41. 勝敗は始まる前から決まっている
「シャルロット姫、どこいってたんだ? 探したぞ」
俺は指揮所に戻ってきた彼女に手を上げて意識を向けさせる。
「ヤト様。どうかされましたの?」
彼女は作られた微笑みを見せた。
「ああ。ちょっと重要な話をしたいんだが……。……どうした?目元が赤いぞ?」
「っ!?」
浮かべていた笑みが消えて、彼女はすぐ近くのガラスに自分の顔を映した。
「お気になさらず。埃が入っただけですわ」
「……そうか」
彼女は誰にも弱音も吐けず、小さな両肩に街の命運を背負って立っているのを考えると複雑な心境だ。
「さっきは無責任なことを言った。すまない」
「い、いえ……」
「それと、今回の魔獣襲来。もしかしたら俺のせいかもしれない」
俺の言葉に、シャルロット姫は口を開ける。
「……こんな時に冗談は怒りますよとーー」
「あー……だよね……うん、いや、すまん。今のは気にしないでくれ」
分かってはいた、到底信じられる話ではないだろう。
彼女らには俺が超古代文明人であることは言っていない。
今は余計なことは言わない方がいいと判断し、俺は話を切り上げ本題に入る。
「一つお願いしたいことがある」
「なんですの?」
「治癒魔法が使える者を20人ほど貸して欲しい。それと、城壁上の投石器も借りたい」
俺の要請に彼女は顔を顰めた。
「何に使うのです? 20人でも貴重な戦力ですのよ? おいそれと遊ばせることはできませんわ」
「20人いれば、俺がこの不毛な争いに決着をつけてやるよ。精鋭の兵士じゃなくていい。人手が欲しいだけだ」
「……配置は既に決めておりますの。今から部隊移動は混乱を招くだけですわ」
彼女はそう言って首を振った。
ーーま、居候してるだけの男に、貴重な戦力を割けないよな……。当然の判断ではあるが……。
俺がやりたいことを説明しても、理解される保証はない。
時間がないのにもどかしい。
ーーしょうがない、シルファに頼んd……。
「お姉さま! アタシからもお願いするわ!」
俺の思考を遮って、聞き馴染んだ甲高い声が響いた。
「ミリア……」
シャルロット姫は廊下から入ってくる小さな少女を視界に収める。
「お姉さま。コイツすごいんだから! 帝国の序列一桁も瞬殺なのよッ!」
ーーいや、殺してないからな? 捕縛したじゃん……。
「アンタ、何か策があるんでしょう?」
まるで悪戯っ子の様な笑みを浮かべてミリア嬢は俺に聞いた。
「ああ、まぁな。策というか、無理を通して道理を捻じ曲げる残虐な手段だが……」
「はぁ? ……相変わらずアンタの言うことは意味不明ね。まぁいいわ、お姉さま、お願い! 治癒魔法が使える人を15人手配して!」
「ん?15じゃーー」
「アタシの護衛を貸すわ」
ミリア嬢はそう言って腕を組み胸を張った。
「……なるほど、助かる」
ミリア嬢は前線には出ず、この屋敷で後方支援をすると言う話だ。彼女の専属護衛を出してくれるというならありがたく借りる。
「……分かりましたわ……。ミリアを信じてあなたには遊撃隊として動いてもらうことにします。くれぐれもーー」
「大丈夫よ。ヤトは凄いんだから! ね?」
「あ、あぁ。まぁ何とかするよ……」
俺の代わりに自信満々に胸を張るミリア嬢。そんな彼女を見てシャルロット姫は「はぁ……」っと小さく溜息を付く。
ーー苦労を察するよ……。お姉さん……。
シャルロット姫はすぐに領兵を呼び、一人の男を俺に紹介した。
「こちら、カール守衛隊長さんですわ」
「カールであります。投石器を使うのでしたら、我々守衛隊が適任であります。お任せくださいっ!」
30代後半の誠実そうな男は、俺にビシッと敬礼した。
「ああ、ヤトだ。よろしく。あまり時間がない。早速だが西の城壁に向かおう」
「了解であります」
俺はカール隊長と会議室を後にするのだった。
襲撃まで1時間を切っただろう。
俺たちはシルファと合流して西の城壁の上に来ていた。
「来る時にも見たがただの平野だな。 海風が向こう側に流れるのも理想的だ……」
西の森から城壁までは、1kmは続く何もない見通しの良い平野だ。
「して。自分たちは何をすればよろしいのでしょうか」
集められた20人を代表して、カール隊長は俺に尋ねた。
「シルファ、硫化ジクロジエチル……赤の3番ラベルの樽だ。出してくれ」
「はい、マスター」
シルファがそう言うと、城壁上にドダンッドダンと樽が出現して積み上げられる。
「おぉ!? これは古代文明遺産のマジックボックスですかッ!」
「何者なんだ? なんで神話級の古代文明遺産を持っているのだ?」
突如現れた無数の樽に、兵士達が驚く。
「まぁ、細かいことは気にするなよ。22世紀の四次元ポケtーー。ゴホンゴホン」
正確には、余剰空間に情報格納された物を物質展開するとかなんとか。
「で、だ。今からこれらを、そこの平野にぶちまける」
「「?」」
なんの意味があるのかと、趣旨を理解できずに皆が首を傾げる。
ーーぶっちゃけ、シルファが飛びながらまけば早いんだが、翼の生えたシルファはまんま天翼族だからそれはできない……。
神話時代の神の御使いがリアルにいると露呈すれば、影響が計り知れない。
ーー特に、宗教関係は下手に関わったらダメだ……。
帝国から追われ、教会からも追われるなんてことになれば、俺たちはもうこの大陸にいられないまである。
「……ということで、諸君らには投石器でこれをひたすらそこの平野に放り投げる簡単なお仕事を頼みたい」
「「……」」
反応がない様だが、俺は無視して進む。
「それと、定期的に自分に回復魔法をかけること。かなり厳密に密閉処置はされてると思うけど、容器が。中の液体に触れても、気化した気体を吸っても……。……いや、これ以上は言うまい」
俺は意味深に呟いた。
「な、中身はなんでありますか?」
不穏な空気を察してか、カール隊長が尋ねる。
「……魔獣を駆除する毒だよ。なぁに、詳しいことは諸君らが知る必要はない。それとも…………知りたいか?」
俺はそう言ってニヤッと笑った。
その表情を見たカール隊長がゴクリと息を飲み、首を激しく横に振る
「自分たちは職務に忠実であります。余計な詮索は致しませんっ!」
流石に、神話級の古代文明遺産であるマジックボックスを持ち、侯爵家と蜜月関係にある怪しげな男がこう言えば、嫌でもロクなものでないことは察するだろう。
「では、諸君。忠実なる職務に移りたまえ」
「「は、はっ!!」」
固まった時間が動き出したかの様に、領兵達は樽を担いで俺から蜘蛛の子を散らすように去っていくのだった。
次話 『戦闘という名の蹂躙』
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感じたままで構いませんので、よろしくお願いいたします。
誤字脱字報告、本当に助かります。
ありがとうございます。




