016話 総長、天界マーキュリー調査員達を威圧する
2022/9/25 内容を一部修正
私の名は三枝賢治、この調査隊の隊長を務める。
天界マーキュリーに人類が生存しているとの情報を元に、調査員36名が招集された。
元々、世界樹周辺の鉱石調査を行っていたメンバーがそのまま今回の調査に移行した形であるため、戦闘に長けた人員が私を含め多数存在する。
今回のミッションは、生き残った人類の生息地までの道のりを開拓することがメインとなっているが、あわよくば現地人との接触・情報収集も許可されている。ただ、未知の領域の調査のため、期間を設定せずに慎重を期す調査を行う予定ではある。
非常に大事なミッションではあるが、通常のメンバーであればやり遂げることが出来ると自負しているが、今回は想定外のお荷物があるのが悩みの種だ。素人の小娘3名に加え、六神財閥筆頭後継者の小娘1名、無力&権力者という、未知の危険領域を調査する上でこれ以上無い程の傍迷惑なお荷物だ。
もちろん、猛烈に抗議はしたが、世界政府の重職を担う斎宮内親王の強制ミッションと言われれば、否とは言えない。
なんでも、この世界に強制転移させられた重要人物(御蔭で天界マーキュリーの人類生存の証拠がつかめた)がおり、その救出を担っているのがこのお荷物の4名らしいが、この面子ではまず無理だろう。すべての実力が不足しているからだ。
正直、ポータルに強制的に待機させて、自分たちだけで先に進みたい気持ちも少しはあるが、さすがに未知の世界に置き去りにして小娘達を危険な目に遭わせる訳にはいかない。
まあ、今ではそんな事を冗談でも口走ったら総スカンをくらうがな。
お荷物4名は、みな礼儀正しい上、雑用なども率先してこなす、生意気そうな令嬢も同様にだぞ、信じられるか?
おまけに容姿もかわいいとあれば、メンバーの男どもは既に陥落済み。私もこの子達と同年代の娘がいるので無下にしたと伝われば娘に〆られる。女性陣にも大好評のようだし、周囲の監視が完璧なら最低限の安全は確保できるだろう。
などと安心していたら、土中から金糸が飛び出してお荷物4名を取り込んだ!・・・なぜ、この4名なのだ?
救出に向かおうとする隊員を怒鳴りつけて抑えこみ、まずは周囲の状況探索を開始。徐々に範囲を狭めて安全を確認しつつ、ようやく繭に到達する。魔物の罠等ではないようだ。
その後は繭に対して、各種センサーで確認して生存は確認できた。ただ、中の液体に阻まれて詳細は確認出来ないようだ。
次に、繭の破壊を試みるが、刃物、爆薬、一部スキルも全く通じないことが判明した。ここまでの調査でけが人は1名。
『この繭の糸で防具を作ったら、ものすごいものが出来そうだ』とつぶやいた研究者が女性隊員に張り倒されて脳震盪を起こした。気持ちは分かるが救出してからにして欲しい。
現在は、世界政府の拠点都市に報告を行い、指示待ちの状態だ。
定期的な繭の調査では、4名の生命活動に問題はないそうだ。
「すでに1週間か。まだ本部から連絡はないのか?」
「はい、日本の幻獣:玄武をこちらに向かわせる様に依頼はしているそうですが、唯一の幻獣派遣に反対意見も多く、却下される見込みだそうです・・・異世界でなければ許可は出たでしょうが」
「玄武は100年以上寝続けているはずだろ?」
天皇家の血筋のものなら契約自体は出来るが、使役できるかは別問題。近年は契約者が交代しても眠り続けているはずだ。
「それが、契約者以外のものが小突いで叩き起こした、という噂です。信じ難いですが。」
なんだそりゃ!?鉄壁の防御を誇る玄武に触れる事など出来ないだろ。
ん?たしかガイアに居る幻獣は3体だったはずだが?別行動中なのか?
「他の幻獣はどうしたのだ?アリ型は契約者と離れることが出来ないようだが、龍型は自由に行動出来たはずだぞ。過去に1度会ったことがあるが、人懐っこそうな幻獣だったぞ」名前はタツキだったか。
「隊長、その極秘事項に情報追加です。その2体の契約者が今回の異世界転移者です」
あ〜、それはたしかに重要人物だな。そっちが捜索の本命だったか。
「あとは、例の候補者らしく、上の方では大混乱のようです」
例のとは、あれか!?たしか人工メシア計画か。いやはや、重要人物は相当な大物のようだ。
「・・・色々とてんこ盛りだな。それで重要人物の名前の報告がないのか・・・それを、あの小娘達を配置して隠蔽している、か」
「ちなみに、重要人物って『アメリカ大統領襲撃事件』のあの子です。有名すぎて隠せませんよ」
やつか!? アイツのせいで世界樹探索を中断させられて、数ヶ月事後処理に使い回されたんだぞ!
