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46.*力無き者の戦い方

 

 ********



「オラオラ。早く出てこねぇと家ごとぶち壊すぞぉ!? クヒヒッ!」


 領主邸正面玄関までやって来た仮面をつけた男、帝国魔導士のエドウィン・ローグ。


 エドウィンの指示でゴーレムが腕を振り上げる。



「待ちなさい!」


「あぁん?」


 二階の窓から降って来たエレナが、エドウィンの視界に映る。


「あなたの相手は私です」

 エレナは恐れを抑えて喉を振るわせながらゴーレムの前に立った。


「テメーは……奴と一緒にいた女だな。ちょうどいい。行け! ゴーレム! 生捕だ!」


 エレナは自分が標的になったのを確認し、身を翻して逃げる。


「逃がすかよっ! キヒヒッ!」



 エレナの後ろから岩の巨体とエドウィンが追いかける。




(私の魔法力では、”身体強化ブースト”ももって数分……。ゴーレムに殴られたら”魔法障壁シールド”でも防げないかもしれない……)


 エレナは迫り来る恐怖に抗いながら、裏手にある別邸に向かう。



 そこは、ラングフォード伯爵から夜斗達が借りて現在するんでいる屋敷。


「クヒヒ。残念だったなぁ。今回のゴーレムは瞬足だぜ!」



 ゴーレムとエレナの距離がみるみる縮まる。




(エレナ!)


 エドウィンの後ろから距離を開けて追いかけるミリア嬢も、心の中で悲鳴を上げる。



「クヒヒッ! 行き止まりだぜ! 鬼ごっこは終わりだぁ!」


 別邸の中庭。

 夜斗達が貝を砕いていた場所だ。



 中庭は建物に囲まれており、あるのは池ぐらいなもの。

 3階建ての建物に四方を囲まれたその中庭は袋小路だった。



「もう逃げ場はねぇぜ! ヒヒッ。ゴーレム、捕まえーーん?」


 エドウィンは、池の手前で立ち止まると思った少女が、立ち止まることもなく池に足を踏み入れたことに小さく驚いた。


「チッ。水じゃねぇーのかよ」


 池に溜まる白く澱んだ液体の上を走るエレナの姿を見て、池ではなかったのかとエドウィンは舌打ちする。



「手間かけさせやがって。無駄な足掻きを。行け! ゴーレム!」


 池を渡り切って行き止まりとなった建物の壁に背を付けるエレナも、肩で息をしながら近付くゴーレムに顔を強張らせる。


「キヒヒヒ! 劣等血族めが。俺様から逃げれるとでも思ったか!」


 エレナは帝国三大貴族のエルメス家の出自。

 だが、妾腹の彼女が表舞台に立つこともなく、エドウィンもエレナのことを知らない。



「確かに私は魔法力が弱く、欠陥品です……」


 ゴーレムが池に足を踏み入れエレナに近づこうとする。


「分かってんじゃねーか。だったら大人しくヤトの居場所を吐け。そうすりゃ命ぐらいはーー」


「でも、私は決めました。あの人の隣に立てるような人になるって……。だから……あなたには負けれません!」


「ク……クヒヒヒッ! キハハハハハッ! 傑作だぜ!」


 エレナの言葉にエドウィンは腹を抱えて笑う。


「図に乗るなよ? 雑魚が! ぶち殺されたいーー……なんだ? ……ゴーレム!」


 エレナの後を追って池を渡ろうと足を踏み入れたゴーレムの足が止まっていた。

 それどころか、ズブズブと徐々に下がる。


「な、なんだ!? なんだこの池は! ゴーレム、早く渡れ!」


 数秒前にエレナが走って渡ったその池が、今はまるで沼のようにゴーレムを沈ませる。


「くそっ!? どうなってやがる! ゴーレム!」


 ゴーレムは粘性のその液体の中に沈んでいく。



「ここには水酸化カルシウムを作るために貝を砕いた粉末を大量に入れていました。先日の雨で溢れそうになっていますが、ここは深い池です。重たいゴーレムではこの中では浮き上がれないでしょう。なので、もうここから出ることはできません」


「ふ……ふざけるな! 池だと!? テメェーは走って渡ってただろ!? 俺様のゴーレムの魔法耐性は完璧だ! こんなことがーー」


「あなたには魔法に見えているのかもしれませんが、これは自然法則です。 粒子が入った液体は、圧力が加わると粒子の間隔が密集し、固体の様に振る舞う性質を持つダイラタンシー現象……。あなたのゴーレムは池に足を踏み入れてしまった。」


