66. 料理対決
突如、シルファが抜けたことで、俺はクレオスと二人になってしまった。
ーーというか、大会中にメンバーの移籍が認められることに驚きなんだが……。
所詮はお祭りということだろう。
「僕らだけであの腕前を持つシルファエル君に勝てるとは思えないけど。というより、乙女達にも勝てない気がするよ」
クレオスが後ろ向きなことを言う。
「まぁ、普通に戦ったら勝負にならんだろな。エレナも何気にシルファから料理習ってるし……」
「おいおい、大丈夫かい? あんだけ大見得を切って完敗じゃ、格好にもならないよ?」
「善処するよ」
俺はそう言いながら腕をまくる。
「それで、何を作るんだい?」
「え? 料理はクレオスが作るんだぞ?」
クレオスも知っているはずだが、俺には調理スキルなんてない。
そもそも、レシピがなければカレーすら作れない。
リンゴの皮剥きにはピーラーが必要なレベルだ。
「……これはもう白旗を上げるべきかな……」
クレオスは首後ろを掻きながら力なく言った。
「おいおい、諦めるなよ。まだ勝負も始まってないのに」
「キミのその謎の自信だけは尊敬するよ……」
「士気の高さは大事だぞ。で、何が作れる?」
「んー。まぁそれなりに生きてるからね。ある簡単な物なら程度は作れると思うよ。どんなものがいいんだい?」
ーー流石は長寿のエルフ。俺の人生の6週分は長く生きているだけはある。
「そうだなぁ。質の勝負じゃどうせ勝てないんだ。アイディア勝負するしかない。冒険者の野営で作れる手頃で温まる料理がいいな。肉と野菜を使っていて、味の濃いものだとなおいい」
「だったら、定番の虹色スープかな」
「どんなのだ?」
「角切りの肉や野菜を入れて煮込むスープだよ。味付けは塩と胡椒とハーブとかかな。具材はその時の持ち合わせ次第さ。冒険者の料理といえば王道中の王道だけど」
「……闇鍋ポトフか……。よし、それでいこう」
「おいおい、正気かい? 冒険者はきっと食べ飽きてるよ?」
「だからだぞ。さて、じゃあ追加の素材を頼むとしよう」
俺はそう言いながら、ステージの裏にいるギルド職員の一人に声を掛ける。
…………
…………
「え? 追加の食材っすか? でもまだ何も届いてないっすよ? 多分用意されるとーーえ? 絶対に用意されないもの? 分かったっす、用意します。なんスか?」
若いギルド職員はメモ帳を取り出す。
「まず大豆を大袋で1つ。それから水酸化カルシウムをーー」
「えっと、それはなんスか……?」
「あーすまん、農作ギルドにいって消石灰をくれと言えば伝わる。1kgほど」
「り、了解っす」
「後は、炭酸水素ナトリウムだな。これは石鹸屋に言って重曹を頼めばもらえる。これも1kg」
「石鹸屋で重曹……っと」
「最後に、錬金術ギルドで塩酸を2kg買ってきてくれ。これは毒性だから気をつける様に」
「ど、毒!? 料理対決っすよね!?」
「あ、別に毒を盛ろうとかじゃないから。じゃ、頼んだよ」
「……りょ、了解っす」
ギルド職員はメモ帳を片手に去っていった。
しばらくして、ステージ上には即席の調理場が設けられ、様々な食材が揃った。
『では、いよいよ料理対決開幕ですっ!』
進行役の受付嬢がゴングを鳴らす。
『途中、メンバーのヘッドハンティングが行われ、むさ苦しい男3人の『鉄の絆』にも華があります。この移籍で結果はどうなるのか。全くもって未知数です。』
「さて。俺たちも取り掛かろうか」
「そうだね」
俺とクレオスは作業に取り掛かるのだった。
『3チーム、一斉に食材を手に取り調理が始まりました。おっと、早速『鉄の絆』に移籍した銀髪の女性が、ものすごい手際で野菜を切っていく! 男3人はただの置き物ですね! これは期待できる!』
ーープロかよ……。
と思うほどのシルファの手際。一家に一台欲しいのと思うのはこれで何度目だろう。
『さーて。一方女性二人で華がある『薔薇の乙女』。武勇に名を馳すシャルロット様が調理をする姿は、また別の美しさがあります! 相方の少女も堅実な手つきです! 一体何者なのでしょうか。』
ーー何気に、シャル姫も普通に料理できるの驚きなんだが!?
