25. 知らないとろこで起きてる利権騒動
俺たちはミリア嬢から、彼女が帝国の暗殺者集団から狙われている訳を聞いた。
彼女の言い分を簡潔にまとめるなら、次の通りだ。
STEP1
最近ラングフォード領で砂糖が生産されているらしい。
STEP2
それも帝国産の砂糖の500分の1程度の値段で。
STEP3
帝国激おこ。王国貴族もラングフォード領の一人勝ちが面白くないらしく、帝国の横槍を見て見ぬふりをしているという。
「シルファ……どう思う……」
「マスター……。私はコメントを控えさせていただきます……」
シルファはそう言って俺から顔を逸らした。
「全く、あの商会めっ! 何が企業秘密よ! あんなものを独占して! こっちの身にもなってよね! 亜糖のせいで今、領内はてんやわんやなんだからッ!」
ーーはははっ……。
クレオスにレシピを渡して全て任せているが、個人的にツテのある商会と組んで人工甘味料の大量生産に入ったという中間報告は受けている。
「ヤトさぁん……」
エレナの小動物のような声が、俺の心を抉る。
ーーあ、うん。俺のせいだよね? 9割方俺が原因だよね……。
「アンタ達、どうしたのよ。急に黙りこくっちゃって」
俺達の反応が鈍くなったのを察したのか、ミリア嬢は不思議がる。
「いや、なんだその……。うん。分かった。なんとかしよう……」
「何がよ」
「……その、あれだ。領内での亜糖独占生産の現状をなんとかするよ……」
「はぁ? 何言ってんのよ。これはアンタが考えてる以上に根が深いわよ? 密偵に探らせてるのに何一つ分からないんだから……。裏で相当な大物が糸を引いているのよ」
「……ああ。確かに根が深いだろうよ……。生産拠点が散らばっていて、生産者でも自分たちが何をしているか分かっておらず、レシピを聞き出そうにも誰も知らないんだろう?」
「アンタ、よく知ってるわね」
ーーはい、……俺の指示です……。スミマセン……。
「おまけに、価格の裁量権が商会にはなく、クライアントの身元も不明で、手紙のやりとりでしか連絡がつかないんだろ……?」
「そうね。……というか、なんでそんなことまで知ってるのよ。気味悪いわね。関係者なの?」
ーーはい……。クレオスに一任してるけど、元凶です……。
「分かった。……今月中に問題が解消されるように手を尽くすと約束するよ……」
俺はやつれ気味の声でミリア嬢にそう伝えた。
エレナが俺を見て何か言いたげに目で訴える。
ーーいやいや、エレナ君……。俺達は何も悪いことはしていないでしょ……。
確かに原因を作ったのは俺であるとはいえ、俺たちの責任ではない。
諸悪の根源は利権に群がるハイエナどもだ。
「ちょっと待って!? アンタがどうにかするですって!? ホラ吹くんじゃないわよ! なんでアンタがどうにか出来るのよっ!」
「それは。……あれだよ、うん。知り合いの知り合いがやってるって言うか、そんな感じで多分その人、裏でどんなことになってるか知らないんだと思う、うん」
「はぁ!? そんな訳ないでしょう!? 帝国の独占産業に喧嘩ふっかけてるのよ!? それに入念な詮索防止工作までしておいて、知らないなんてどんなバカよっ!」
ーーどんなバカなのでしょうね、ほんと……。いや知らんし。そんな利権騒動になってるなんて知らんし!?
「はて。バカかどうかは分かりかねますが、私が思いますに、その方は常識的な何かが欠落しているのではないかと思うのでございます」
シルファが俺の方を向いてそう言った。
ーーはははっ……耳が痛いことで……。
「ま、いいわ。期待はしてないけど、頼りにすることにするわよ。期待はしていないけど」
ミリア嬢はそう言って子どもの様に笑った。
ーーうぅん、このマッチポンプ。
俺以外だとどうしようもないが、俺ならクレオスに手紙を一通送れば方がつく。
ーーたかが人工甘味料だからと思っていたが、思いのほか影響力がでかかったか……。これは、気をつけんとな……。
俺は、この社会では利権や領地、国家などの面倒なしがらみが、21世紀の自由資本主義とは比較にならない程まとわりついていることを学ぶのだった。
「で……この馬車はどこに向かってたんだ?」
俺は最終的な目的地をミリア嬢に尋ねる。
「王都よ。帝国からの干渉の証拠を暴露しに行くの。元老院じゃ揉み潰されたし、陛下に直訴よ、直訴。今王都では記念式典で他国の要人も来てるし、一気に帝国の悪行を言いふらしてやるわ」
「……それで狙われたんか……。てか、そりゃ狙われるわ……。仕方がない、王都まで護衛は引き受けよう。……2人とも、それで構わないか?」
「も、勿論ですっ!」
「仰せのままに。マイマスター」
エレナのシルファも、流石に見捨てる選択肢はないようで快く同意した。
一方、ミリア嬢は突然の手のひら返しの俺たちに驚きの表情を見せる。
「え……?」
彼女は俺の予想外の言動に頭の上に疑問符を浮かべた。
「どうしちゃったのよ、急に。貴族のいざこざには関わりたくないんじゃなかったのかしら?」
「あー、うん。気が変わったというか、義務感が湧いたというか……」
「……ま、まぁ。アンタがどうしてもって言うならアタシは構わないないけど……」
「ああ、よろしく頼むよ。君の安全は俺が保証する」
ミリア嬢は俺の差し出した手を、パシンと叩いた。
「な、何よ急にカッコつけちゃって。窓を開けて頂戴! なんだか暑いわ。いい? アンタたち。引き受けたからには何がなんでも守ってよね。それと、アンタ達も勝手に死ぬんじゃないわよっ!」
ミリア嬢は手で顔を仰ぎながら、棘のある口調ながらも俺たちを気遣う言葉を掛けるのだった。
次話 『帝国の襲撃者』
下の☆☆☆☆☆から作品への評価ができます。
感じたままで構いませんので、よろしくお願いいたします。