 エレナが夜斗に初めて見せた科学実験。

 その時の内容を、エレナは覚えていた。


 彼女は自分に意識を向けさせるべく、エドウィンに話を続ける。



「あなたのゴーレムは渡ることはできなかったようですね。あなたの相手は私といったはずですっ!」


 エドウィンは、夜斗の瞬間接着剤対策に油を塗っていたことも、界面活性剤としてゴーレムを沈ませる要因としてマイナスに働いた。


「くそがっ!」


 杖を降って動かそうとするエドウィンも、すっぽりと頭まで入ったゴーレムは池から出れない。



「テメェ……クソガキ……。劣等血族の分際で……。ぶち殺す。テメェは絶対ぇ、ぶち殺してやる」


 頭に血が昇るエドウィンは、顔につけた仮面を地面に叩きつけて鬼の形相でエレナを睨む。


 エドウィンは完全にエレナを敵だと認識し、杖を握りしめる。


「テメェを切り刻んでーー」


『揺るぎない起源は久遠の灯火……。』


 エレナが詠唱を始め、彼女の足元に魔法陣が展開した。



「起源魔法だと!?」


 エドウィンはエレナの詠唱文から発動させようとする魔法を先読みし、その無謀さに驚く。



「バカめ! させるかよ! ”凱岩撃ロックブラスト”!」


 魔法発動には、詠唱、略唱、無詠唱と三段回ある。


 発動難易度の高い魔法や、慣れていない魔法は詠唱が必要だ。

 だが、詠唱中は”魔法障壁シールド”等の防御魔法も展開できず無防備になる。



 エドウィンの放った無数の岩の槍がエレナを襲う。


「ヘッ! ガラ空きだぜ!」


 だが……。


「”魔法障壁シールド!”」


 ガキンガキンとエレナが展開した魔法障壁に岩が当たって音を立てる。


「詠唱転換!? バカな!?」


 展開された魔法陣を書き換え、新たな魔法を瞬時に展開するのは本来はできない。


 そんな高等テクニックを繰り広げたエレナに、エドウィンは驚嘆した。



「アンタもガラ空きよ!”新星波撃インパルスノヴァ”!」

「なに!? ぐはっ……」



 エドウィンの背後に忍び寄っていたいミリア嬢が、魔法発動直後の無防備な背中に強力な魔法を叩き込んだ。


 エレナに怒り、意識を集中していたエドウィンは、ミリア嬢が背後で魔法を詠唱し構築していたことにまで意識が回っていなかった。

 それは完全に二人の作戦通り。



「がはっ!」

 魔法による衝撃で塀まで吹き飛ばされ、激しく当たって声を上げる。



「この……メスガキが……ッ」


 エドウィンは、ヨロヨロと再び立ち上がってミリア嬢を視界に捉えて睨んだ。


「……流石は序列一桁ナンバーズね……。あの魔法を直撃してなんともないというの……?」


 エドウィンの膨大な魔法力から張られた”魔法防殻プロテクト”は、ミリア嬢が放てる最高火力の魔法をも防ぎ切ったのだった。


「ゲホッ……。ぐっ……痛ってぇなぁ……テメエぇら……絶対ぇぶち殺す。殺す殺す殺す殺す。ギヒヒ……」



 自分のゴーレムを封じられ、生意気な小娘二人に弄ばれたことにエドウィンの怒りは最頂点に登っていた。


 もはや皇帝からの密命である超古代文明人の拉致のことは頭から忘れ、ただ目の前の二人をどう切り刻んでやろうという憎悪の念だけが思考を占める。


「キハハハ……。オメェら知ってっか? 命乞いの先は、殺してくれって言うんだぜ? クヒヒッ」


 エドウィンは口の中の血を吐き捨て不気味に笑う。


「手足を切り落とし火炙りにてなぁ。瀕死になったら回復してなぁ。何度も何度も繰り返すと、助けてくれって言ってたのに、そのうち殺してくれって言い出すんだぜ? クヒヒヒ……。テメエぇらはいつまでもつかなぁ……」



 不穏な空気を漂わせるエドウィンに、二人の背筋に悪寒が走る。



(今ので倒せないなら……私たちにはもう……)


 エレナとミリア嬢も万策付き、もう後がなかった。


 例え2対1で数的優位があっても、真っ向から対決すれば帝国の序列一桁(ナンバーズ)相手には勝算は皆無なことは二人には分かっていた。



「キヒヒ。奇策は終わりか? じゃぁ、俺様の番だ。しっかりお礼してやるよ。この前の分もな! ギャハハハッ!」



 顔を歪ませて笑うエドウィンを見て、エレナもミリア嬢も思い出したかのように恐怖心が蘇る。


「キヒャハハ! いい顔だぜ! パーティーの始まりだぁ」



 エドウィンは両手を広げ、これから自分のする鬱憤晴らしに歓喜の声を上げた。




「ほぉ。随分楽しそうなパーティだな。俺も混ぜてくれ」


「「「!?」」」


 その場に響いた新たな声。



 その声に、エレナとミリア嬢の顔がパァッと明るくなるのだった。



 ********

次話 『リベンジマッチ』


下の☆☆☆☆☆から作品への評価ができます。

感じたままで構いませんので、よろしくお願いいたします。

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