043話 総長、襲来したオーガを弄ぶ
オーガ・・・いや、サイジェント侯爵婦人、カレン・サイジェント様を迎えるため、イツキの講義を切り上げて屋敷に戻り、家族でお茶を飲んで武闘談義(うちの家族、すでにイツキに戦闘民族化されてるわね)に花を咲かせていると、慌てた執事セバス・チャンが飛び込んできた。
この執事、前は【ビクトル】という名前だったのですが・・・イツキから『今日からセバス・チャンだ!』と命名されたらしい。普通ならお子様の冗談で終わるはずなのだけど、それ以降、何故かその名前になった。びっくりして「えっ!?あなた【ビクトル】でしょ!?」というのだが、「私はセバス・チャンです」と本人は納得しない。周囲も何故か『セバス・チャン』になっている、これって何故なの!?
これは・・・犯人に直接聞くしか無いね。イツキを確保して、一日中手放さずに、それはもう可愛がったところ『もう勘弁してくれ〜』と折れてきたので「イツキ、なんで執事のビクトルが『セバス・チャン』になったの?どうやって変えたの?」と聞くと、気まずそうにモゴモゴしていた・・・その可愛いイツキにキスの雨を降らせると、ようやく白状した。
『私が転生した原因の魔法陣、あの中にあった【魂の契約】部分を、解析していじってみたんだ・・・ちなみに【セバス・チャン】って名前は、ラノベで定番の執事の名前なんだよね。やっぱりセバスは居ないと雰囲気出ない!』と白状した。ラノベというのは、夢あふれる空想話を記する書物だそうだ。
ちなみに、魂の名前なので、生まれ変わっても【セバス・チャン】になるらしい。神からのギフトなので、生まれ変わった際には、能力は上がるらしいが・・・流石に勝手に変えるのは良くないわ。
「新しいことをやる際は出来るだけ相談しなさい・・・でないと、この可愛がりを、お父様に交代します!」というと、『それだけは〜!勘弁して!』ということで合意した。
しかし、イツキもただでは転ばない『可愛がられるなら・・・絶対お母様がいい!』と言い放ち、思わずキュンと来てしまった・・・くっ!策士め!口では勝てないので、リンダお母様に言いつけた!・・・後日、事情を知ったリンダお母様とイザベルコンビに、それはもう可愛がられて「あーんとか・・・着せ替え・・・おむつ交換・・・もういや」と萎びて帰ってきた。反省するがよい!・・・ついでに私も可愛がった「お母様がいいんでしょ〜?」とね、ふふふ、これで新たな可愛がりの免罪符を獲得した!
「ロベルタ様!カレン・サイジェント様が、突然お見えになられたのですが、その・・・格好が、ですね」口ごもるセバスに詳細を聞き出した内容は、髪は乱れ、ドレスはボロボロ、足は裸足で、全身土ホコリまみれだそうだ。
そりゃあ、侯爵領から走ってきたのですから、ある意味当然でしょう。侯爵家とは領地が隣接しているので、近くではありますが、それでも馬車移動で途中1泊はする距離だ。
「ぷっ!私が若返ったと聞いて慌てて来たようね。先に湯浴みさせなさい。服はイザベルの」
「リンダ〜!ここか〜!!!」
扉を蹴破り、オーガことカレン・サイジェントが現れた!『うっっわ!ロリババア!?こいつ面白そ〜!』とイツキがはしゃいでいる。確かにリンダ様は小柄で身長が140cm程しかない・・・メリハリもない。ですが、一応侯爵夫人なんだからね!『あれでも?』あれでも侯爵夫人なの!指をささない!メッ!とは言うが『あの子か!?なら、私が解決しましょう!』と言う自信満々なイツキに任せることにした。正直、あの紛争地帯に関わりたくないので。やりたい方がやればいいと思うよ。
