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23. 巻き込まれた戦闘

 俺とエレナとシルファは、街から徒歩で5日程の距離にある火口山脈に来ていた。



 目的は素材採取のためである。


 錬金術ギルドに依頼すれば、大概の素材は手に入る。

 だが、有用性が認められていないマイナー素材や、未発見の素材はこうして自分で集めるしかない。


 ーーてか、ほとんど未発見状態なんだよなぁ……。



「シルファ、この辺りに一発頼む」

「はい。マスター」



 ーーピッケル使って鉱石集めするのを覚悟していたが、まさか爆破採掘が可能とは。



 ピカッ……

 シュドーーン!


 シルファが放つ謎の光で大地が割れる。


 ーー流石シルファ……。


 彼女の話では、最大火力は戦略核兵器に匹敵するとのこと。明らかなオーバーテクノロジーである。



「よし。じゃあとりあえず、鉱石っぽいのを集めるとしよう」


 俺は当たりに散らばる鉱石っぽい石を見ながら二人に声を掛けた。


 鉱物博士でもなければ、ぱっと見では分からない。

 だが、試薬や炎色反応など調べようはいくらでもある。

 そして最初のサンプルさえ手に入れば、あとは冒険者にでも採掘を任せられるだろう。



「ヤトさんヤトさん! これはどうですか?」

 エレナが青透明な結晶構造の鉱石を見つけて俺に見せた。


「天青石かな? だったらストロンチウムが手に入る。確保しておこう」


「マスター。これはいかがでしょうか。金属のような光沢が見られます」

「ふむ……。重晶石なら嬉しいな。バリウムが手に入るし」


 手付かずの鉱山というのは、この時代に生きる俺の特権だろう。思わずテンションが上がる。



 集めた鉱石は、シルファの余剰次元空間に保管されていく。


 三次元立体物を余剰次元に情報保存格納するとかいう22世紀の四次元ポケ○ト。


 ーー全く、羨ましい限りである。



 ……

 ……

 ……




「さて。そろそろ戻るか」


 探索も満足に終え、俺たちは帰路へと着くことにした。




 だが、街道に戻るとシルファが俺たちを止める。


「マスター。数百メートル先で戦闘が起きている様です」


 ーーえ? そんな事わかるの!?


 雑木林になっているこのあたりの見通しは悪く、俺の目や耳では知覚できない。


 エレナは不安げに俺を見た。


「シルファ、例の武器を出してくれ。冒険者なら構わんが、行商人なら助けがいるかもしれんな。どのみち帰り道だ。様子を見に行こう」


 俺はそんな軽い気持ちで道を進むのだった。



 ……

 ……

 ……




 そして、すぐに、その考えが甘かったことに気付かされる。



「おいっ!見られたぞ!」

「仕方がない、奴も殺せ!」



 ーーまさか人が殺し合ってるとは思わないよっ!? そして俺たちまで巻き添えにしないでくれる!?



 森の中の一帯は、血の海と表現するにふさわしい惨烈たる光景があった。




 半壊した豪奢な馬車と、白い甲冑を着た騎士が10名程。

 それと対するかのように、黒フードを深く被った20名程が死闘を繰り広げていた。



 どうやら、どこぞのお偉方を暗殺しようと襲撃している現場に鉢合わせしてしまったのだろう。



「ラビット、ジャガー、奴を殺せ」

「ああ」

「了解っ!」


 ーーまじかよ、俺まだ何もしてないじゃんっ!?


 黒づくめの男の2人が、俺達に向かって武器を構えながら突っ込んでくる。



「マスター。いかがしましょう」

「いや、ここは俺がやるよ。いざとなったら頼む」


 ーーあまり乗り気はしないが……。シルファに頼らずとも自衛できる手段ぐらいは整えておかないと。それに、新しい武器の性能も把握しておきたいしな……。


 俺は小さく溜息混じりの息を吐きつつ、背中に背負っていた鉄パイプを構える。


 それは、この文明の冶金・鍛治技術でも作れる俺が使えそうな武器。



「さて問題。水に金属ナトリウムを入れるとどうなるか」

「死ねっ!」

「焼き尽くせ!”獄炎インフェルノ”!」


 ーーふむ、ご存知ではない様子。



 30m程の距離から向かってきた男が魔法を放った。


 だが、それは俺には届かない。

 迫ってきた炎の波が、俺の数歩手前で見えない壁に当たったかの様な動きをした。


 こんなことができるのは、この場にはシルファしかいないだろう。


「……シルファ、魔法は俺に効かないから別に防がなくてもいいぞ?」


 服もローブも、フェンリルの毛皮や体毛から作られているため魔法でチリになる心配はない。


「それは理解はしておりますが、マスターを害そうと向けられた攻撃を見過ごすことはできかねます」


「セヤァ!」

 俺とシルファの会話に割って、もう一人の槍を持つ男が突っ込んでくる。



 バシュッーー!