「かの国は今だにカンカンだぞ・・・大統領のシークレットな頭皮を剥がされ、特殊部隊が1名の女子高生に負けたんだからな。いい恥さらしだ。しかし、あれを乗り越えたやつなら、適当に暴れた後に勝手に戻って来るだろ。」
「ですね!」
などと軽口を叩いていたら、繭に異変が起こったようだ!慌てて隊員を招集して、異変の起こっている繭に向かった。
4つの繭の内、一つの繭が青く変色している。監視していた隊員の報告では、瞬間的に青く変色したようだ。ん?なにか威圧感のようなものを感じる?
念の為、誰も近づかないようにして様子を見ていると、30分ほど経過したところで、繭の周りに黒い雷がパリパリと音を立てて現れ、数分後に大放電。耳をつんざくような轟音の後、繭が燃え落ちた。
慌てて繭に向かうと、そこには隊員服を纏った少女が佇んでいた。その少女は湊さくらで間違いないのだが、容姿の一部がおかしいのだ。肌が小麦色から青い肌に。額の上には金色の2本のツノ。体格は一回り大きくなっており、存在感というか威圧感がものすごい。この1週間ほどでなにがあったのか?
とりあえず、隊員に待機を命じ、隊長の私がさくらと思われる存在に近づく。
「おい、おまえは湊さくらで間違いないか?」
「はい、私は湊さくらです。色々あって【青鬼】になってしまいました。・・・両親にどうやって報告しようか?悩んでます」
・・・間違いないようだな。
「とりあえず休め・・・他の3名もさくらのように出てくるんだろ」
「はい、みな伊月に修行を受けていると思います。とりあえず皆が出てくるまで待ちます」
ん?伊月?やつが居るのか。
「分かった。では、このまま待つか」
「はい、ありがとうございます」
監視を続けていると、残り3つの繭の内、一つの繭が緑に変色した。近づくと今回も威圧感のようなものを感じる?
前回の雷の事もあるため、誰も近づかないようにして様子を見ていると、30分ほど経過したところで、繭が一気に枯れだしそのまま崩れ落ちた。
慌てて繭に向かうと、そこには隊員服を纏った少女が倒れていた。ひどく憔悴しているようだ。
その少女は近藤はるかで間違いないのだが、こちらも容姿の一部がおかしいのだ。
肌が小麦色から白い肌に。髪と目が緑色に変色している。なにより耳が細長く伸び、先端が尖っている。
これは漫画等で見るエルフに酷似している。こちらも存在感というか威圧感がものすごい。先のさくらと同程度に感じる。
さくらが慌てて近づき、はるかを抱き上げる。
「はるか!?どうしたんだ!」
さくらの掛け声にうっすらと目を開けたはるかは「・・・修・行・・・終わった。チ・名称・・・・お礼・参・り・・・怖」とつぶやき気を失った。
隊長はさくらに近づき「大丈夫なのか?」と聞くが「問題ない」とのことだった。そのまま医務施設に搬送した。
詳細をさくらから聞いたのだが・・・どうらや伊月を慕うあまり、レディース名称を【ラブリーイツキ同盟】と本人には内緒で命名していたそうだ(そりゃ怒るだろ)。それがバレたので〆られたようだ。ついでに修行も受けていた模様。
「これほどの短期間で別人のように強くなれるのか?・・・伊月とやらに出会ったら師事したいものだな」
「・・・やめたほうがいいです。伊月は力の加減を完全に御しているので、死亡ギリギリの攻撃してきますよ。後で治療はしてくれますが」
・・・うん、やめておこう。
「こういっちゃ失礼だけど、よくそんな女傑についていく気になるな」
「うちは、一人を除いて、伊月に追いつこうと執念を燃やしていますので。その残り一人も大変危険な存在なので」
・・・うわっ!?種族変わっても肯定か。どんだけ戦闘民族のレディースなんだよ。
「・・・そうか」としか返事できなかったぞ。うちの放蕩娘は大丈夫だろうか?
戦闘民族になったら父さん泣くぞ!?・・・こいつらの親御さんは大丈夫なのだろうか?
監視を続けていると、残り2つの繭の内、一つの繭が赤黒く変色した。近づくと今回も威圧感のようなものを感じる?
前々回の雷の事もあるため、誰も近づかないようにして様子を見ていると、30分ほど経過したところで、繭が爆発し、そのまま燃え尽きた。
慌てて繭に向かうと、そこには体長2m程(尻尾は除く)のでかい狐?が倒れていた、尻尾は1m程あり尻尾のみ金色に輝いている。毛の色は赤黒いというよりワインレッドだ。ひどく憔悴して所々焦げてはいるが怪我はないようだ。こちらも存在感というか威圧感がものすごい。先の二人と同程度に感じる。
さくらが慌てて近づき、狐?を抱き上げる。
「もしや、立花か!?どうしたんだ!」隊員みな唖然、これが立花?
・・・六神財閥に抹殺される光景を幻視したぞ!?
