67. 料理チート
「「うまい!」」
「「なんだこれは!」」
「全然違う! 俺の知ってる虹色スープじゃねぇ!」
「こりゃうめぇ!」
審査員達は一口食べるなり、態度を一変してガッついた。
『おっと!? これはどういうことでしょう!? 審査員達が夢中に! それほど美味しいのでしょうか!』
司会の受付嬢は、不思議そうに審査員達を見た。
「なんつーか、なんつーか、こう、うめーんだよ!」
「「ちゃんと喋れよ!」」
「「分かんねーよ!」」
「「審査員しっかりしろ!」」
観客から野次が飛ぶ。
『具体的に教えてください。特段変わった具材は入っていない一般的な虹色スープだと思いますが……。』
「だから、なんかうめーんだよ! 舌が喜んでるっつーか、味がいいつーか……」
「ふむふむ。これはなんと言い表せばいいのやら……。奥が深い? いいえ、病みつきになる味? 食べてみれなすぐに分かりましょう。これまでにない新しい虹色スープですな」
「ああ、本当に不思議とうめぇ!」
『な、なるほど。予想以上の好印象の様です。これは大判狂わせになるか? 注目の評価ポイントはいかほどに!』
審査員が投票を終え、結果は98点と一位に躍り出た。
「勝ったな」
俺は堪えきれない笑みを抑えながらシャル姫の方を向く。
「ど、どうしてですの!?」
シャル姫は困惑した様子で後退りした。
「虹色スープに負けるなんて……。ポワレだけは誰にも負けないぐらい練習しましたのに……。そんな……」
俺が一人で勝利の美酒に酔いしれているところ、彼女は予想以上のダメージを負っている様だった。
「シャ、シャル!?」
彼女は突如、エレナの驚いた声を置き去りに、背を向け顔を手で覆ったままステージの裏に消えるのだった。
『しょ、少々お待ちください。えー、ただいま準備中でありましてー』
司会の受付嬢も、突然の大物退場に困惑している様子。
シャル姫の後を追ってエレナもステージから消え、何とも言えない空気が漂っている。
ーーえ、なに? もしかして俺のせい?
観客達の睨むような視線が痛い。
「よくもうちの姫様を」「ちょっと裏路地に顔出せや」そんな呟きが聞こえてくる。
「……ちょっと見てくるよ」
俺はその場からに逃げるように、クレオスに伝えて彼女達の跡を追うのだった。
ステージの裏で、シャル姫が膝に顔を埋めて座り込んでいた。
エレナは彼女を慰めている。
シャル姫は俺の姿を捉えると、すぐに顔を逸らして俯いた。
「……す、すみません……取り乱してしまって……。こんな姿をお見せして……」
「いや、構わんが……。どうした急に。らしくもない」
「……虹色スープに負けるなんて想定外です……。私の作ったあの料理は、亡くなったお母様から教わった自慢の料理なんです……。なので、少しショックで……。あれだけは自信があったので余計に……」
ーー話が重い! 俺が悪いみたいじゃん!?
「き、君のポワレが美味しくない訳じゃない。あんま思い詰めるなよ」
俺は罪悪感からか、彼女を擁護する発言をしていた。
「で、ですが……ただの虹色スープに負けるなんて……」
ーー闇鍋ポトフの人権がナチュラルに低すぎる件……。
長年修行を積んでやっと完成した逸品より、ジャンクフードの方が美味しいと言われた様なものだろうか。
「相手は悪かっただけだ。それに、別に虹色スープに負けたわけじゃないと想うぞ」
「……私がヤト様に負けたと仰りたいのですか……?」
シャル姫は少し不快感を表に出しながら、赤い目尻で俺を見た。
「いやいや。正々堂々戦ってたら俺が負けてるよ」
俺はそう言って、ポケットに入った小瓶を投げる。
パシっと受け取ったシャル姫は首を傾げた。
「実は、まぁズルをした」
俺は気まずく頰を掻きながら告白した。
「ズル……ですの?」
「ああ。それは、混ぜるとどんな料理でも美味しく感じる”うま味調味料”っていう魔法の液だ」
「……ええ?」
「正確にはアミノ酸調味液って言ってな。大豆に含まれてるグルタミン酸っていう美味しさ感じる成分を、塩酸を使って抽出して水酸化ナトリウムで合成したものだ。人の舌って結構馬鹿だからな。美味しいと感じる”うま味”を入れてやれば、どんな料理も美味しく感じる」
「そ、そんな調味料があるなんて……」
「だから言ったろ? 君のポワレが美味しくない訳じゃないって。こっちは味覚自体を誤魔化して”うま味”だけブーストしてんだ。審査員が美味しと感じるのは当然だし、最初から料理の質で勝負をしていないんだよ」
「……」
彼女は黙ったままガクりと肩を落とした。
「シャル……」
エレナがシャルを背中をさする。
ルール違反はしてないはずだし、悪いこともしていない。
だが、なぜか俺が悪いみないな雰囲気なのうは気のせいだろうか。
「……すまんな。正々堂々勝負しなくて。普通に料理対決なら俺らの完敗だったよ」
長い沈黙ののちに顔を上げたシャル姫は俺を見て言った。
「いいえ。正々堂々していないのは私の方ですわ……。惚れ薬”を使おうなんて考えるから、自業自得ですわね……」
ーー確かに、惚れ薬は感情を無視して脳に直接働きかける点では、うま味調味料と同類だよな。むしろ、そっちの方が凶悪だよな。うん、俺は悪く無い。不可抗力。これは緊急避難的措置だ。
「素直に負けを認めますわ。悔しいですが、私ではまだまだヤト様には届かないことは理解してますから」
彼女はそう言って遠い目で、俺よりも離れた場所を見ている様だった。
ーーそりゃそうだ。積み重ねた歴史と文明の質が違う。
俺の持つ常識と、彼女達の常識は、500年の差はある。
「ま、もう500年もすれば届くさ」
俺はそう言って彼女に手を差し出す。
「500年……。それではお婆さんになってしまいますわね」
クスリと笑うシャル姫は、今にも散りそうな儚い花を彷彿とさせた。
ーーあれ、シャル姫って人族だよね? 500年も生きないよね……?
そんなことを思いながら、座り込んだシャル姫を引き上げる。
「ステージも観客も待ってるぞ」
「そうですわね。戻りましょう。エレナもごめんなさいね」
「いえいえ! 私たちは精一杯頑張りました。それでもヤトさんがやっぱりすごかったってことですよ。負けてしまいましたが、私はシャルと一緒に色んなことできて満足です」
エレナは気落ちした様子もなくニコニコと笑っていた。
「まぁエレナったら……。ありがとう……」
「もー、シャルったら苦しいですよ〜」
そんな微笑ましい光景だけで、このよく分からない天頂杯に参加した意味があると錯覚してしまう。
ーーま、シャル姫の優勝は阻止できたし、結果オーライだ。
「さ。早く戻るぞ。俺たちも帰って飯にしようぜ」
俺の提案に、二人がキョトンと振り返った。
「何を仰るのですの?」
「そうですよ、ヤトさん。シルファさんの料理がまだ披露されてないじゃないですか」
「楽しみですわね」
ーーあっ……。
完全に勝負は終わった気だった俺に、まだジョーカーが残っていたことを思い出し、思わず俺は空を仰ぐのだった。
次話 『惚れ薬は誰の手に』
下の☆☆☆☆☆から作品への評価ができます。
感じたままで構いませんので、よろしくお願いいたします。