貴族のご令嬢なんて、厨房にすら入らさせてくれないイメージがあるんだが、手慣れた手つきで包丁を扱うシャル姫。
『一方、華を失い男だけになった『月と愉快な仲間達』! 愉快だったのは頭の中だけの可能性が浮上しております!』
ーーやかましいわ!
『さーて、何を作っているのでしょう! これが料理と言えるのか。怪しい儀式と言われても納得できるこの絵面! 審査員の方が今から心配です。』
司会者は俺の手元で煙を上げているコップを眺めながらボロクソ言う。
〜〜〜
司会者が実況する中、それぞれの料理が完成した。
『お待たせしました! いよいよ審査の時です。審査員の胃袋を鷲掴みにして握り潰せるか!』
ーー物騒だな、おい……。
『では、順番に披露していただきます! まずは暫定1位の『薔薇の乙女』さんの作品です!』
審査員の座る机に皿が運ばれてくる。
上品な魚料理だ。
『一言ご説明をいただけますか?』
司会の受付嬢に話題を振られたシャル姫が応える。
「ラングフォードの郷土料理でる白身魚のとオリーブのポワレですわ。これが嫌いな人は、この街にはいませんわよね?」
そう言って人を魅了する笑みで微笑みかける。
『この街で育つ者に口にしない人はいません! まさに実家の味! シャルロット姫のラングフォード領への愛が伝わってきます!』
ーーいや、「嫌いなやつは領民じゃねぇ」「低評価つけたら追放だぞオラ」みたいなニュアンス含んでね? 政治圧力じゃね!?
「「うまい!」」
「やっぱ故郷の味だな」
「シャルロット様の手作り料理……はぁはぁ……」
ーーおーい、衛兵さーん!
食べ終わった審査員が評価を板に書いていく。
『では、結果発表です! 『薔薇の乙女』の得点はルドルドルドルドル……デデンッ! 合計92点! これは高い!』
ーー10ポイント評価で平均9.2Pって……。料理意外のポイント加算されてね!?
エレナとシャル姫は手を合わせて喜んでいる。
そんな百合光景を鼻の下を伸ばして眺めている男審査員達。
ーー絶対不公平だろ! ミスコンじゃねぇぞゴルァ!
『さてさて、続いて2皿目。食べて倒れても当ギルドは一歳責任を持ちません、と前置きしておきます。『月と愉快な仲間達』さんの料理です! どうぞ!』
俺たちの……正確には、クレオスが作った闇鍋ポトフが運ばれてくる。
「虹色スープかよ」
「昨日も一昨日も食ったわ……」
「嫌いじゃねーんだけどよ……」
『おっと、審査員達のウケは悪いか!? それでは一言お願いします。』
俺は長らく考えていたフレーズを口にする。
「定番の虹色スープだが、隠し味には自信がある。評判が良ければレシピを公開するつもりなんだが、諸君らに判断していただきたい」
ーー遠回しに、ここで『評価が得られなけれレシピは公開しないぞ』という意味を含んだメッセージだ。
『どうもー。ただの虹色スープにあらず、といった自信ですね。隠し味は吉と出るか凶と出るか! それでは審査員も皆様、お願いします。』
審査員達は恐る恐るといった様子で、虹色スープにスプーンをつけるのだった。
次話 『料理チート』
下の☆☆☆☆☆から作品への評価ができます。
感じたままで構いませんので、よろしくお願いいたします。




