29. 王都で新たな問題発生
「ようやく到着か……」
俺たち一行は、目的地である王国の王都にたどり着いた。
王城まで来れば安全だろうが、ミリア嬢の強い要望で国王との謁見が終わるまで同伴していた。
そして今、俺たちは王宮の謁見の間に来ている。
「国王陛下。アグリオ・ラングフォードの二女、ミリア・ラングフォードでございます。この度は急な謁見の申し出に応じてくださり、感謝に耐えませんわ」
謁見の間でミリア嬢が頭を下げる相手は、王国の最高権力者である国王。
70代程の白髪男性で、目尻の下がった顔つきは穏和な雰囲気を醸している。
「うむ。久しいのぉ、ラングフォードの令嬢。アグリオは息災かね?」
「はい。……しかし、ここ数日でラングフォード領で問題が重なり、恥ずかしながら陛下のお力をお借りしたく参上した次第でございます」
ミリア嬢は、これまでの領地での出来事や、王都に来るまでの襲撃の件を語った。
…………
…………
…………
「……ラングフォード令嬢。そなたの勇気ある行動に敬意を払おう。よくぞワシの元まで来た」
一通りの話を聞いて、国王はミリア嬢の苦労を賞賛した。
「関わった元老院議員並びに貴族達には、然るべき処罰を下すと約束しよう」
「ありがとうございます。陛下。それからーー」
「うむ。もちろん帝国にもじゃ。即刻抗議する。丁度、帝国から別件で執政官が来ておる。宰相、すぐに呼び立てよ」
「はい」
しばらくして、謁見の間に一人の文官が現れる。
30代の知的な印象を受ける灰色の髪をした男だ。
「国王陛下。帝国執政官のイスカリオ・アーノルド、ただいま参上いたし……エルメス公爵令嬢!? それに黒髪黒目の青年……貴殿は……」
扉から数人の護衛を連れて入ってきた男は、俺とエレナの顔を見て固まった。
ーーなんだ?
「陛下。そちらの者達はーー」
「執政官殿」
国王は、執政官の言葉を遮る。
「そなたの国が我が国の領地に対し、いささか度が過ぎる横槍を入れていると知っての。今直ぐやめさせるように本国に通達せよ。然るべき対応がなされない場合は。……分かっておるな?」
玉座に座る国王は、先程までミリア嬢に向けていた表情とは異なる覇気のある形相でそう言った。
「な、なんのことでしょうか。私にはなんのことだかーー」
「ラングフォード領主の令嬢を襲撃してきた帝国魔導士序列第八位のエドウィン・ローグの身柄を、先程預かった。話の裏は取れておる。知らぬ存ぜぬで通せると思わぬことだ」
「帝国魔道士がっ……!?」
国王の鋭い眼光が帝国の執政官の言葉を詰まらせた。
「……本件に関して、私は存じ上げておりません。一度本国に問い合わせたのちに正式に回答いたします……」
「うむ。帝国の傍若無人極まる手段に対しては、王国は断固として抗議する……と、努々忘れるでないぞ」
「……心得ております。国王陛下。それでは私はこれにて……」
執政官はすぐに身を翻して大扉の方に歩いていく。
そして謁見の間を出る間際、俺の方を見ながら姿を消していった。
「これで、帝国の干渉も止むじゃろう。あとのことはワシに任せよ」
「陛下。お手数をお掛けして申し訳ございません」
一難さったことに安堵したのか、ミリア嬢は僅かながらも余裕の笑みを漏らしながら感謝を述べる。
「良い良い。国を守るのが王の務め。ワシの方こそ、他の馬鹿貴族共の愚行を止められなかったことを謝罪したい」
「あ、頭をお上げ下さい! 陛下が謝罪されることなどありません。ラングフォード領が富を独占しているのは事実……。他の領主様方が業を煮やすのも当然だと心得ておりますわ」
ミリア嬢の言葉に、なぜか俺の心が痛む。
「それで、そなたの後ろに控えておる者達はなんじゃ?」
国王は、ミリア嬢の後ろにいる俺、シルファ、エレナの方に興味を移したようだった。
「ここまで護衛を引き受けた者達です。彼らがいなければ、アタシはここに来る前に殺されていたでしょう」
「ほぉ。帝国のナンバーズを生捕にする程の手練れか」
国王の視線が俺と合う。
「そなたらにも、感謝を述べたい。将来の王国を担う令嬢を助けたこと、そして、帝国の蛮行をワシの元まで届けたこと。実に大義であった」
ーー原因は俺なんですけどね……。
国王との謁見も程なくして終わり、俺たちは謁見の間を後にした。
〜〜〜
貴賓室で俺たちはミリア嬢との別れを告げる。
俺たちの護衛としての役目もここまでだ。
ミリア嬢はことが沈静化するまで王城にいるとのこと。
クレオスには手紙を出したし、数日もすればラングフォード領で行われている亜糖の生産・販売による利益独占問題も解消されるはずだ。そうなれば、帝国からの横槍も、他領からの嫌がらせも収まるだろう。
