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44. 終わらない戦闘

 街に迫ってきていた魔獣達は動かない肉塊となり、後続の群れも森へと逃げ帰った。


 俺はカール隊長率いる守衛隊に、除染のための陣頭指揮をとっていた。

 イペリットの持続性を考えると、放置するのは色々問題があるからだ。




「では、説明したとおり作業に取り掛かってくれ」


「「はっ!」」



 ーーふぅ。一件落着だな。


 俺は安堵の息をつく。


 これで、俺の平穏な生活も戻るだろうと思って……。



 だが、その期待はすぐに消え失せた。


 ーー!?


 俺たちの頭上を越える様に、岩の塊が城壁を超えて街の中へと飛んでいく。



 誰もが何が起きたのかと唖然とする中、その岩は街の中央付近に落ちて周辺の建物を薙ぎ倒した。


 ーー曲射砲弾!? いや、魔法かっ!?


 飛んできた方角に目をやる。それは、先ほど魔獣が迫ってきた西の森。



「何んだ!?」


「なんか飛んできたぞ!?」


「森の方角からだ!」


 城壁の上にいた兵士達にも動揺が広がった。



「カール隊長。一体、何が起きているというのですの?」


「わ、分かりません。急に岩が飛んできてーー」



 ヒュルルルルルル……。


 俺たちの目に、再び西の森から空へ打ち上げられる塊を見る。

 その岩は先程とは異なり、業火に包まれていた。



 ーーあれが街中に落ちたらマズイ……。


「シルファ、迎撃出来るか?」


概念機関プラントギアを展開してよろしければ……」


 ーーっ……。


 この場でシルファがプラントギアを展開すれば、彼女の存在は明るみに出る。それは望ましくはない。かといって指を加えてみている訳にも……。



 俺の一瞬の躊躇いに割って、シャルロット姫が動いた。


「借りますわよ」


 近くの兵士から槍を半ば強引に奪い取る。



「『揺れ動く翠玉は流れる波にただ彷徨う。波は逆流し、譲ることなく遠ざかる足音となりて加速する……。』」


 槍を手に、瞼を閉じて詠唱を始めるシャルロット姫。


 彼女の足元に展開され構築されていく魔法陣に、俺は目を奪われていた。


「『積もる力に押し出され、それでも抗う翠玉は世界の領域をも踏み外す。膨れ上がる力は螺旋の波となり、一つの道へと導かれん……。』


 光を屈折させるほど高密度な空気の壁が、彼女の持つ槍に纏わりついていた。


『”轟加疾風アクセルトルネード”!』


 彼女の手から放たれた槍が、軌跡を残して飛んでいく。

 それは勢いを失うどころか徐々に加速し、そして飛んでくる赤々と燃える岩を貫き砕いた。



 ーースッゲー……。



 粉々となって城壁の手前で落ちる岩の残骸を見て、魔法とその使い手であるシャルロット姫に小学生並みの感想を持つ。


 だが、3発目の岩が森の一画から打ち上げられるのを視界に捉えた。


「っ!?」


 シャルロット姫の顔が苦渋に染まる。


 その意味は、俺はすぐに分かった。

 肩で息をし、呼吸を整えようとする彼女の姿を見れば一目瞭然。


「……シャルロット姫。あと何回撃てる?」


「7発……いえ、6発が限界ですわね……」



 ーー6発以上が飛んできたら、遠距離からの一方的に街を壊される……か。



「シャルロット様。自分たちが大元を叩いてきます!」

 カール隊長が、城壁の兵士を連れて昇降機へと走っていく。


「待て! あの一帯は今入れば死ぬぞ!?」


 俺は忠告する。いくら治癒魔法があるからと言って、生身の人が化学兵器が撒かれた領域に入れば命の保証は出来ない。


「くっ……。ならば北から迂回して森へと進軍します!」


「頼みましたわよ……」


 シャルロット姫はカール隊長にそう伝えると、再び迎撃魔法の準備を始める。



「馬を用意しろ! 中隊、直ちに行くぞ!」

 カール隊長ら率いる数十人の守衛隊が城壁を降りて行く。



 ーーこのままいけば、彼らが辿り着く頃には街にはかなりの被害が出る……。


 俺が平野を通行止めにしてしまったから、到着までに余計に時間ががかかるだろう。



 ーーこの手はあまり使いたくなかったが……。致し方ない。切り札ジョーカーを切ろう。



「シルファ、大元を叩いてきてくれ」


「……よろしいのですか? それではマスターが……」

 シルファは俺に確認する。


 彼女も当然理解しているのだろう。

 一連の騒動が帝国の差金であるなら、当然この遠距離攻撃も帝国の仕業だ。


 目的は俺の拉致に他ならない。これは陽動の一手だと推察できる。


 だとすると、シルファが俺から離れるのは危険であると。



「心配ない。自分の身は自分で守れるさ。それに、ここには兵も大勢いるしな」


「……承知いたしました」


 彼女は静かに頷く。


「ああ、殺すなとは言わないが、必要以上に殺さないでやれ」


「仰せのままに。マイマスター」


 彼女は城壁の外へと飛び降りて、一直線に物凄い速さで西の森へと駆けて行った。



 ーーこれならシャルロット姫の迎撃してる間に、シルファが術者を抑えれるだろう。


 一発目の岩で数軒の家屋が倒壊しただろうが、これ以上街に被害は出ない。


 あとは、本命の俺を狙ってくる襲撃者をなんとかすればいい。


 俺は周囲に視線をやり、ホルダーから薬品の入った試験管を手にする。



 ーーこの場には冒険者もいる。表立っての襲撃は出来ないはず。だとすると、不意を突いての奇襲か、帝国の工作員が冒険者にでもなりすましているか……。



『……”轟加疾風アクセルトルネード”!』


 バシュッ……! バチンッ!


 ガラガラガラッ!!



 シャルロット姫が隣で岩を迎撃する。


 その火のついた欠片がしだれ花火のように周囲に飛散した。



 ーーそういえばなぜ1発目は火球じゃなかったんだ?


 俺は、1発目はただの岩が飛んできたことに違和感を覚える。


 ーー最初から火球を飛ばしていれば、もっと被害は大きく出来たはずなのに……。


 そんな漠然とした疑問が浮かび上がった。


 次の瞬間。

 俺の疑問に答えるかの様に、背後から建物が破壊される大きな音が聞こえた。



 ガシャーーン!!


 その音に反射的に振り返り、土煙の間から動く褐色の岩が見えた。


 ーーゴーレム!?



 舞い上がる土埃と建物の間から一瞬見えた岩の人形。


 俺の頭の中で全てが繋がる。


 ーーしまった……。1発目はゴーレムの街に侵入させるためだったか! 狙いは領主邸……。前線には兵士が密集しているが、領主邸は手薄。俺がそこにいると思っての強襲か!?




 帝国は、俺が”魔法も使えず戦う力もない低脳な劣等種”だと認識しているのは知っている。


 だからこそ、魔獣襲来モンスタースタンピードがあっても前線には出ないと思っているのだろう。


 彼らからしたら合理的な作戦であり、そして盛大な勘違いだ。



 だが、領主邸にはエレナがいる……。


「クソッ!」


 俺は身を翻して昇降機のロープを掴んで滑り落ちる。



「最悪だ……。敵の狙いが外れているのになぜ俺が焦らないといけない……。エレナ……」


 俺は祈る様な気持ちを持ちながら、街の中央通りを領主邸目掛けて全力で走っていくのだった。

次話 *『エレナの覚悟』


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感じたままで構いませんので、よろしくお願いいたします。

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