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31. 勘違いから始まる観光デート

 翌日。


 俺は折角王都に来たと言うことで、王都観光に出ようとしていた。




「ヤ、ヤトさん。いいんですか?」

 王城の門を堂々と出る俺に、エレナはオドオドとした様子で尋ねた。


「帝国の皇帝が狙っているのに、王都を観光するなんて……」


 エレナも帝国が俺を必要としていることと、強行的に連れ戻そうと襲ってくるかもしれないことは理解している。


 にも関わらず、こうして大手を振って王都観光に誘えば、その心配具合は見ていて面白い程だ。


「帝国のやり口は私も知ってます。ミリア様の件を見ても明らかですよ……。すぐに王都を出てミトレス商業都市に戻った方が……」


「ミトレスなぁ」


 王都にイスカリオ執政官が来ていることを考えると、その護衛や王国に潜入している諜報部隊もいるだろう。

 そんな王都でのんびりするより、ミトレス商業都市の方が一見平穏そうではある。


 だが……。


「正直、ミトレスの方が危険な気がする」


「えぇ!?」


「皇帝は俺を一度追放した。少なくとも、俺を役立たずだと認定したはずだ。だが、ここに来て手の平返したことを考えると、天空城上陸を嗅ぎつけられたんじゃないかな。」


「そ、そうですね……。気球の試験飛行を街の人も目撃してるかもしれません……。」


「ああ。工房の職人だって知ってる。バレたのは不思議ではない」


「…………」


「俺が帝国側ならもうミトレスには網を張ってるよ。王都から出てミトレスに向かう道すがら、襲って拉致ってお持ち帰りって計画かな?」


 ーーまぁ、シルファがいる時点で襲撃なんて無意味に終わるのは確定なんだが……。


「で、では……どうするんですか……?」

 エレナは不安そうな表情を見せる。


「ダラダラ追手に付き纏われるのは面倒だ。ということで、だ。こちらのタイミングで先にどうにかしちゃおうということだ」


「ど、どうにか……ですか……?」


「ま、そう深く考えるなよ。帝国も王国の王都でドンパチできないし、俺を暗殺する訳にもいかないとなれば手は限られる。」


「は、はぁ、そうですか……?」


「ああ、だから折角の王都だ。楽しまなきゃ損でしょ。帝国のことなんて忘れて楽しもうぜ!」



 流石は国一番の都というだけあり、今まで拠点にしていたミトレス商業都市以上の活気に溢れている。

 そんな雰囲気を前に、俺は帝国如きに気分を害される分だけ損だと割り切る。



「さぁ、いざ観光だ。行くぞエレナ! 王都が俺たちを待っている!」

 俺は大通りを指差して示した。


「は、はい……! でも、シルファさんはいいんですか?」

 エレナは、この場にシルファがいないことを口にした。


 基本的にいつも俺の傍にいるシルファが、今日は珍しく別行動である。


「ああ。シルファには、別件を頼んでるからな」


 ーー俺たちは餌。彼女は狩人。役割分担だ。


「そ、それはっ!?」

 エレナは何かを察したのか、目を輝かせた。


「つ、つまり……今日は私とヤトさんだけで観光……。そ、それで、シルファさんは別件で別行動……!? こ、これって……デ、デデ……。」



 ーーおや。エレナには余計な心配をかけないように……それに、自然体で帝国の密偵どもに警戒されないように囮作戦だということが伝えてはないんだが、流石に今のやり取りで察したか。



 今日は、俺を付け狙う帝国の密偵狩りだ。

 存在をドロンするのに、帝国の監視の目は先に潰しておかなければどこに行っても付き纏われる。


 俺たちが王都を観光している間に、俺に着いた虫をシルファが捕まえる。


 ーー王国内で違法活動しているような密偵共だ。王国としてもその身柄は喉から手が出る程欲しいだろう。


 とっ捕まえて王国に引き渡せば王国にも恩が売れるし一石二鳥だ。



 ーーにしては、なんだかエレナの目の輝き方が妙に乙女チックだな……。そんなに囮作戦が魅力的だったか……? スパイごっこに憧れるお年頃?



