条件です」

 鬼が言った。

「何だ、皇子様は真剣が怖いのかい?」

 カーラが小馬鹿にするように言ったが、不動の鬼が口を開いた。

「その言葉がそっくり御貴殿に返るだろう」

「へぇ、面白い」

 カーラは自信満々の様子であった。

 シンヴレスはバスタードソードに似た木剣を手にし、カーラはクレイモアーのような両手持ちの木剣を選んだ。

「全然軽い軽い」

 カーラは木剣を振り回して言った。

 シンヴレスは柄の感触と重さを確認し、両者は四メートル程距離を取った。

 鬼が審判を務める。二人を交互に見て準備良しと納得したように頷くと、手を上げて振り下ろした。

「始め!」

 シンヴレスはカーラの剣術を知らない。ここは受けの姿勢を選んだ。

 カーラは突っ込んで来て、剣を突き出した。シンヴレスはサッと避けて、カーラに足払いを掛けた。

 カーラが慌てて飛び退く。シンヴレスは剣を振りかぶって、打ち込んだ。

 カーラは身を崩しながらも受け止めつつ、体勢を整える。シンヴレスはまだまだ己の膂力に不足があることを実感した。その瞬間、凄まじい打ち返しで、シンヴレスは危なく剣から手が離れるところであった。

 膂力でも彼女の方が上か。

「皇子様、可愛い剣術ですね」

 カーラが挑発するが、シンヴレスは確かにその通りだったので乗せられず、次にどうすべきか思案した。カーラが剣を薙ぎ払い、シンヴレスはその一撃を後退せずに受け止めた。ダンハロウさんと戦っているんだ。そうイメージし、カーラを見て、今後は一切避けないことを固く胸で誓った。

 腕に痺れが走る。カーラはやはり強い。カーラが剣を振り下ろす、シンヴレスはそれを見て勝負に出たくなった。

 シンヴレスは咆哮を上げて、下段から剣を旋回させた。両者の木剣が打ち鳴らされ、カーラが瞠目していた。次の瞬間には二人の持っている木剣は僅かな刃に当たる部分を残して飛んで行ってしまった。

 鬼から止めの声が上がらない。

 シンヴレスはカーラに飛び掛かった。

「キャッ」

 カーラが背中から倒れる。

 シンヴレスは馬乗りになり、折れた木剣の僅かに残った刃で首を掻き切ろうとしたが、カーラも木剣で防御し、両者は競り合った。

 そこでカーラが膝を入れ、シンヴレスの身体を蹴飛ばした。

 シンヴレスは倒れるがすぐに起き上がった。両者が睨み合い、そこで鬼が仕合終了を告げた。

「引き分けです、御曹司」

「うん」

 シンヴレスは息を整えながら言った。

「前言撤回するわ、皇子様」

 カーラがシンヴレスを見た。

「可愛い剣術じゃなかった。だから、どさくさに紛れてあたしの胸を掴んだことはチャラにしてあげる」

「御曹司殿下は貴殿の胸など掴んでいない」

 不動の鬼が言った。

「掴んだわよ!」

 カーラは舌打ちすると言った。

「決めた。皇子殿下の剣の訓練にあたしも加わらせてもらうから」

「それは」

 不動の鬼が言いかけた時、シンヴレスは口を開いた。

「良いと思います。私も誰かしら一緒に切磋琢磨できる人がいれば、訓練にも身が入ると思うし」

「さすが、皇子様、話が分かるわ」

 カーラはそう言うと鬼を見詰めた。シンヴレスもまた指導役の鬼の返事を待った。

「分かりました。御曹司の言うことならば仕方ありません」

 シンヴレスとカーラは顔を見合わせ、互いに手を振り打ち鳴らしたのであった。

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