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45/69

45.*エレナの覚悟


 ********


 領主邸の一室では、ミリア嬢が後方支援の指揮を取っていた。



「ミリア様。携帯食料500食分用意しました」

 伝令兵がミリア嬢に伝える。


「分かったわ。順次前線に送って頂戴」


「はっ!」



 長期戦となる都市防衛戦では、兵站管理は重要だ。


 食事や回復薬などの物資から、怪我の治療や休息交代などなど。これを見誤れば継戦能力は失う。


「ミリアさん。屋敷に備蓄していた回復薬は前線に送り終わりました。今冒険者ギルドから追加分を受け取るので、そちらも送りますね」


「ええ。よろしくね、エレナ」


「はい」



 夜斗から「ミリア嬢をよろしく」と頼まれていたエレナは、前線に行った夜斗達のことを心配しつつも目の前の仕事に取り掛かっていた。



 ゴーン

 ゴーン


 教会の鐘が鳴る。


 10時を意味した。



「……もうすぐね……」


 ミリア嬢はじきに始まる戦闘に、思わずゴクリと唾を飲み込む。



「……でもアレね。エレナが手伝ってくれて助かるわ」

 ミリア嬢は自分の中に生じる不安を払うかのように明るくエレナに声をかける。


 識字率が2割程度の社会で、読み書き計算を満足にできるエレナはとても頼りになっていた。


「いえ、私は……」


「謙遜しなくていいわよ。流石はお姉様と同じ帝国学院出身ね」


「……途中で強制退学させられてしまいましたが……」


「……あ……。そうだったわね、ごめんなさい……。嫌なこと思い出させちゃったわね」

「い、いえ」



 エレナは思い出す。自分が帝国を追放された理由を。


 ”帝国貴族でありながら、魔法力に乏しい欠陥品”




(適材適所……ですか……)


 エレナの脳裏に夜斗が言った言葉がよぎる。


 夜斗としては、兵站管理も戦闘と同じほど……いやそれ以上に重要だと理解してのことだ。


 だが、戦争理論が確立されていない文明での兵站は軽視される節がある。

 そんな社会で「適材適所」だと後方に押し込まれれば、それは遠回しの戦力外通告に他ならなかった。



(私はいつも二人に守られてばかり………)

 自分の無力感と、夜斗やシルファとの間に必然的に生まれる差に歯痒い思いが募る。



「シャル姉様は大丈夫かしら……」


 ポツリと窓の外を見ながら呟くミリア嬢。


「だ、大丈夫ですよ。シャルは剣も魔法も一級ですっ! それに、ヤトさん達もついていますから」


「……そうね。お姉様はお強いもの……私と違って……」

 そう言って湿った視線を切るミリア嬢の気持ちは、エレナには痛いほどわかっていた。


「……ミリアさん……」


 ミリア嬢もまた、姉との間に言葉に表せない劣等感があった。


 常人離れした存在は、少なからず周りに劣等感を抱かせるのは仕方がないことだろう。



 似た様な二人が同じように無力感に苛むその空間は、とても重たい空気が流れていた。




 〜〜〜



 戦闘開始から半刻。


 伝令兵がミリア嬢に魔獣撃退の吉報を届ける。



「ーーどういうこと? もう戦闘が終わったというの!?」


 伝令兵も自分の見た光景があまりに現実離れしていることから、言葉での説明は困難を極めた。


 …………

 …………

 …………



「ーーなるほどね……。ヤトがね……。……相変わらず非常識というか、次元が違うと言うか……」



 伝令兵の説明から状況を把握したミリア嬢は、感心を通り過ぎて呆れた様子を見せる。


 その時だった。


 ドーン!!

