044話 総長、イザベル姉様のために奔走する(前編)
オーガ襲来から一週間、20代に若返ったオーガことカレン様は、今ではうちにすっかり馴染んで基礎訓練にも励んでいる。
今まで隠していたリンダお母様への友情を爆発させていて、小ガモのようにつきまとっている・・・自領に戻らなくていいのかしら?
リンダお母様はさして気にしていないが、ロベルタお父様が嫉妬の炎に身を焦がし、お母様争奪戦の暗闘を展開中だ。・・・その分、父母からのイツキへの可愛がりが減り『あいつ、いい仕事してるな』と、本人はご満悦だ。
ただ、今度はイザベルの可愛がり攻撃がひどくなっている。今までは夜の襲来がほとんどだったが、今は日がな一日イツキにべったりだ。
「ねえ、おかちゃま、イザベル姉しゃまのしゅきんしっぷが、しゃいきん酷いけど、にゃんかあった?『あ〜、まだ口が動かないな〜』」イツキは会話の練習をし出している。拙い言葉遣いがとっても愛らしいが・・・まだ0歳。もっと、ゆっ〜くり成長してくれいいのよ。
「それはね、4月から王都の貴族学院に入学・入寮するので、お別れがさみしいんじゃないかしら?」
貴族の子供は、13歳から17歳まで(成人は18歳)王都にある貴族学校で基礎を学ぶ事になっている。ただ、幼少時からしつけと教育が行き届いているため、基礎教育などは本来は不要なのだ。実際、学院のレベルは小学校低学年レベルと、かなり低レベルだ。
一定年齢の子供達を一箇所に集める理由は、貴族同士の出会いの場!つまり合コン!婚活だ!・・・一応友情も育む。この国は、それなりに国土が広いので「一気に集めて顔つなぎしよう」という事なのだ。
3国統合前は、国家間で競い合うように、厳格な指針を持った非常にレベルの高い学院が各国にあり、優秀な子供達を排出していた。だが、3カ国統合以降は、優秀・無能関係なく『魔物討伐は貴族の義務』と領地に縛り付け、民衆には『産めや増やせよ』を推奨して、魔物への人身御供と考えている。そして、元王族の侯爵家は安全な王都で要職につき、適当に政務をこなし、平和で満ち足りた生涯を終える。我が身可愛さのヘタレ国家の腐敗ぶりは凄まじいものだ。
「くだらにゃい『あきれるね!』」「でも、お母様もお父様との出会いは学院だから、全く無駄って訳ではないのよね」
基本、当主と其の伴侶、次期当主以外は、『魔物討伐』が義務のため婚姻以外で領地外へ移動する機会は殆ど無い。学院もそういう子供達にはとても有益なのだ。
「ふーん、しょんなもにょか?『まあ、イザベル姉様も13歳』たしゅかにおとしゅごろ・・・『でも、それなら入学が待ち遠しいんじゃ?』」・・・イツキ、話すか思念のどっちかにして!聞きづらいから!
『よし!それなら私がイザベル姉様に事情を聞いて力を貸すか!』と、何故か張り切っている。まあ、イザベルも大した事情では無いだろうと、微笑ましく見守ることにした。
イザベルがイツキを抱っこしているときに「ねちゃま!かおくりゃい!こみゃった事ありゅ?おせーて!」とイツキが話すと、でれっとした顔をしたイザベルが「家族と離れたくない」と言った。
「イザベル、しばらくは寂しいと思うけど、仲間が出来たらすぐ慣れるわよ!」と言うと「姉様は学院通って無いじゃない!ここを離れたくないの!」と、イツキを抱えながら、走り去ってしまった。
<イザベルサイド>
お姉様は何もわかってない!イツキちゃんが生まれてから、この家は急激に変わった!それまでは、お姉様の燃焼の件で兄二人は結婚もできず、両親も影ではいつも暗い顔をしていたのだ。執事や侍女たちも、その暗鬱な雰囲気を敏感に感じていた。
でも、イツキちゃんが生まれてから暗鬱な空気は一掃された!色々と振り回されてはいるけど、氣の操作は楽しいし、家族で行う戦闘訓練があんなに楽しいなんて思わなかったよ。白球風呂も最高だし・・・まあ、兄の結婚の件はあいかわらずだけど。
それは変わらないのだけど、最近の兄達はすっきりした顔を見せてくれている、これもイツキちゃんが生まれてからだ!うちはイツキちゃんを中心にうまく廻りだしているのだ!
この好循環の輪から自分だけ抜け出したくないのだ!それを逃せば、絶対後悔するとの確信に近い予感がある!
