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32. 乙女心は法理の向こう

「ヤトさん! ヤトさん! 見てください! 似合いますか?」


 そう言って被り物を頭に乗せて俺に見せるエレナ。


「おぉ〜。似合う似合う。マイナーなご当地キャラでいそう」

「ゴトウチキャラ?」



 俺はエレナと一緒に王都観光を満喫していた。


 王城を出たあたりから2人の追跡者は認知しているが、俺が把握できていないだけでまだまだいるだろう。


 ーーま、そっちはシルファに任せればいいんだが。



「おぉ〜、サーカス団か。流石は王都」


 中央広場では、道化師達が芸を披露していた。


 ーー食べ歩きをしながら、王都でサーカス見物。この社会的には、かなりの娯楽なんだと思うけど……。


 正直なところ、21世紀の豊富で洗練された娯楽を経験している俺からしたら物足りない。


「どうかしましたか?」


 浮かない顔をしていたのか、エレナは俺の顔を覗き込む。


 その澄んだ淡く碧色の綺麗な瞳が重なった。


「……」


 ーー前言撤回だな。一人でアニメ見たり、一人でゲームするよりかは今の方が数段いい。


「……可愛い女の子が隣にいるだけで役得……か」

「か、かかかっ!? 可わ……ぃぃ……!?」


 ーーおっと、無意識に口に出してしまってたか。なんか俺が口説いてるみたいになってしまった……。


 背を向けるエレナに、なんだか気まずい俺である。



 顔を逸らして頬を掻く俺の目前に、紫色の毛皮のローブを纏った20代後半の女性が現れた。


「初々しいわねぇ〜。……チッ」


 ーーえ……。今舌打ちされた!?


「私は道化団のマーリン。凄腕の魔女よッ!」



 ーーこの魔法文明社会で、それはネタなのか本気なのか判断つかん……。紛らわしいからやめてくれ……。



「疑ってるわねぇ〜? 胡散臭いと思ってるでしょ?」

「そりゃな……」

「否定はしないわ」


 ーーいや、しろよ!?


「あなた達の相性を占ってあげるわ。この偉大な魔女マーリンにお任せあれ!」


 俺たちの前に突如やってきて、怪しさ全開のその女性は、変なテンションで語り出した。


 俺は帝国の息のかかった者かと警戒したが、どうやら違うようだ。

 中央広場で都民に芸をする道化師の一人なのだろう。



「占い? 別に頼んでーー」

「刮目するといいわ!」

「聞けよっ!?」


 道化師マーリンは、俺の言葉も聞かずに赤い宝石を取り出した。



「これは炎の精霊が宿った神秘の石」

「炎魔石だと思うのですが……」


 エレナが指摘する。


「これは炎の精霊が宿った神秘の石」

「炎魔石だとーー」

「これはーー」

「あ、はい。神秘の石ですね」


 エレナは抵抗虚しく折れたようだった。



「あなた達の魂の色が見えるわ」


 マーリンと名乗った彼女は、魔石に手をかざし、何やら怪しげな呪文を唱え始める。



 そして、淡青色の炎が現れた。


「綺麗……」

 奇怪そうに見ていたエレナも、珍しい色合いの炎に小さく驚いた様子だった。


「これは私の魂の色。人にはそれぞれ様々な魂の色があるのよ。まずはあなたの色を調べてあげるわ」


 そう言って、道化師マーリンはエレナの方に炎魔石を差し出して、意味不明な呪文を唱える。


 すると、今度は緑色に揺らめく炎が見えた。


 ーーほぉ、面白い。


「これはあなたの魂の色。あなたにはまだ活かしきれていない才能が眠ってるわ」

「ほ、本当ですか!?」


 ーーいや、絶対バーナム効果だろ。証明できない誰にでも当てはまること言って誤魔化す占いの常套手段じゃねーか……。


「次はあなたね。はぁぁぁああああーーーせやっ!」


 ーーおい、呪文はどうした。


 俺の方に差し出された手の上で、炎魔石が今度は深紅の炎を見せる。



「あなたの色は深紅。外では外交的に振る舞っているけど、家の中では内向的な一面が出やすい性格ね」


 ーー当たり前だろ……。家の外で内向的で、家の中で外交的な奴がいるかよ……。はいはい、バーナム効果乙。



「な、なら……ヤトさんと一緒に暮らすと二倍楽しめることになりますね!」


 ーーその発想はなかった……天才かっ。この占い師……本物だ! ……なんてな。



「うっ……ううっ……」

「「!?」」


 胡散臭い道化師マーリンは、急に俺たちの目の前で泣き出した。

 ……涙は出ていない様だが。


「ど、どうしたんですか?」

 エレナが心配そうに聞く。


「どうもこうもないわ……。緑と赤は相性最悪なのよ?」

「ぇ……!? ほ、本当ですか!?」


「このままでは、あなた達は破局するわ……。あぁ、可哀想に……」


 ーー破局ってなんだよ……。そもそも始まってもいねーよ。始まる気配もねーよ。てか、クリスマスカラーに謝れよ。



 俺は占い師の戯言を鼻で笑うが、エレナは寂しそうな顔を浮かべた。


 そんなエレナの不安につけ込んでか、道化師マーリンが彼女の手を握った。


「大丈夫よっ! 魂の色は変えられるから!」


 ーーいや、変えれんだろ。てか、変えちゃダメだろ……。


 道化師マーリンは、腰に付けていた布袋から灰透明の石を取り出して言った。


「この石を持ってるとね、魂の色が変わるの! 今なら5万Gゴールドのところ、半額でいいわ」


 ーー霊感商法かよっ! 誰が乗るんだよっ!?


