第7話 【魔力増幅者(マナバッファー)】
「な――なんだ!?」
あまりにも突然に響いた悲鳴。
それは明らかに、誰かの身に危機が訪れていることの証左だった。
「とにかく行ってみましょう! 誰かが襲われているのか……もぉ……っ」
走り出そうとしたシャーリーだったが、すぐに立ち眩みを起こして膝に手を突く。
どうやら、まだまだ魔力切れから回復し切れていないらしい。
「うぅ……まだ走ることもできないなんて……!」
「シャ、シャーリー、大丈夫か……?」
「アタシのことはいいから、早く行ってあげて! 後で追いつくから!」
「わ、わかった!」
シャーリーの言葉に押され、俺は走り出す。
同時に――俺はすぐ自分の身体の異変に気付いた。
――身体が軽い。
まるで全身が風に乗っているように軽やかに動く。
それに息が全然切れない。
以前の俺は、ハッキリ言って体力なしの部類だったのに。
これも【魔力増幅者】で魔力を増幅した恩恵なのか……身体能力まで引き上げてくれるとはな。
草原の中を疾走する俺は、すぐに悲鳴の主の近くまで辿り着く。
そこで俺が見たのは――耳長小人族の少女が、五人の盗賊らしき男に襲われている光景だった。
「いやだ! 放してぇ!」
「ウヒヒ、この亜人風情がよぉ。大人しくしろってんだ!」
「なんだコイツ、ガキみてぇな身体のくせに胸はあるじゃねえか。殺す前に犯っちまおうぜぇ?」
下卑た笑いを浮かべる盗賊たち。
身体の小さい耳長小人族の少女では盗賊たちに力で叶わず、彼女が身に着けていた衣服は破り捨てられて乳房が露わにされる。
「い――いやああああぁぁぁッ!」
「おい、やめろッ!」
とても見るに堪えず、俺は盗賊たちを声で制止する。
「あぁ? なんだぁ、お前?」
「その子を離せ。今すぐにだ。……でないと容赦はしない」
「おいおい、お前人間のくせに亜人を守ろうってのか? バッカじゃねえの?」
ゲラゲラと笑う盗賊五人。
どうやら話を聞く様子ではなさそうだ。
「亜人なんてのはいくらぶっ殺してもいいし、奴隷にしようがなにしようが構わねぇんだよぉ。勇者カインだってこいつらを助けたことなんてねぇだろ?」
「そりゃつまり、亜人は人間じゃねえってことだよなぁ? 人間じゃないなら、生きてる権利なんてないってよ、ギャハハ!」
あまりにも身勝手な理屈を振り回す盗賊たち。
確かに、カインはモンスター以外にも魔族や亜人を露骨に嫌っていた。
だが少なくとも、俺はそんなカインの思想に共感したことはない。
「……よくわかった。本当に生きてる権利がないには、お前らの方だってな」
「はっ、そんなにこいつを助けたいなら、テメェも一緒に殺してやるよ!」
「ウヒヒ、死ねやオラァ!」
腰の剣を抜き、盗賊たちは一斉に俺に襲い掛かってくる。
丁度いい――このクズ共で、今の俺の力を試してやる。
「……風魔術――【千剣の旋風】」
詠唱し、風属性の魔術を発動。
その瞬間に突風が吹き荒れ、風は千の刃となって先頭の盗賊二人を急襲。
奴らの全身を、まるで紙切れのようにズタズタに斬り刻む。
「あ……れ……?」
「なんで……風……斬れ……」
崩れ落ちるようにどさりと倒れる盗賊たち。
まずは二人。
それを見て、残った盗賊たちの顔がさっきとは打って変わって恐怖に歪む。
「んなっ……今、なにが……!?」
「次はお前らだ。さあどうする? 大人しく投降するか、一緒の運命を辿るか……」
「ほ、ほざけぇ! 誰がテメエみたいな痩せっぽちに投降なんざ――!」
「炎魔術――【火蜥蜴の喰牙】」
詠唱し、今度は炎属性の魔術を発動。
すると魔術陣から火蜥蜴の形をした巨大な炎が飛び出し、まるで捕食するように盗賊たちへ飛び掛かる。
炎を受けた盗賊三人は全身が獄炎に包まれ、火だるまとなった。
「「「ぎゃあああああああああああああああああッ!!!」」」
短い断末魔の後、黒焦げになった三人が地面へと倒れる。
――それらは、まさに一瞬の出来事だった。
一瞬で、五人の盗賊を、駆逐できてしまったのだ。
今俺が発動した魔術は大量の魔力を消費する物で、尚且つコントロールが難しい。
にも拘わらず、あまりに簡単に使いこなせてしまった。
まだまだ魔力にも余裕があるどころか、切れる気配すら皆無。
これが……【魔力増幅者】の真の力なのか……。
俺は思わず身震いを覚えるが、
「あ、あの……」
助けた耳長小人族の少女の一声で我に返る。
どうやら周囲に他の盗賊の姿はなさそうだし、警戒は解いてもよさそうだ。
「ああ、すまない! キミ、大丈夫かい? どこか怪我は?」
「大丈夫です……あ、ありがとうございました。あなたは命の恩人です……! 本当にどうなることかと……怖くて……!」
助けた耳長小人族の少女はまだ怯えた様子だったが、幸いにも怪我は負わされていないらしい。
ただ……衣服を破かれた状態でいさせるのは、流石に忍びないな。
俺は自分の上着を脱ぎ、彼女に着させる。
「あ~……だいぶ大きいと思うけど、とりあえずはこれで我慢してくれ」
「――エルト! やっと追いついたわ、無事――かどうかなんて、聞くまでもなさそうね」
遅れてやって来たシャーリー。
彼女は辺りを見回すと、おおよそ何があったのかを察したらしい。
「エルト、あなた……亜人の子を助けてくれたの?」
「別に亜人かどうかなんて関係ないし、困っている人がいたら助けるだろ。それより、なにか羽織れる物持ってないか……?」
流石に上着なしはちょっと寒いなぁ、なんて思いつつ尋ねる俺。
そんな俺を見たシャーリーは気が抜けたように笑い――何故だか、とても嬉しそうな顔をした。
「……やっぱり、あなたを助け出して本当によかったと思うわ、エルト・ヘヴンバーン」
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