もしかして、イツキちゃんなら今回も好転させてくれるのでは!?と期待を込めて洗いざらい話すと・・・
『あれ?お母様の魔力は、お腹の中にいる10ヶ月間できちんと〆ておいたので、夜這いとか掛けられなければ問題ないよ!・・・言ってなかったっけ!?』と、イツキちゃんが爆弾を投下した!
早速、恒例になった家族会議の開催、楽しみだ!・・・最近、会議のたびにイツキちゃんに驚かされるのが楽しくなっている自分がいるのだ!
ロベルタお父様からの「イツキちゃん、イザベルに話したセリーナの魔力の件、本当に間違いないのかい?」との問いで会議は始まる。会議には、ロベルタお父様、リンダお母様、アルバルトお兄様、エミルお兄様、セリーナお姉様、イツキちゃん、私・・・あと、何故かカレン様が居る。
「ほんとうでちゅ!『お母様の魔力には、意思が宿っていてね』しょれが、血族いぎゃい、みにゃてきーーー!『って、追い払い、もとい焼き殺して』いたんでちゅ!」なんとも不思議な話なのだが・・・イツキちゃん、真面目な話なのでちゃんと話して!
『せっかく練習してるのに・・・まあ、あれだ、お母様の魔力が金色の時期があったでしょ。あの期間で魔力を押さえつけて上下関係をきっちり躾けた・・・すっかり忘れてたよ〜』
みんなからの『早く言ってよ〜!』という熱視線をお姉様の腕の中でスルーするイツキちゃん、平常運転が頼もしい。
ロベルタお父様が「でも、どうやって証明しよう。今のままだとなんともいえないね〜」と言うと『そうだよね、なら・・・イザベルお姉様、お母様は、な、なんと!10歳までおねしょ垂れ流していたんだ!』と爆弾投下!
「ちょっとイツキーーー!言わないって言ったでしょ!私の姉の尊厳が〜!」とあたふたして「その口閉じてやるーー!!!」と、ちょろちょろと逃げ回るイツキちゃんを追いかけだした・・・あれ?
「お父様、カレン様が生きてますわ!」というと、そういえば!?危険地帯だったわ!と、ぎょっとするカレン様。
「あらあら〜、セリーナがあれだけ感情的になってるのに、ローストされてないわね」・・・お母様、友達ですよね?
「・・・燃えればよかったんだ」・・・お父様〜、この方侯爵夫人って忘れてます?
お姉様に確保されて、頬をつねられてたイツキちゃんが『ねっ!大丈夫でしょ・・・あっ!?名前をつけて実体化すれば、もっと分かりやすいか!』と言うと、お姉様に抱きつき『神たる存在の山本伊月・・・そなたにこれから名を与える。そのギフトに感謝し我が母の守護者として努めよ!
・・・・其の名は【牙炎】!』
すると、お姉様の体から真紅の魔力が立ち上り、それが徐々に形作りだし、最終的に淡いオレンジ色の炎の鳥が現出。それがお姉様の左肩に止まった。『このままだと、まったく害はないよ。牙炎!カレン様の肩に移動して』との指示通りカレン様の左肩に移動するも、カレン様に異常はない。
『ただし、お母様の怒りや危機を感じると、護りのため色が真紅になるの。それは攻撃色だから、真紅に変色して熱を感じたら、血族でも危ないから近づかないでね〜』と、やりきった!と話すイツキちゃんと、それを抱く・・・般若!
「イ〜ツ〜キ〜!やらかす前に相談しなさいって言ったでしょ!」と怒気を発するお姉様。すると左肩の牙炎が「クエーー!」と絞り出す声を上げ、真紅の攻撃色に・・・確かに一気に室温が上がった。
だが『あ?』とのイツキちゃんのひと睨みで、鎮火して一瞬で姿を消した。躾は十分されているようだ。
しかも、危険度が目視できる、これって結構便利かも!?
「さあ!こっちの躾もしないとね〜?」と、イツキちゃんを確保済みのお姉様が攻撃を開始する前に
「「これで結婚できる!・・・俺たちの救世主を守れ!」」と言う兄達に阻まれていた。
そして、イツキちゃんはお兄様達を盾に『今まで魔力コントロールをサボったお母様が悪い!家族に迷惑を掛けていたことを反省するべし!』と、反撃を食らい「イツキに怒られた〜」と、お姉様はうなだれ泣いていた。
・・・0歳時に怒られるお姉様って、なんか笑えますわ!・・・やっぱりここが私の居場所だ!