 流石のエレナも引いている。誰がどう見ても壺商売です、本当にありがとうございました。



「あー。信じてないわね? 本当なんだから」

 得意気に語る道化師マーリンは、炎魔石を再び燃焼させる。


 そこにかざした怪しい石が、深紅色の炎を出した。



 ーーまさか……。


 俺はその光景に息を飲み、頭の中で思考を巡らす。



「どうかな? 彼女さん。これを買えば、彼と一緒の色になれる。つまり相性抜群だよ!?」

「あ、相性!? あ、いえ……すみません。えっと……そういうのはちょっと……」

「彼氏くん、いいの? 男気見せてよ。『お前を俺の色で染めてやるぜっ』的な男気見せてよ。ほら! 彼女さんも彼くんに頼まないと!」

「い、いえ……。私たちは……」


「買った」


 俺の端的な結論で、二人の攻防に終止符がつく。


「……え?」

「本当? 買うって?」

「ああ。在庫はどれぐらいある? 全部くれ」

「え……ちょ、ちょっと……ヤ、ヤトさん?」

「全て俺が買い取ろう」

「や、やったー! ちょっと待っててね!」


 マーリンはスキップしながら広場の裏手にある天幕の方に消えて行った。



「ヤ、ヤトさん? その、私は嬉し……ではなくて、いいんですか? 絶対に嘘ですよ?」

「知ってるよ。俺はあの石に価値を見出したからな。道化師の戯言など知らん。俺にはあれが必要だ」

「っ……」


 エレナはバッと顔を両手で隠すと、俺から避けるように後ろを向いた。


「わ、私染められちゃうんですか……!? ど、どうなっちゃうんでしょう……」

「なんだ?どうしーー」

「お待たせー!」


 道化師マーリンが、麻袋を背負ってやって来る。


「これで全部よ」


「5kg程か。足らんな……」


「「えぇ!?」」


「不躾なことを聞くが、これの仕入れ先を教えて欲しい。錬金術ギルドにもないはずだ」


「お客さん〜。私が言うのもなんだけどさー、いくら彼女さんのためだからってあんま無理しちゃーー」


「教えてくれるなら、その情報にこれを出そう」


「白金貨!? 公国のラム山脈で取れるのよ。公国に行った時に地霊族ドワーフの鉱夫から買ってるのよ」


「ありがとう。早速クレオスに手配させるか……あぁ、これ情報料ね」



「まいど〜!」


 両者win-winの商談だった。

 そしてなぜか、エレナも満面の笑みである。


 ーーこれが本当の三方良し。



「いやぁしかし、炎色反応を使ったマジックとは面白いな」


「えんしょく、はんのう?」


「そそ。原子が熱励起した状態から基底状態に戻る際に放出するエネルギーが光となって現れる現象なんだけど、まぁものすごくざっくり言うと、金属を燃やした時に見える炎の色的な。魔法文明社会でばちばちの物理法則使って霊感商法とか、全方位に喧嘩売りすぎだろ、あの道化師……。いつか刺されんぞ……」


「で、では魂の色というのは……。た、魂の色をそ、染めるって……」


「んなわけ。あんな似非科学信じるなよ」


「……あ……はい。……そうですよね……」


 エレナはなぜか気落ちした様子で肩を落とした。


「で、でも、いろんな色に変化しましたよ!」


「ああ。最初の淡青色は錫か鉛。青緑の炎は恐らく銅だろうね。深紅の炎はリチウム。粉末状にした金属粉を、かざした反対の手で振りかけてたからね」


「……」


「で。肝心のこれ。ペタル石だね。海水からリチウム精錬するのは当分無理だと諦めてたけど、まさかのリチウムを含む超貴重な天然鉱石が手に入るとは」

「……」


 俺は灰色の結晶石を空にかざす。

 思わず頬擦りしたいぐらいだ。


「リチウムが手に入れば、光学レンズとか、強化耐熱ガラスとか、それに、合成樹脂の重合触媒にも使えるし、なにより鋼鉄作る際の融材として利用できるのはデカい。他にもーー」

「そう……ですか……」


 テンションが上がる俺とは反対に、なぜか沈んでいくエレナ。


「……どうした? さっきからなんか様子おかしいけど。大丈夫か?」

「あ、いえ……。夢と現実を往復しただけです……。お気になさらず……。ふふふ……」


 ーーいや、本当に大丈夫か?


 どうやら彼女は、あの道化師の占いが夢も希望もないただの科学マジックだったことがショックだったのだろう。


「で、でも、あれだよな。緑の炎。」

「……?」

「綺麗だったよな。エレナの瞳の色と同じ淡い翠色で」

「き、キレイ……。綺麗ですか……?」

「ああ。」


 ーー銅粉末で均等な緑色を出すのはなかなか難しいは、あの道化師マーリンが見せた炎は綺麗だった。


「綺麗……綺麗……ふふっ」


 先程まで「ずーん」といった様子で明らかに気落ちしていた彼女は、今度は頬を両手で抑えて嬉しそうにしている。


 ーーえぇ? あの似非占いそんな気に入ってたの!?


 まるで自分が褒められたかの様に喜ぶエレナ。


 ーー情緒どうなってんの……? まじ難解だな……。



「ヤトさん、ヤトさん!」

「お、おう……」


 目の前に迫るエレナの気迫に負けて、俺は思わずうわずく声で返事をした。


「行きましょう!」


 そう言う彼女は、吹っ切れた様子でいつもの姿に戻っていた。



 俺の疑問は彼女の声で流れ、乙女心とは理解できないものだと実感するのだった。

次話 『新たな逃亡先』


下の☆☆☆☆☆から作品への評価ができます。

感じたままで構いませんので、よろしくお願いいたします。

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