072話 総長、恋のキューピット(脳筋版)をしてみた
<イツキサイド>
私を一方的に信奉する狂信者、まあ頭の悪い犬を飼ったと思えば?一応忠犬だし。と納得しかけたが・・・こいつら!お兄様達の結婚式の準備を忘れてやがった!あと3日しかないんだぞ!こら!
ガースは、メルビナ神聖教会の信徒を切り取りに王都へ向かおうとしていたし、マリーヌとジョセコンビは、ずっとお祖母様に粘着していた。当然〆たったよ。
「おまえらは、自分の都合のいい言葉しか耳に入らないエセ信者だったようだな」と言ったら、ようやく必死に働き出した。
そして、お祖父様に「眷属は眠らなくても大丈夫なので24時間こき使って」と丸投げしたった。ガースはまだ眷属じゃないけど「既に眷属と思って下さっている!」と感涙して働いていたので、まあいいか。
結婚式自体はささやかなもので、サイジェント侯爵夫妻と、ユグドラシル男爵領の両隣の男爵家が参加予定だ。ちょっとさみしいので、当日にサプライズでサマンサ王を連れてくる予定だ。お飾りでも領民はそんな事知らないからね。
こういう時は、本来であれば領主が参加するのだが、ここは精霊女王の悪夢の隣接地域。魔物の防波堤としての任があるので基本領地を離れられない。今回も一族の代理の者が来るようだ。ちなみに、この世界で男尊女卑の思想はほぼない。魔物を狩るためには猫の手も借りたい状況で、男が女がと言っている場合ではないのだ。基本実力主義とはなるが、戦闘による消耗が激しいため能力に依らず子供の扱いは平等だ。力があればそれを磨き、なければ、なんでもいいので貢献しろ!となる。
ただ、サイジェント侯爵家は領地の親役であり、周囲を伯爵、子爵、男爵家に囲まれている比較的安全な領地のため、領主夫婦の参加となる。
まず到着したのは、うちの左隣の領地のストロノーム男爵家の長女、リラ・ストロノーム様。女性ながら身長2mのゴツい女性で、髪と瞳が濃い青だ。そして左頬には3つの魔物の爪の傷跡がある。歴戦の戦士の様な風貌だが、お母様と同い年の18歳との事。
う〜ん、見た目は強そうだけど、動作でヨワヨワちゃんなのがまる分かりだ。センスは良いのに・・・ああ〜っ!もったいね〜!鍛えて〜!
と、思って見ていたのを、何を勘違いしたのか「・・・私の容姿、気持ち悪いですよね」なんて言って、勝手に落ち込んでた。この乙女ちゃん、可愛いじゃね〜かよ!
「リラ様、私が微妙な表情をしたのは、センスがあるのに弱々なのが、勿体ない!と思ったの・・・結婚式後にうちに滞在しない?しっかり鍛えてあげるよ!」と言うと、驚いていた。
「うちのイツキは戦神だからね!リラが一ヶ月も修行すれば大分強くなるよ!」何故かお母様がドヤ顔をしていた。
しかし、リラ様は「でも・・・だって・・・だけど」と煮えきらずに、ちょっとイラッとした。お母様も同じだったようで「あんた、まだヘタれてるの?ヘラクレスにだって未だに告白してないでしょ?いい加減誰かに取られるわよ?」と辛辣だった。
うちの右隣のシュミット男爵家の長男、ヘラクレス・シュミット様とリラ様とお母様は幼馴染らしい。お母様は恋愛のレの字もない(さすがお母様だ!)けど、リラ様とヘラクレス様は5歳の頃から相思相愛、だが全く進展していない。
お母様もいい加減くっつけ!と思っているそうだけど、リラ(ヘタレに様など不要)は、幼少の時に魔物に受けた体中の傷跡が原因で「女の子なのに・・・」とふさぎ込み、何事にも気後れした性格になったそうだ。
私が神聖魔法を使えば、即座に完治出来るけど、気弱な心が改善できるか分からない。この地域で気弱な性格は「死」と同義だ。ヘラクレス様とカップルにして自信を付けてから治癒すればイケるかな?