オーガと暴君が言い争いを開始、いつ武力抗争になるか分からないデンジャラスゾーンに、トコトコと歩いていく幼女のイツキ・・・いつの間にか竜帝龍姫】で5歳児になっていた。
トコトコとオーガの隣に行き服の裾を掴み
「私の大好きなお祖母様にいじわるする、あなた!・・・なんでそんなことするの!?」5歳児の幼女に、目をうるうるされながら突然叫ばれたカレン様は、わたわたと慌てて「えっ!?いえ、あの、これは」と言葉にならなかった。根は良い方のようだ。
「いじめられて、お祖母様が・・・可哀想・・・わーーーーん!」と嘘泣きを始めたイツキに、さらに大慌てしたカレン様。イツキの頭を撫でながら(土ホコリでざらざら・・・イツキ談)「こ、これはね!仲の良かったリンダが、いきなり若返って、どうして私にも声を掛けなかったと、その、イライラして・・・ね、あと、いい機会だと、久しぶりに会いたかったし」・・・イツキの言葉通りちょっと面白くなってきた。もうちょっとイツキに任せてみよう。
嘘泣きを辞めたイツキが、ぱっと顔をあげて「そうだったんだ!お祖母様が大・大・大!大好きな!大親友なんだね!」ときらきらした目で見つめると「うっ・・・そ、そうなのよ!」と目をそらすカレン様。
「あらあら、私とってもうれしいわよ〜!カ・レ・ン」すかさずお母様が言うとカレン様は「ぐぬぬ」と唸っていた。
イツキはここがチャンスとばかりに「じゃ、二人は仲良しさんなんだね!」と攻める。カレン様は「そ、そうね」と答え、なにか面白そう!とお母様も「そうよ〜」と答える。・・・気のせいか?イツキの目がギラリと光ったような?
「よかった〜!・・・なら、仲直りのおまじない、しましょう!」イツキはその方法を説明する「これは、お友達の家に伝わる『絶対仲直り出来る』方法なんだって〜」と言い、その内容を説明する。
①お互い両の手を握り合い、目を見つめ合う
②それぞれ、お互いの大好きな事を、3つ話す。①は維持する
③最後に「私達は生涯のお友達です」と誓い合う。①は維持する
カレン様だけではなく、お母様の顔も引きつった。勝利を確信したイツキは、目をうるうるとさせ
「えっ!?・・・出来ないの?」と首をかしげた後、涙をポロポロさせ「もしかして・・・仲・・いいって・・ヒック・・・うそ?」と言うと、あたふた慌てたカレン様。
ハンカチで涙を拭き取り(ホコリまみれで痛かった・・・イツキ談)ながら「大丈夫!出来るわ!・・・よね!」とお母様を睨み、覚悟を促す。お母様も諦めて「ええ、分かったわ」と言った。えっ!?あのお母様が?・・・もしかして、お母様も実は仲良くなりたいのかも?
二人は手をつなぎ見つめあい、言葉を紡ぐ。
「リンダ、入学当時に紛失したお祖母様の形見を一緒に探してくれて有難う」「背の低い私が馬鹿にされていた時、一緒に〆てくれて有難う」「学生生活の5年間、あなたと過ごせて楽しかった!」
割とガチな内容に、お母様も驚いたようだが、ふっと優しげな微笑みを向けた。
「カレン、暴力女の私を怖がらずに付き合ってくれて有難う」「困った時に助けられたのは私も同じ、有難う」「私も学生生活、あなたと過ごせて楽しかった!」
それぞれの言葉を聞き、二人共ガチ泣きしながら「私達は生涯のお友達です」と誓い合った。
めでたしめでたし、だが・・・顔が真っ赤のお母様の照れ隠しで、イツキは後で可愛がりコース確定だろうけどね。
ちなみに、イツキは後日バツとして、ベビーカーに乗せられて、領民(女性)お触りOK状態での領内引き回しの刑を受けた。行軍中に逃げ出すことも出来ずに、領民に大分チヤホヤされたようだ。「・・・お祖母様、攻撃が的確」と大ダメージを受けていた。
「でも、カレン様の為に何故あそこまでしたの?」と聞いたら「最高の物件紹介のお礼」らしい。「初めて会ったのに?」と聞くが、それについては黙秘された。