 という大きな衝撃音が響いた。



「なにっ!?」

「わ、分かりません。外に何かが落ちた様な……」


 ミリア嬢とエレナは、窓の外から音のした方を見る。



「あれは……!?」


 屋敷の近くの建物に落ちた岩の塊。

 それは土煙の中で動き、人の形となって立ち上がった。


「「ゴーレム!?」」


 突如として街の中央に現れたゴーレムに、ミリア嬢もエレナも驚愕の声を上げるのだった。



 ◇◇◇



 都市防衛の指揮所となっていた領主邸では、突然のゴーレム襲撃に混乱状態だった。



「なんでゴーレムがーーぐわぁぁ!」

「”風刃ウィンドスラッシュ”! クソッ!」


 魔法耐性が付与され、岩で出来た体が剣撃をものともせず、ただ一体のゴーレムに屋敷にいた数人の兵は次々と倒されていく。



「くそ……前線に全戦力を割いているせいで、後方が手薄なのが災いしたか……しかしなぜゴーレムなんかが……」


 シャルロット姫からこの場を任せられた領兵隊長が顔を歪ませる。



「隊長! 我々小隊だけでは抑えられません!」

「分かっている! しかし応援が到着するまでなんとしてもここを通すな!」


 領主邸には、前線となる城壁付近の子どもや高齢者などの非戦闘員が避難していた。

 そんな彼らを背後に、領兵達も逃げることが出来ない。



「俺様、参上。キヒヒッ」


 ゴーレムの背後から、仮面を付けた男が現れる。


「何者だッ!」

 領兵隊長は剣を向けて警戒する。


「キヒヒッ。今の俺様は何者でもねぇ。ここに匿ってるヤトって野郎を差し出せ。そうすりゃ大人しく消えてやらぁ」

「……」


 帝国魔導士序列八位のエドウィン・ローグ。


 ゴーレムが飛ばされて来たことで、標的の確保へと動き出したのだった。




「時間がねぇ。断るてーなら、勝手に連れてくまでだ」

 エドウィンは杖を小さく動かしゴーレムを動かす。


「通すものkーーグハッ!?」

「”水槍アクアランス”! チッ硬い……!」

「術者を倒せ!」



「あぁん? 死んでろ、雑魚共が。”鉄破撃メタルバースト”」


「「ぐあぁぁぁぁあああ!」」


 ゴーレムを取り囲む領兵達も、帝国魔導士ナンバーズとゴーレム相手には為す術もない。



「このままでは……」


 悠々と屋敷の敷地内へと迫るゴーレムを前に、領兵隊長は奥歯を噛み締める。



「オラァ。さっさと連れてこいやぁ。ここにいる連中を皆殺しにされたくなけりゃな!」




 屋敷の前庭で繰り広げられる一方的な戦いを前に、二階の窓から見ていたエレナとミリア嬢は息を飲む。



「エ、エレナ。アンタは逃げなさい!」

 ミリア嬢は震える声を抑えて彼女の腕を引く。


「ミ、ミリアさんもーー」

「アイツが狙ってるのはヤトよ? 魔獣襲来モンスタースタンピードの混乱に紛れて連れ去る気なんだわ!」


 ミリア嬢もエレナも察していた。


 仮面をつけているとはいえ、あのゴーレム使いは以前自分たちを襲撃して来た帝国魔導士序列八位のエドウィン・ローグであるということを。



「アンタが見つかったら人質にされるわ。私が時間を稼ぐから早く逃げて!」


 エレナはミリア嬢が引いた手に抵抗する。


「い、嫌です……」


「ちょっと。アンタ!?」


「私は弱いですが……。ヤトさんにミリアさんを任されました。ミリアさんを置いて行けません!」


「相手はゴーレムよ!? 確かに前はヤトが一人で倒しちゃったけど、あんなの例外だわ! 逃げなさい!」


「……それは……」


 ミリア嬢のエレナを思っての言葉は、ただただエレナの無力感を浮き彫りにする。




(どうして私はこんなにも無力なのでしょう……。力があれば……)


 領兵を片付け庭を悠々と歩いて屋敷に近付くゴーレムと魔導士の姿を、エレナは窓から苦渋に満ちた顔で眺めていた。



(私にお姉さまの様な力があれば……)

(私にヤトさんの様な力があれば……)


 二人は心の底から悔しがる。


 ギュッと固く閉じた真っ暗な視界の中、エレナの耳に声が聞こえた気がした。



 『強さとは、目的を遂行しうる力だ。』



 彼女が夜斗と出会った頃に伝えた力の本質。

 それは空耳だが、その言葉をエレナはふと思い出す。



(目的を……遂行しうる力……。こんな時、ヤトさんなら……)


 エレナは必死に思考を巡らす。


 そして大きく深呼吸をした。


「ミリアさん」

「……?」

「あのゴーレムを……倒しましょう」



 その鋭く芯のある瞳に、ミリア嬢は息を飲んでただ彼女を見つめるのだった。

次話 ❇︎『力無き者の戦い方』


下の☆☆☆☆☆から作品への評価ができます。

感じたままで構いませんので、よろしくお願いいたします。

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