リラと侍従達が客室に移動したあと、お母様にその旨話すと「今回は、恋の女神?」「イツキが!?ないわ〜」と自己完結で爆笑された・・ぐむむ、絶対にひっつけるぞ!
そして、シュミット男爵家の長男、ヘラクレス・シュミット様が到着したと聞いたので、早速神威を浴びせて従者3名共々正座させた。ヘラクレス様は名前の通り筋骨隆々の2m30cmの大巨漢。髪と瞳が濃い青でリラと一緒だった。
「おい、リラの事どう思ってるんだ・・・リラを嫁にするか、諦めるかの二択だ!いらないならうちで戦闘員にするから。ほら即決しろ!」
お母様が「正座で強要って・・・これは流石にどうなの?」って言うけど、こいつもヘタレだ。目をみてすぐに分かった。
その正座したヘタレは「いえ・・・でも・・・その」と顔を真っ赤にしてもじもじしている・・・お母様の表情が無になり「ヘラ!お前もか!」とぶん殴っていた。
さて、ヘタレが二人となると面倒この上ないな。面倒なので放置したいところだが、うちが独立した際に両隣が友好的でないと不便だ。出来ればここで恩を売っておきたい。
ならば・・・「「戦闘で追い込むか(わ)!」」お母様とも意見が一致した・・・最終的になんでも戦闘につなげる親子。脳筋思想ここに極まった!
恒例のアイアンクローで二人を異空間「煉獄の間」へご招待。先日の特訓を経たイザベルお姉様が命名してくれた。
二人で寄り添い、羞恥でもじもじしている二人に「特訓だ」と有無を言わせず、お母様と二人でボコボコにする。片方が倒れたら、もう片方を一方的にタコ殴りにして「ほらほら!片割れが危機だぞ!大事な人も守れねーのか?ヘタレが!」と罵声を浴びせる。
人は余裕が無くなってくると、心の地金が出てくる。羞恥などしている暇はない。その目論見通り、段々と「おのれ!リラに何するのだ!」「きゃ!ヘラ!?・・・幼馴染でも許さないわよ!」と盛り上がってきた。
最終的に、ボロボロで動けない二人に、お母様が「イザベルの相手、この筋肉にしようか?」と言ったら、「・・・私はずっとリラ一筋だ!イザベルなど眼中にもない!」「ヘラ!私も貴方が大好き!」それはもう二人で盛り上がった。やっぱ脳筋はシンプルで良い!
最高潮に盛り上がったところで、リラの傷跡をきれいに治してあげたら、それはもう感謝された。
イザベルお姉様が無関係なのに一方的に振られたのには笑ったけどね。そして、当然お母様はイザベルお姉様に告げ口して馬鹿にする。
後日・・・結婚式後に、ヘラクレスは怒髪天を衝いたイザベルお姉様に「私が見えない使えない眼など、いらないよね?」とボコられた。
特訓から一夜明けた朝食時、私は皆の前で食事に現れたリラとヘラクレスを正座させた。
「確かに、恋のキューピット役をしたけどね?・・・だ・け・ど!なんで、昨日の今日でリラのお腹に双子ちゃんが授かっているのかな〜?
・・・私はヤレとまでは言ってないぞ!お前達は血筋を尊ぶ貴族だろ!恥ずかしくないのかーーーーー!!!」と説教を食らわせる。
この言葉を聞き、二人の従者たちは大混乱。お祖父様、お祖母様、お母様、お姉様は呆れ、お兄様達と婚約者達は自分たちのことがあるので能面状態だ。
「お前達も、お兄様・姉様達と一緒に、明日、結婚式を挙げろ!み〜んな、出来ちゃった結婚だ!丁度いい!」と言うと、皆が大爆笑して賛同を得た。
しかし、この世界の貴族はこんな節操ないのか?とセバスに聞いたら「命の危険度が高い、この地域以外ではありえません・・・ここでも滅多にありませんが」
・・・3組も居るんだけど?




