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24. ミリア・ラングフォード侯爵令嬢

 俺たちの背後から、甲高く乾いた声が呼び止めた。


 振り向いてその声の主を視界に収める。


 燃えるような赤毛の15歳程の少女。

 少女は俺たちを追い越して、道を塞ぐかのように立ち塞がった。



「待ってって言ってるじゃない。なに無視してるのよッ」


 ーー関わりたくないから無視してるんだよ……。察しろよ……。


「まぁいいわ」


 ーーいや、俺としては全然よくないんだが……!?


 彼女は俺たちには全く気にしない様子で、スカートの裾をつまんで貴族式の礼をした。



「危ないところを助けていただき感謝するわ」

「……勘違いするな。自衛のためだ。助けたわけじゃない」


 あくまで自己防衛。彼女を助けたということになれば、貴族の勢力争いに加担したと思われかねない。

 それはしっかりと否定しておく。



「あら、帝国の暗殺部隊を退けた者とは思えない発言ね」


 ーーOh...…それは聞きたくはなかった……。


 王国内で帝国の息のかかった暗殺集団とか、血みどろすぎて一層関わりたくないと強く思う。



「アンタ達、冒険者よね? その腕を見込んでーー」


「断る」


「まだ何も言ってないじゃない!?」



 俺は額に手を当てて唸る。

 聞かなくても分かる。


 生き残った騎士達が倒れた仲間の介抱や、死体の処理をしている。

 この周辺には街もないことを考えれば、護衛を依頼するのは至極当然の流れだ。



「嫌だよ。血みどろの権力争いに関わりたくはない。さっきのはあくまで自分の身を守るためにしたもの。君を守るために手を貸した訳じゃない」


 俺はキッパリと彼女との間に線を引いた。


「ヤトさん……」

 その発言に、エレナは俺の顔色を伺って憂いた声を漏らした。



 年頃の可憐な少女が命を狙われているとなると、心情的には手を貸してやりたい気もある。

 だが、権力闘争や勢力争いに特定の誰かに肩入れした時点で、泥沼の未来が目に見える。


 ーーエレナの性格から言って、目の前の困ってる子を見捨てるのは抵抗あるんだろうけど、こればっかりは歯止めがかからないからダメだ。



「……そう……ま、そうよね。分かったわ。助けてくれたことは本当に感謝してるわ。もしまた会えたらラングフォード家の名において必ずお礼をーー」


「ラングフォード侯爵家……!?」

 エレナが少女の言葉を遮って叫ぶように聞き返した。


「な、何よ……」


「シャルロット・ラングフォード侯爵令嬢とは……どのような関係なのですか?」

 エレナは少女に震えた声で尋ねた。


「シャル姉様はアタシの姉よ? アタシはミリア・ラングフォード。どうしてアンタがお姉さまを知ってるの? 帝国の学院に留学に行ってるのよ?」


 ーーははぁん。エレナの学友の妹か……。


 俺は一人で納得して頷く。


「ヤトさん……」

 申し訳なさそうにエレナは俺の耳元で囁いた。


「この子のお姉さんには学院で親しくしてもらいました……。な、なので……」


「……そういうことなら仕方ない。最寄りの街までの護衛ぐらいは引き受けるか」


 俺の発言に、エレナの表情はパァッと明るくなった。


 ーーま、これはこれで悪くないか。


 関わる気はないとは言ったが、身内の知人となれば話は別だ。



「ミリア嬢……といったか? いいだろう。最寄りの街までの護衛は引き受けよう」


「……いいの?」


「彼女が君の姉に世話になったようだからな。義理は果たそう。姉と彼女に感謝するんだぞ」


「自慢の姉様よっ! アンタ、名前は?」


「エ、エレナと申します」


「よろしくね、エレナ!」



 ーーまさか、目の前のエレナが帝国の元公爵令嬢とは思わんよなぁ……。


 ミリア嬢は、エレナの手を握って親しげに大きく振るのだった。



「ミリアお嬢様! 馬車の応急修理が終わりました。すぐに安全な街へ」

 甲冑を着た騎士が、ミリア嬢の元に駆け寄り耳打ちする。


「分かってるわ。アンタ達も乗りなさい?」


 彼女は俺たちに視線で馬車に「乗れ」と示した。



「ああ……って、おい。どこへ行く? 馬車はあっちだろ?」


 俺の脇を通って馬車とは違う方向に歩み出すミリア嬢。


「先に行ってて頂戴。……アタシのために命を捧げてくれた英霊に追悼を……」


 彼女は子どもとは思えない憂いた表情を引きずりながら、燃やされる骸の元に歩み寄るのだった。



 〜〜〜



 4人が入ると若干の窮屈さを感じる馬車に俺たちはいた。



「では、改めて。ミリア・ラングフォードよ。危険なところを助けてくれたこと、感謝するわ」


「気にするな。成り行きだ」


 俺たちは適当に自己紹介を済ませる。



「それにしても、アンタ強いのね。ここから見てたけど、帝国の精鋭暗殺者を一撃で仕留めるなんて大したものだわ」


「精鋭って……。そんな強そうには見えなかったが……。強いのか?」


「はて。わたくしには分かりかねます。人族の優劣なんて誤差の範囲でございますので」


 ーーシルファの意見は参考にならんな……。


 俺は聞く相手を間違えたと静かに反省した。



「アンタ達、凄腕の冒険者なのかしら? それとも一流の魔法傭兵団?」


 ミリア嬢は勘違いしている。

 確かに魔法力の優れた者は、対人戦で優位。



 剣や槍や弓も使わず、一撃で帝国暗殺者を倒したのを見れば、”魔法防殻プロテクト”を貫通する威力の魔法を扱える凄腕の魔法師だと勘違いしてもおかしくはない。


 だが、俺がやったのは単純な物理攻撃。

 どれだけ魔法力が高くても、”魔法防殻プロテクト”では物理攻撃は防げない。



「買い被り過ぎだ。俺自身、自分のことを強いだなんて1ミリも思っていない」


「でも、アンタは帝国の暗殺者集団に圧勝してたじゃない!?」


「あぁ、それは魔法に頼った戦闘してる雑魚どもに負ける要素がないだけだ」


「アンタ……謙遜してんのか不遜なのかどっちなのよ……」

 ミリア嬢は呆れた様子でクスッと笑った。


「アンタ、面白いわね。アタシに雇われなさいよ」


「断る」

 俺は即答した。


「いいじゃない! 減るもんじゃないし」


 ーーいや、減るんだが? 人生の時間が減るんだが!?



「最寄りの街までは責任持って守る。だが、それ以降は面倒見きれん。侯爵家なら護衛を雇う金ぐらいあるだろ?」


「ええ……そうね。最近望んでもないのに沢山転がり込んで有り余ってるわ……」

 ミリア嬢は、馬車の窓から遠くの景色を遠い目で眺めながら意味深に呟いた。



「ミリアお嬢様は、どうして帝国に狙われているのですか?」

 エレナがミリア嬢に尋ねる。


 俺も気になることではあるが、貴族社会のいざこざを知る必要もないと思って聞かなかった。


 ミリア嬢はエレナの質問に、ゆっくりと唇を動かして語るのだった。


 そして俺は後悔する。


 聞かずにおけばよかったと。


 いや、聞かずにいても後悔しただろう。



 俺たちは彼女の話を聞いて互いに顔を見合わせて、頭を抱えるのだった。

次話 『知らないところで起きてる利権騒動』


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感じたままで構いませんので、よろしくお願いいたします。

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