「アンタ達には助けられたわ。何かあれば、このミリア・ラングフォードが力になると約束するわ」
「き、気にするな」
ーー元より俺の撒いた種……。これで、元凶が俺だと知ったらなんと言うだろう……。
ーーだが、俺が非難されるいわれはない……。
若干後ろめたい気はするが、俺が責められるのは納得できない非常に複雑な思いである。
「ねぇ、前にも言ったけど、アンタ達アタシに雇われない?」
ミリア嬢は懲りずにまたもや俺たちを誘った。
「わ、私はヤトさんに雇われているので……」
「私も、仕えるべき相手は決まっております」
「……という訳だ。すまんな。そして俺も誰かの下につく気はない」
「そう……残念ね。アンタ達の力が借りられれば……」
ミリア嬢はそう言って残念そうに目を瞑るのだった。
「ま、いいわ。また近いうちに会えそうな気もするもの」
「なんだそれ……」
「アタシの勘は当たるんだからッ」
ミリア嬢は、今後の不安なんて一切ないかの様に明るく振る舞った。
ーー俺は数日で問題が解消されることは分かっているが、彼女としては先の見えない不安もあるだろうに……。
「ミリア嬢……。来週までには吉報が届く。領地の問題も解決されるはずだ。励ましになるかは分からんが、あんま思い詰めるなよ?」
「何それ。アンタの勘?」
「……いや、確定事象だ」
「ふんっ。面白いわね、いいわ。じゃあ、もし外れたらアタシの言うことを一つ聞いてもらおうかしら」
ーー賭けか?
「構わんが、もし当たったら俺も同じ要求をするぞ?」
「いいわよ? なんでも言うことを聞いてあげるわっ! 決まりね」
ーー勝ち確ゲームとはなんたるカモ。ぐへへ……。おっと……。
エレナとシルファの視線が痛い……。
「ヤ、ヤトさん、ダメですよ? 変な要求しちゃ……」
ーー君は俺をなんだと……。
わざわざ貴族どもの利権争いを回避するために労力を割くんだ。これぐらいの報酬があっても然るべきだ。
と、俺は自分の中で納得する。
「あの、ミリアお嬢様。差し出がましいお願いですが、シャルロット……様にこのお手紙を渡してもらえますか?」
エレナは一通の手紙をミリア嬢に差し出した。
「ええ、勿論よ。任せて頂戴」
ミリア嬢は手紙を受け取り自信満々に応えた。
「いつでもラングフォード領に遊びにきなさい? 歓迎するんだから!」
溌剌とした様子でミリア嬢は手を振りながら、扉を出て行った。
〜〜〜
コンコンコンッ
ミリア嬢と入れ替わりで、貴賓室の扉が叩かれる。
現れたのは、先程謁見の間で見た帝国の執政官だった。
「初めまして。ヤト・クロツキ殿」
「確か、イスカリオなんとかと言ったか? 俺に何か用か?」
「やはり、貴殿がヤト・クロツキ殿ですね。まさかこんな場所でお会いできるとか思いませんでした」
ーー帝国人で俺の名前を知っているということは、俺が超古代文明人だと知っているはずだ。
俺は警戒する。
相手は俺を追放し、殺しにかかった帝国だ。
「皇帝陛下があなたのことを探しておられました。一度帝国にーー」
「ほざけ。俺は国外追放されたんだぞ? 今更戻れ? 冗談は大概にしろよ」
「それにつきましては、行き違いがありまして。皇帝陛下も追放宣言をされたことは深く悔やんでおられました」
「じゃあ、そのまま悔やませておけ」
イスカリオ執政官は大きくため息を吐いて
「やはりこうなりますか……」
と小さく呟いた。
「ヤト・クロツキ殿。貴殿には帝国兵殺害の容疑がかけられています。ご同行いただけない様でしたら、こちらも強硬手段を取る他ありません」
「はぁ? そもそも帝国兵が殺しに来たからだろ。正当防衛だ」
「では、帝国審議会でそう弁明してください。然るべき判決がなされますので」
このイスカリオ執政官は、なんとしても俺を帝国に連れていきたいのだと察する。
「なぁ、イスカリオ執政官。お前、旧人類の有用性に今更気付いて連れ戻そうとしているのか?」
「……」
彼は沈黙で返した。だが、その沈黙は肯定だろう。
「皇帝に伝えとけ。これ以上俺に執着するなと。身の程を弁えない行為は自らを滅ぼすともな」
俺は扉を勢いよく閉めて、イスカリオ執政官との面会を強制終了させた。
流石の帝国執政官も、他国の王城で下手な真似は取れないだろう。
身を翻して大人しく離れていく彼の足音を扉越しに聞き、俺はどうしたものかと頭を悩ませるのだった。
次話 『刺激的で危うい一夜』
下の☆☆☆☆☆から作品への評価ができます。
感じたままで構いませんので、よろしくお願いいたします。