 俺の手元から、空気が勢いよく流れる音がした。

 そして、槍の男は後数歩のところまで来ていたが、ガクリと体をのけ反らせた。



「何が……。……ぅ!?」

 男は自分の胸元に視線を移し、初めて自分の胸に風穴が空いていることを理解した様だった。



「ガハッ!」

 そして男は、吐血し膝を地面に付く。


「ラビット!? クソッ、貴様何をした!?」


 炎が去って視界が晴れた向こう側で、剣を持った男が叫ぶ。



「よくぞ聞いてくれた!」

「……は?」


 俺の反応が予想外だったのか、男は間抜けな声を漏らした。



「これは”空気銃エアライフル”と言ってな。圧縮した空気をタンクに溜めて、放出時の勢いで弾丸ペレットを加速させる武器だよ」

 俺はそう言いながらさりげなく2発目を装填する。


「空気圧縮と密閉技術が未熟でな。ちゃんとした空気銃エアライフルを作るのは無理だったが……。だから聞いたろ? 水にナトリウム金属を混ぜるとどうなるかって。答えは、激しく反応し膨張する。アルカリ金属は水と反応して大量の水素を発生させる。気体膨張率は凄まじいからな。実質タンク内部では圧縮空気を溜めたも同然。反応を待ってタンクの気圧が上がった時に開閉弁を開けば音速に匹敵する速度で弾丸が射出される。実質、空気銃エアライフルだ」


 俺はそこまで一息で語って砲身を相手に向ける。


「さて。では問題だ。俺がなぜこんな話をしたと思う?」

「……!?」

「答えは、反応時間の確保」


「シ、シールdーー」

 男が咄嗟に展開しようとした魔法障壁の略唱は、バシュッという音に掻き消された。


 そして男の体が崩れ落ちる。


「お前は俺の話に耳を傾けず、真っ先に切り込んでくるべきだったな」

 既に倒れて動かない2人を哀れに思いながら俺は呟いた。


「流石ヤトさんですっ!」


 ーーいやいや、そんな輝かしい瞳で俺の蛮行を讃えるんじゃない……。


 それがこの世界での標準なのか、俺が2人殺したことを気に留める様子もなく、尊敬の眼差しを向けるエレナの反応に俺の方が動揺する。


 ーーとは言え、下手な慈悲は自らを滅ぼす……か。



 俺は3発目を装填する。


 そして30m程先で乱戦状態のところに足を進めた。


「な、なぜお前がここに!? ラビットとジャガーはどうした!?」


 俺が近づいてくることに気付いた一人の黒フードの男が、声を上げた。


 その声に、両陣営とも意識が俺に向く。



「なに。お前達が知る必要はない」


 俺はそう言いながら砲身を向ける。


「ほざけ!”雷槍ライトニングスピア”!……なにっ!?」


 電気を纏った槍が現れ一直線に飛んでくるが、やはりそれは俺には届かない。


 ーーまぁ、届いたところで無意味なんだが。



「せっかくだ。格の違いを見せてやろう」


 俺はそう言って指に力を入れる。

 バシュっと再び圧縮した空気が放出される音がした。


 その直後、「ギエッ!」という異様な悲鳴が聞こえる。



 倒れたのは、20m程先の騎士達を囲む様に包囲していた黒フードの男の一人。


「なんだ!?」

「パンサー! どうした!? しっかりしろ!」

「あいつの攻撃だっ! あいつが何かを……」

「魔法かっ!? なぜ”魔法防殻プロテクト”を貫通する!?」


 視線だけ向けていた彼らは完全に俺を敵だと認識したようで、剣を向けて警戒色を見せる。

 その光景に、残り数人まで減らされている騎士達も状況が掴めず、唖然とした様子で俺を眺めていた。



「これが格の違いだ。お前達の魔法は俺には届かない。しかし、俺の攻撃はいつでもお前達を殺せる。5秒やる。死にたくなければ失せろ。さもなくば、……皆殺しだ」


 俺は片側の口角だけ釣り上げて、命を弄ぶかの様な嘲笑いを浮かべた。


 リーダー格と思わしき男が倒れた仲間を一瞬見る。

 そして無言で仲間に合図を送ると、蜘蛛の子を散らす様に去っていった。




「よろしいのですか? 逃してしまって」

 シルファが後ろから聞いてきた。


「ああ。皆殺しだとは言ったものの、これじゃ複数人相手には勝てんよ」


 俺は”空気銃エアライフル”とは言えるほどのものではないタンクが付いた不恰好な鉄パイプを肩にかけながら言った。


 護身用に鍛冶屋に頼んで作ってみたが、密閉技術と天然樹脂の脆弱性から連射もできず威力も劣る銃の劣化品。


 とても数十人を相手に大立ち回りが出来るほどの武器ではない。



「それに、巻き込まれたとはいえ、俺が狙われてるわけでもないのに皆殺しにするのは気が滅入る」


 既に地面に転がる血だらけの骸の数々を、視界に入れない様にと空を見ながらその場を立ち去ろうとする。



「ま、待ちたまえ!」

 そんな俺に、騎士の一人が声を掛けた。


「ヤ、ヤトさん……。呼ばれていますが……」

「よせよせ。関わると面倒だぞ? 見ろよあの馬車。紋入りだ」

「あの紋章……どこかで見た記憶が……」


 ーー流石は元公爵令嬢のエレナ。他国の貴族の家紋にまで精通しているとは。だが、どうでもいいことだ。


「さっきの黒フード連中も野盗じゃないだろうし、『権力争いとギャンブルには参加するな』って俺の恩師の言いつけでな」

「そ、聡明な方なのですね」

「ああ。まぁモニターの向こうから出てこない二次元の住人だけど」

「も、もにたぁ……?」



 そんな会話をしながら馬車を通り越して凄惨な現場から離れるところだった。


 関わる気はなかった。



 だが……。



 ガチャリ。


「お待ちなさい!」


 馬車の扉が開く音が聞こえ、背後から甲高い少女の声が響いた。


 そしてすぐに軽い足跡が迫ってくることに、俺は髪を掻きながらどうしたものかと振り向くのだった。

次話 『ミリア・ラングフォード侯爵令嬢』


下の☆☆☆☆☆から作品への評価ができます。

感じたままで構いませんので、よろしくお願いいたします。

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