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そつない君の青春は、そつなくこなせない。  作者: 深崎藍一
第一章 そつない君と同級生達
8/18

そつない君とボランティア

なんか区切りが悪いのが嫌で本日二話投稿。読んでない人は前話から読んでくれ。



「遅かったわね」


 辿り着いた教員用駐車場で、黒いファミリーカーに背を預けて腕を組み、優雅に立っていた新宮は、俺たちを見て事もなさげにそう言う。


「遅かったのは、詳細を知らなかったからだよ。報連相って言葉知ってる?」


「あら、残念ながら準備が整った頃には、報告手段も連絡手段もなかったもので」


 ごめんあそばせとでも言わんばかりの態度に内心は青筋が浮かんでいるが、そつないくん的にこれ以上の嫌味はNGだ。


「次からは先生経由でもいいから、軽く相談してくれ」


 深呼吸で何とかイラつきを沈めると、笑顔を作ってそう返す。新宮はそんな俺をじろりとした目で見ると、俺には何も言わずに「遅れるから早く行きましょう」と、日高先生が鍵を開けた車の助手席へと乗り込む。


 必然的に後部座席に俺と紀伊さんが乗り込むことになり、拳二つ分ほどの距離をとって座った。シートベルトをつけると車がエンジン音とともに緩やかな加速を始める。徒歩通学の人間たちを次々と追い越していくのを窓越しに眺め、優越感にも似た不思議な気持ちになっていると、紀伊さんが新宮に尋ねる。


「あの、新宮さん。今からどこへ行くの?」


「和歌山駅よ」


「和駅…?何しに行くんだ?」


「行けばわかるわ」


 足を組み、目を瞑ってそっけない返事をする新宮に、日高先生が軽く左手でチョップを入れる。


「何ですか先生」


「おい、新宮。何でもかんでも自分を基準にするな。心の準備なんかが必要だろ」


 日高先生のその一言に一理あると踏んだのか、それともこれ以上の問答が面倒だったのか、新宮はため息一つと共にこれからの予定を吐き出した。


「はあ…ボランティアよ」


「「ボランティア?」」


 あまりに脈略のない言葉に、俺と紀伊さんの復唱がハモる。


「何でボランティア?」


 俺がそう尋ねると、新宮は「いい?」との前置きをして、高説を唱えるように人差し指を振り話し始める。


「今日の目的としては、紀伊さんが人目に慣れることよ」


「人目に…?」


「そう。結局のところ授業中に指されてアガってしまうのは、人の目線に晒されることに対して根本的に慣れが足りないのよ。だから荒療治のために、不特定多数と触れ合う機会を作るわ」


「それでボランティアだと。昨日の今日でよくそんなもんセッティング出来たな」


「生徒会の雑務をしていたおかげで、ボランティア部が週に一度和歌山駅前で募金を呼びかける活動に参加しているのは知っていたから、昨日解散してからの時間があれば大した問題じゃなかったわ。私優秀だもの」


 指揮者のように振り回す指と同じで、口がよく回ること。付け加えられた最後の自画自賛には、口から呆れを含んだ乾いた音が漏れるが、実際に昨日の放課後以降でボランティア活動に参加する許可を得る手腕と、生徒会の雑務の中の情報を覚えて正確に活かす手腕は大したものだろう。意地でも口には出さないが。


「だとしても、本人の許可は先にとれよ…大丈夫そう?紀伊さん」


 横目で紀伊さんを見ると、表情があからさまに戸惑っている。そりゃそうだろう。いきなり車に乗せられて、これからボランティアを行いますと言われたら驚く。かく言う俺も少し戸惑っているくらいだ。人と接するのが得意ではない紀伊さんなら、なおさらだろう。


「う、うん。一人じゃないなら…ギリギリ?」


 それでも、いきなり知らないボランティア部の面々に加わって活動するのは、一定の覚悟がいるはずだ。

 加えて顔見知りといえば、同じクラスでたまに会話する程度の俺と、昨日会ったばかりで性格が真反対と言ってもいい新宮だ。心強い要素が一切ない。


 口ではギリギリ大丈夫と言っているものの、伏し目がちの視線に力無い笑いを見るにあまり信用しないようにしたほうがいい。さらなるトラウマを刻むわけにはいかないのだから。


「(こいつリアル獅子の子落とし女かよ…)」


 確かに新宮の言っていることに大筋の間違いはない。紀伊さんが抱える問題の多くにおいて、対人スキルの向上はかなり効果的だ。

 それこそ、教師に指名されたときに周りの目線さえ気にならなければテンパることもなく、答えがわからない時も上手く躱すことができる。元のグループに戻ることを望んでいるならば、それこそあの派手なクラスの女王達とコミュニケーションを取るのにも役立つ。