 エレナは俺と目が合うと、スッと逸らした。そして、少し狼狽えながら言った。


「で、でもシルファさんになんだか悪い気がします……。私だけヤトさんと……二人きりで……なんて……」


 ーー俺たちだけ観光している間に、シルファに汚れ仕事を任せたことを後ろめたく思ってるのか……。エレナは優しいなぁ。



「気にするなよ。シルファも同意の上だ」


「そうですか……」


「そ。というか、むしろシルファが言い出したことだしな……」


「シ、シルファさんがですか!?シ、シルファさんはてっきり、ライバr……い、いえ、なんでもないです」


「……?」



 昨晩、俺は『自衛の域を超えた力の行使は殺戮でしかない』と言った。……確かに言った。


 だが、シルファはそれを”自衛の域を出ない力の行使は正当な行為”だと解釈し、


『今回の密偵狩りはマスターの自衛のためなのでわたくしが全力で対処いたします』


 とのこと。



 ーーまぁ、筋は通ってる気もする……。それに、ありがたいから頼んじゃったんだが……。彼女に頼りすぎるのは危険だ。



「シルファさんがこんな機会を作ってくれるなんて……。お、お礼言わなきゃですね!」


「そうだな。」


「や、やっぱりヤトさんとシルファさんが、こ、恋人なのは私の勘違いだったんですね……?」


「は? え? 急になんの話だ?」


「ぇ……?」


 唐突に話の方向が飛んだことに俺は呆然とした。

 エレナも何故か驚いた様子を見せる。


「昨日それはエレナの勘違いだと説明したろ?」


「あ、はい。そうです……すみません。その、ちょっと信じられなかったと言うか、半信半疑で……。もし……私が……その、……もしそうならどうしようって……。あ、でも今は信じてますっ! もう勘違いしてません」


「あー……うん。そう……? ならいいんだけど……」



 今の会話の文脈が全く分からない俺だが、何やらエレナは一人で納得している様子だった。



「で、でで、では今日は……二人っきりですね」


「まぁそうだな」


「こ、これは……デ、デデデト、デ、デー……」


「ん?」


「な、なんでもありません! い、行きましょう!」


 ーー囮役と知ってやっぱり緊張しちゃうか……。


 ぎこちなく、右手右足を同時に出すエレナに声を掛ける。


「気楽に行こう。そんな意識してたら保たないぞ?」


 ーーそこまで気を張る必要はないだろう。そもそも、シルファが目を光らせている時点で、襲撃なんて起こり得ない。



「い、意識!? し、してません!」


「ぉ、ぉぅ……」


 振り向きざまに断固否定するエレナに、俺の方が戸惑う。


「ぁ、ぃぇ……。意識……しちゃいますよ……」


 彼女は赤面しながら小さくそう口にした。


 ーーなぜそこで顔が赤くなる? 熱でもあるのか?


「ヤ、ヤトさんは……。意識……しないんですか……? して……くれないんですか?」


 俺はエレナに言われて反省する。


「あー、うん。そうだよな。しないといけないよな……」


 ーーいくらシルファが優秀だからと言って、怠慢は危険だ。

 ましてや、エレナを連れているとなれば、危険は俺だけではすまない。


 周囲への警戒は最低限すべきだろう。


 ーーよし。


 俺は気を引き締めなおす。


「エレナ、俺からあんまり離れるなよ?」


「え!? ぁ……はい……」


「……」


 乙女チックに髪をいじりながら答えるエレナに、なんだか調子が狂う俺である。


 正面に迫るように寄ってきた彼女は、俺を上目で見ながら言った。

「あの……。手……繋いでもいいですか?」


「え!?」


 ーー離れるなとは言ったけどさ……いや、まぁ確かに、人混みで分断される可能性を考慮してか……。エレナはなかなかに慎重派だな。



 王城からの大通りは、人が溢れている。そこにこれから足を踏み入れることを考えれば、合理的な手段なのだろう。


「ああ。俺でよければどうぞ」


 差し出した手を彼女はすぐに握った。そして俺に密着するように隣に立ち、身を小さく縮こめた。


 ーーふむ。俺が知らないだけで、現生人類にとってはスキンシップは身近なものなのかな? 俺が変に意識しすぎるのが悪いのか。


 そんなことを思いながら覗き込んだ彼女の顔が、先ほどより赤く染まっているのに気付く。


 ーーえ!? いやいや、恥ずかしいならなぜに手を握ろうなんて提案したし!? 俺の方が恥ずかしいんだけど!?



 とは言え今さら振り解くこともできず、彼女の左手の柔らかな感触を感じつつ、大通りへと歩み出すのだった。

次話 『乙女心は法理の向こう』


下の☆☆☆☆☆から作品への評価ができます。

感じたままで構いませんので、よろしくお願いいたします。

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