64. 天頂杯
「ゼェ、ハァ、ゼェ、ハァ……」
ーーどうしてこうなった……。
俺は生まれたての子鹿の様な足取りで、終わりの見えないゴールを目指してフラフラと走っていた。
〜〜〜
1時間ほど前。
”天頂杯”という名の、冒険者ギルド主催の『街一番の冒険者パーティー』を決める大会が始まった。
賞品は『惚れ薬』と幾許かの賞金。
どちらも大して欲しいとは思わないが、シャル姫が手に入れるのだけは、俺の身の危険を感じて参加を止めようとした。
ーーで、なんで俺が参加する羽目になってんの!?
冒険者登録されている人なら、誰でも仲間を誘って参加申請できるらしい。
シャル姫は俺の制止を振り切り、エレナを唆して参加を強行しやがった。
そして、彼女は言う。
「ご心配なさらなくても、私なら優勝できますから。エレナのこともお任せください」
……と。
ーーいや、それを心配してんんだよ!? お前に優勝されるのが一番困るんだよ!?
幸いにもクレオスが冒険者資格を持っているため、俺とシルファも参加してシャル姫の優勝を阻止する運びになって今に至る。
「でぇ……なん、で、俺が、マラソンを……ハァハァ……」
この天頂杯で競われるのは、冒険者パーティーとしての資質。
とはいえ、これはお祭りだ。
様々な項目の中からくじ引きで競う項目を決めて行われる。
そして、最初に選ばれた資質は持久力。
よって、俺たち参加者は街の外周を走らされて今に至のだ。
〜〜〜
俺が中央通りのゴールまで辿り着くと、司会の女性が鐘を鳴らした。
『おーっと! ここで最下位がゴールイン!』
ーー俺が最下位かよ……。いや、”身体強化”はズルい。ただでさえ体力ないのに、あんなん使われたら勝てんわ……。
『順位は格パーティーメンバーの平均順位で決まります。集計いたしますので少々お待ちください!』
「お疲れ様でした、マスター」
シルファが水の入ったコップを差し出す。
「サンキュ……。すまんな、足を引っ張って」
「気にしないでくれたまえ。キミにも不得手なことがあるんだと安心できる」
クレオスはそう言って「はっはっはっ」と軽快に笑う
「で、二人は何位だったんだ?」
呼吸を整えながら、俺は汗一つかいていないシルファとクレオスに尋ねる。
俺の成績が悪くても、彼女らとの平均値で順位が決まるならまだ優勝を狙う希望はある。
「久しぶりに走ったせいであんまり調子が出なかったけど、一応4位は取れたよ」
「目立たない程度に3位にしておきました」
ーーあれ、バケモンすぎません? 俺が参加する意味ある? 二人に任せた方が良くね?
「でも、流石にのシャルロット様だね。ダントツで一位だったみたいだよ」
そういうクレオスの視線の先に、束ねていた髪を解いて靡かせるシャルロットの姿。
「やっぱ凄いんだな……」
と、関心していてはいけない。なんとしても引き摺り落とさなければ……。
『集計結果が出ました! 現在順位は暫定1位『鉄の絆』!』
「流石S級冒険者パーティーだ」
「やっぱすげぇな『鉄の絆』は」
「優勝してくれよ!」
観客達が結果を聞いてさらに盛り上がっている。
『続いて暫定2位の『リベリオン』!』
「大手の力だな」
「あそこは全員A級以上のパーティションなんだろ? 安定してんなぁ」
「よっ! リベリオン! アンタ達に賭けてんだ! 今年も頼むよ!」
『暫定3位は『薔薇の乙女』!』
「ん? 聞いたことないパーティーだな」
「なんだお前、知らないのか? シャルロット様が参戦してるんだぜ?」
「なに? じゃああれはその?」
「ああ。シャルロット様とそのお友達の二人組だってよ。他のパーティーを押し退けて3位にランクインしてんだぜ?」
「やっぱとんでもねぇな。ウチの領主様ご一家は。くっそ〜。『鉄の絆』に5万も賭けちまったぞ……。シャルロット様に賭けるんだった!」
「アンタ達馬鹿なの!? 冒険者の資質では『リベリオン』が最強よ! 姫さんじゃ勝てないわよ!」