 そして何より、この保健室登校状態から教室に復帰するときも、ある程度の視線に晒されることは覚悟しなければならない。教室にいなかった時間の中身を身勝手に予想する囁き声や視線に。


「(確かに出来るだけ早く教室の戻りたいと言う本人の希望があるにしても…いきなり修行のレベルマックスに放り込むのはやりすぎだろ…)」


 募金の呼びかけというのは、結構なハードワークだと思う。まず、衆目の中で大声を出さなければならない上に、視線がこちらを向いてから興味なさそうに目を背けられるというのは、じわじわと精神に効いてくる。ティッシュ配りとかキャッチのバイトとかより、善行をしているという意識がある分マシという程度だろう。


「(中学時代に美羽姉に連れ出されて一回やったけど、二度とやらないと決めていたくらいだし)」


 正直、ある程度対人スキルを身につけた俺でも憂鬱なくらいだ。明らかにこういうのが苦手であろう紀伊さんにいきなりやらせるのは、過剰な負荷をかけている。


 サイドミラーに映る、腕を組みながら目を瞑った新宮の後ろに、獅子の姿を幻視するほどである。


 ほど近い未来を考えて色々と気を揉んでいるうちに、気づけば多少のビル群が見えてくる。もう少しでJR和歌山駅に着くはずだ。和歌山の人間は大体略して『和駅』と呼んだりする。


 タクシー乗り場の側にある小さな駐車場に車が停まる。相変わらず、県庁所在地を冠する駅にしては大して賑わっていない。


 と言っても、一応和歌山県で利用することが一番多い駅である。学校帰りの時間帯ということもあり、制服姿が多く見受けられる。 


「募金の呼びかけってことは、近鉄の前のバス停の方か?」


「多分そうだと思うわ。大体やっているのそこだもの」


 和歌山駅に連結する商業施設として、和歌山MIOと近鉄百貨店がある。駅と直接つながっているのがMIOで、それとL字型に並んでいるのが近鉄百貨店である。まあ、その横にグランドホテルとかあるが、ほぼ使うことないのでいいだろう。


「そんで?待ち合わせとか、何時にどこなんだ?」


「五時過ぎに中央口の改札前だから、まだ少し時間があるわね」


 学校を出たのが四時半だったから、学校から和歌山駅まで二十分弱。スマホを取り出して時間を見ると、大体の予想通り四時四十八分。新宮の言う通り、微妙に時間がありそうだ。


「彼らは電車で来るそうだから、五時過ぎの電車を調べたら五時八分着ね。中途半端に時間があるわね」


 何やらスマホを操作していた新宮だが、どうやら時刻表を見ていたらしい。ちょうど二十分。本当に微妙な時間だ。


「どうする?タリーズかどっかで飲み物でも飲むか?日高先生が奢ってくれるってよ」


「おい、宇久井」


「悪くないわね」


「み、皆がいいなら」


「よし、決まり」


 日高先生はぶつくさと「俺はいいなんて言ってねーぞ」などとぼやいているが、結局渋々といった様子で財布を取り出す。


 MIOの一階にあるタリーズコーヒーに入り、それぞれ注文を済ませると、支払いを先生に任せて奥にある向かいソファーの四人席へ鞄を置く。


 それぞれが頼んだドリンクを受け取ると、男女二人ずつに分かれて席に座った。壁側に男、通路側に女子という形。俺と日高先生はブレンドコーヒー、新宮はレモンティー、紀伊さんはカフェモカ。


 店内は割と広く、老若男女が常にいる印象だ。今の時間帯は学生が多いけれど、休日にはマダム達が談笑していたり大学生がレポートをしたりしている。


「相変わらず騒がしいわね」


「私もちょっと苦手、かも…」


 と言っても、大体の場合店内はざわめきで満ちている。新宮が顔を顰めて、紀伊さんは困った顔をして、店内の騒がしさに苦言を呈する。


「相変わらずって、新宮もたまに来るのか?紀伊さんはあのグループにいたらそこそこ来る機会あったと思うけど」


「たまにね」


 俺の問いかけに新宮はそっけなくそれだけ答えて、紅茶を一口飲んだ。「会話は終わりだ」と言われた気がした。どうやら気のせいではなく嫌われているらしい。業務連絡以外で会話をするつもりはなさそうだ。


「(何かしたっけな…)」


 入学してから関わりなどなかったはずなので、心当たりが全くない。目つきが気に入らないとかそんな感じなのだろうか。それだと、どうしようもなさすぎるが。


「あれ?そつない君?」


 俺が心の中で過去の行いを振り返っていると、そんな声がした。声につられて視線を向けると、そこにはそれなりに見知った人物がいた。そして、今の状況ではあまり会いたくない人物だ。


「…紀美野」


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ちなみに筆者はティッシュ配りとかしたことない。


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