隊長はさくらに近づき「大丈夫なのか?」と聞くが「問題ない」とのことだった。
「なんで立花と分かる!?」と聞けば「消去法だ!」との事。たしかに残り2名だから間違いないのか?狐?はそのまま医務施設に搬送した。一応、女性隊員を一人付けた。
「伊月の修行はものすごいんだな」と別隊員が関心というか畏怖というか、複雑な感情でさくらに話すと・・・
「いえ、これもお礼参りですね」話を聞くと、チーム名の命名ははるかと立花で決めたらしいので、同じくお礼参りを受けたようだ。
「しかし・・・みな人間では無くなっているのは、どういうことなんだ?」
「・・・それは分かりませんが、私は元々先祖返りで伊月に覚醒してもらいました。他のメンバーもそれ相応の理由があると思います」
「まあ、冒険者には鬼もいたような?エルフや狐は居ないが、獣人はいる。・・・まあ、いっとき騒がれる程度だろう」
監視を続けていると、最後の繭の内、一つの繭がどす黒く変色した。近づくと今までとは次元の異なる威圧感・恐怖を感じる。
前回の爆発の事もあり、今回の威圧感が尋常では無いため、私を含め強者5名以外はベースキャンプに待機して、誰も近づかないようにして様子を見ていると、30分ほど経過したところで、繭が爆発し、そのまま燃え尽きた。
<さくらサイド>
その繭から飛び出てきたのは、なんと2名。片方は黒衣の鎧と真っ白な剣を携えたこのは。ただ、いつもの優しい表情ではなく別人のように見える。戦闘後のようですでにボロボロだ。
もうひとりは、なんと伊月、我がレディースの総長だ!
しかし、その格好は・・・丈の短めの白いドレスの様な服を着て、下には黒のインナーを着ている。両手には白い手袋、足は黒いストッキングを履き、靴は白いブーツだ。髪は金髪、目は金瞳に変わっている。
両手両足・頭の上には、それぞれ光のリングが装着されており、背には天使のような羽が生えている。そして伊月の周りには、可愛らしい魔法のステッキが浮遊している。手にはワインレッドの金属バット・・・なんでガイアに有るはずの虎虎が?
・・・これって、10年以上前に日曜日に放映されていたアニメ、プリッとプリッと1期で後半活躍して、(さくらが)萌えて泣いた、転校生の紅小百合の衣装ではないか?と熱烈なファンのさくらは確信する。・・・ただ当時はインナーとストッキングは無かった、減点だな。
先に飛び出したこのはは力尽きて、そのまま地面に落下。その後を伊月が追いかけ、このはのすぐ手前に着地。そのまま鼻を掴んで引っ張ると「いたたた!はなふぇ〜」と騒ぐ。
「はなふぇ?日本語で喋れ!」と伊月にさらに鼻を引き回されて「ごべんなざい」と謝るこのは。
「いいか!?ジャンヌ!きちんとこのはと話し合え!そして服従しろ!・・・それが出来ないなら、分かるよな」猛烈な怒気?を放出した伊月・・・医務室からはるかと立花?の悲鳴が聞こえるぞwww
ボロボロのこのは?は、涙目で「分かりました」と何度もうなずいていた。
「このははお前を守るために、剣にまでなったんだぞ!・・・今後はきちんと守れ!」
「いつまでも裏切られたことをネチネチと陰湿にしてるんじゃねーーーー!!!このはにカビが生えるわ!!!今度愚痴ったの聞いたら・・・あ?分かるよな」
「まあ、ガイヤに戻ったら神への復讐手伝ってやるからな!・・・私もぶん殴りたいし」
等々、30分ほど威圧混じりで説教していたら、威圧に耐えきれずにこのはは気絶した。
・・・とりあえず、医務室で悲鳴を上げている二人と、私がなんとか耐えきれたが・・・やはり伊月はすごい!早く鬼を進化させないとな。震える足でさらなる強さを願った。
「・・・ところで、伊月。その、プリッとプリッとな格好はどうしたんだ」
という話と同時に頭の上に、アリスが転移?してきた。
『あっ!?不味いタイミング』
「あっ!?なんじゃこりゃ!?私の特攻服は!?・・・ア〜リ〜ス〜 激怒するから正直に話なさい!!!」
「激怒なの・・・3姉妹の連帯責任なので現地で怒られるよ」
・・・おい、幻獣は2体だろ?3姉妹って、なんだ?
「いい心がけね。・・・タツキを使って泣き落としとか考えてない?」
「・・・大丈夫です」
「よし!!!全速力で帰るよ!」
「ちょっと待て伊月、これからどうするんだ!」指示もなく去られても困るぞ。
「みんなは、それぞれ修行して力を安定させること!ここでもいいし、ガイアの世界樹でもいいよ。安定したら私のところに集合で!」
「分かった、伝えておく」
ふふふ、ワクワクしてきたぞ。アニメの孫◯空もこんなふうに感じたのかな?
伊月は飛び上がると、あっという間に空の彼方に消えていった。飛べるんだ、それも早っ!?
さて、このはを医務室に・・・って、私以外みんな気絶してるようだ。これは後片付けが大変だ。
結局、この事件の後は隊長含めたメンバーの疲労困憊が著しく、捜査は中止となった。
心の傷を癒やすため、隊長と隊員は憂鬱で退屈な日々をしばらく送る事となった。