<カレンサイド>
私が、容姿を清めるためにお風呂に向かう途中、先程の幼女が話しかけてきた「約束は守ったよ!」と。その瞬間!ある夢を思い出した。
夢の中の私は10歳程の少女の姿で、シクシクと泣いていた。すると「何泣いてんだ?」と後ろから声が聞こえた。振り向くと金色に輝く少女だった。変わった子だな(夢なので)と思いながら、泣いている理由を話した。
「ふ〜ん、学生時代に生涯の友と思える子に出会えたけど、素直になれず、恥ずかしくて、喧嘩ばかりしていた、それを後悔していると。ふふふ、可愛いね〜」と笑われた・・・なんて失礼な!「あんた、ぶっ飛ばすわよ!」と襲いかかったが、実力の差は大きく、コロコロと床に転がされるばかりだった・・・私は雑巾じゃないのよ!と怒るが、そのうち疲れて自分から床に転がった。
「少しはスッキリしたか?」・・・確かに体を動かして、少しは気が晴れたようだ。「まあね、付き合ってくれて有難うございます」と言うと「それだよ」と言われた、何を?
「相手がどう思ってるか分からないが、うじうじしてる暇があったらドーーーンと自分の気持ちを相手に暴露してみろ!見たところ、あんたは攻撃一辺倒だろ?なら防御方法など何時まで経っても考えつかんぞ!なぜなら脳筋なのだから!(なんかひどい)
もう押しまくれ!自分から会いに行け!適当に理由をつけて行け!押して押しまくれ!その親友と、ほんとうの意味で仲良くなれるまで折れるな!なにか言われたら、私はあなたが大好きなの、悪い?と開き直れ!」
この世は、神の理不尽な遊び場。なら生涯を楽しめたものが勝ちなんだ!悪さをするわけじゃないんだから!と押しまくられて、おもわず了承してしまった。
その後、場面が変わり、お茶を飲みながら親友の話を聞いてもらい「絶対そいつもお前の事、友達と思ってるぞ?・・・もしかして相手もお前と同じ脳筋か?」と言われて爆笑してしまった。たしかにそうだった、だから楽しかったのだ!そして親近感も持てたのだ。
色々押しの手を考えて頑張ってみる!と宣言すると「そうか」と喜んでくれた。で、なにかお礼がしたい!というと、面白そうな女性はいないか?と聞かれたので、つい「その親友の長女が面白い子」と話してしまった。言い寄る男性を燃やしてローストにした話をすると、とても興味を持ったようだ。
このような正体不明の存在に情報を与えてしまったことに、はっ!?としていると「夢では相当気合を入れないと、正直にポロポロ話してしまうんだ。まあ、悪いことはしないから!」と聞き安堵した。
「もし、その子が当たりだったら・・・あんた達の仲直りに力を貸すよ!」と言って消えていった。
すっかり忘れていたのだが・・・
「ま、まさか!?あなたがあの金色の?」と聞くと、幼女はなにも言わずに私のお腹をバチーーーン!と叩いて去っていった・・・ものすごく痛いんですけど!?手の跡が残っていそうだわ。
ほんの少しだが、体中に痛みも出てきた。まったくあの子は・・・でも、有難う!・・・と、お礼を言いながらお風呂に向かうのだった。
支度を終えて、男爵家の皆様がいる場所に向かうと、皆に驚かれた。何事!?と驚いていると、リンダが「イツキちゃん?」と赤子に向かって話していた。するとその赤子が『才能ばっちし!』と右手の親指を突き出した・・・あの子0歳児に見えますが、いま喋りましたわよね?いえ、あの後ろの剣から?
先の幼女といい、この0歳児といい、少し見ない間にユグドラシル男爵家はどうなってるの!?
・・・そういえば、体の細かった次兄のエミルや次女のイザベルも、なんか貫禄が出てるんですけど?