「へっ! 俺は『薔薇の乙女』に賭けてるぜ? 優勝は間違いねぇ!」
「へっ。どうせ鼻の下伸ばしてるんでしょ!? 男はこれだから!」
観客達は賭け事でもしているのだろうか。
どこが優勝するかを言い争っている様だ。
「そういや、俺たちなんて名前で届出たんだ?」
俺は張り出された紙で自分達の順位を探そうとクレオスに聞く。
「月と愉快な仲間達」
「は?」
「だから、『月と愉快な仲間達』だって」
ーーなんだそれ……。まぁ確かに、旧人類に天使にエルフだしな。愉快すぎる仲間なのは同意だが、ネーミングセンスよ……。
ともあれ俺たちが、52組中7位といういう意外にも高い成績に安堵する。
ーーまだ優勝射程圏内か。こんなん競技次第だな……。
『では、上位10組以外は残念ながら落選となります! さよなら〜!』
2回戦に進めなかった冒険者達が地面を叩いて悔しがっている。
「くそ〜〜!」
「俺の惚れ薬がぁー!」
「ああ、メリンちゃ〜ん!」
「あ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ!」
ーー大丈夫か、こいつら……。
大の大人が涙を流して崩れ落ちる姿に、俺たちは何をさせられているのだと不安になる。
『さてさて。次の勝負内容を発表します! 次はー……ドルドルドルドル、デデンッ! おっと、これは冒険者達には過酷な勝負!』
司会者の女が引き当てたくじを見て戯けている。
『問われる資質は読み書き計算、基礎知能! これは脳味噌がニワトリレベルの冒険者達には致命的ですっ!』
「ふざけんな!」
「馬鹿にしすぎだコノヤロー!」
「舐めてんじゃねぇぞ! 文字ぐらい読めるわ!」
『おっと、いつものことながら冒険者さん達、威勢だけは一人前です! さーて! 生き残った10組の冒険者さんはステージに来てください!』
「どうやら今度の勝負は、運がボクらの味方をしたようだね」
クレオスが軽い足取りでステージに上がる。
「だな」
俺も肩の力を抜きながら、二回戦へと臨むのだった。
『ではでは! 2回戦のルール説明です! 皆様にお渡ししたのは、商業ギルドで使われる算術問題集です。1問1点で、制限時間内にどれだけ解けるかを競ってもらいます。』
俺たちには、パーティーに1冊づつ問題集が配られた。
前半は簡単な問題で、後半になるにつれて難易度が上がる様だ。
ーーこれなら余裕だな。
『本来は一人で解くものですが、頭の弱い冒険者の皆さんには酷な話! パーティで協力すれば……おっと、馬鹿が何人集まっても馬鹿にしかならないことを今気づきました!』
「ふざけんな!」
「ぶっ殺すぞ!」
「バカって言う方がバカなんだぞ!」
『なお、激カワで超優秀でもあるワタシは72点でした。それより低い冒険者は、明日からワタシのことはヘンリエッタ様と呼んでいただきます。おっと、これでは全員になってしまいそうです!』
「調子乗んな!」
「いつも一言余計なんだよヘリカスこの野郎!」
『不正はパーティー全員で失格となります。ワタシへの暴言も即刻失格となります。』
「「横暴だ!」」
『制限時間は本来は1時間ですが、尺を考えて15分とします。それでは始めてください!』
司会役の女性が鐘を叩いて鳴らした。
ーー流石祭り……。適当すぎる……。
問題冊子と蝋ペンだけ手渡され、椅子も机もなく試験が始まった。
「は、早く始めるぞ!」
「ミミ、お前が頼みの綱だ! 頼むぜ!」
「俺たちの天才さを見せてやろうぜ!」
冒険者達はすぐにステージの台や壁などを使って問題を解き始めている。
「時間も少ないし、俺達も取り掛かるとしよう。三等分でいいよな?」
「構わないよ」
「お任せくださいマスター」
俺はそう言って、問題冊子の綴じ紐を解くのだった。
次話 『寝返ったシルファ』
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感じたままで構いませんので、よろしくお願いいたします。




