表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/69

17. シルファエル・リンク・クロノス

わたくしの負けでございます……」


 迫り来る地面に怯えて目を硬く閉じたが、シルファエルの声が耳元で聞こえた。

 不思議な感覚に包まれてる中、俺は恐る恐る瞼を持ち上げる。


 ーーなんか……いい香りが……。いや待て。


 自分の状況を客観的に鑑みて、戸惑う思考をクリアに改める。


「あまり動かれると誤って落としてしまいますよ?」

「ははっ……」

 俺の口から乾いた笑いが漏れた。


 ーーおおお落ち着け。慌てるとこはそこじゃない。


 横抱き……いわゆるお姫様抱っこ状態で、俺はシルファエルに担がれていた。


 彼女の翼が大空を駆け上がるかの様に、天空城を目指して上昇する。


「……念のために聞くが、賭けは俺の勝ちだろ?」


 俺の問いかけに、シルファエルは僅かな沈黙の後に答えた。


「その通りでございます。なので、なぜあなたが旧文明の言語を知っているかを話してください」


「馬鹿言え。ここで語ったら次の瞬間、君は俺を落とすでしょうに。先に俺の身の安全を確保してからだ」


 俺が助けられたのも、今生きているのもひとえに、俺の持つ情報の価値によるもの。

 それを失えば、彼女が俺を殺しにくる。


 だから先に彼女が俺に危害を加えない様にしてからでなければ意味はない。



「到着でございます」


 再び天空城の地に俺の両足が立つ。


 ーーふー……。生きた心地がしなかったぜ……。さてと。


「では、契約通り絶対服従の命令をしようではないか」


 くっくっくっという音が、俺の喉から漏れる。

 俺の顔は今、さぞかし悦に浸った表情になっているだろう。


 鏡を見なくても、俺を見るシルファエルの表情からよく分かる。


「ではーー」


 俺は一呼吸置く。


 俺に危害を加えない様にさせ、持っている情報を吐かせ、欲を言えば人族を脆弱と言うほどの力を持つ天翼族の力を借りられるなら鬼に金棒。


 だが、一つしか命令出来ない。だからーー


「シルファエルよ。我が友となれ」

「……」

「……」

「……」


 謎の時間が流れて、俺の示したポーズが無性に恥ずかしくなる。


「……一つ、お聞きしたいのですが……」

「ん?」

「あなたは友人がいらっしゃらないのでしょうか」


「ぐっ……。やめろ。その攻撃は俺に効く。いやしかしだな、俺にも友人ぐらいいるぞ……」


 ーーそう、最近出来たクレオストラトスという名の友人がな。


「……ではなぜその様な命令を……」

「……え? 画期的な命令でしょ? 友人関係になれば、ひとまず殺される心配はないし、そちらの知ってる情報も話してもらえる。困ったときには力を借りれて最高の関係じゃん……。宣誓通り、君の心身を侵害する条件は付けられないから「我が所有物となれ」とか無理だし」



 俺はまさか、この天才的な命令の合理性を説明することになるとは思いもよらなかったが、彼女に告げる。



「ふふっ」


 彼女は声を出して笑った。作られた笑みではない、思わず笑ってしまったという様な。

 そこに、俺を嘲る様な雰囲気を感じて、俺は眉をひそめた。



「……何がおかしい。合理的かつ最善の命令だろ」

「そうでございますね」


 言葉では肯定するものの、彼女の異様な笑い顔が無性にムカつく。


「では、友人のあなたに、わたくしわたくしの求めている情報をお聞きしてもよろしいのでしょうか?」

「ああ。約束だしな。……念のために聞くが、何を言っても俺を殺しにかかったりはしないよな……?」

「……勿論でございます。わたくしとあなたが友人である限り……」


 彼女はそう言って含みのある笑みを見せた。



 俺は近くの手頃な岩に腰を下ろして身の上を語る。


 2年前に、永久凍土から発掘された、今は亡き古代文明の生き残りであることを。


 …………

 …………

 …………


「そ、そんなことが……。信じられません……」

「『事実は小説より奇なり』ってな」

「……日本語……でございますね。随分と流暢な……」

「ああ。俺の母国語だからな」

「……」


 彼女は目を見開いたまましばらく固まっていた。

 そしてゆっくりと瞬きをし、鈍く不気味に光った瞳で俺を見る。



「あなた様の周りに波動力場の揺らぎが観測できません。旧人類であれば、あなた様は魔法が……」

「ああ、俺は魔法なんて使えんよ。人間はそんなファンタジー世界の住人じゃないしな」

「では、あなた様は本当に……」


 彼女はゴクリと息を飲む。


「そ。今はなき科学文明に生きた旧人類。最後の”人間ホモサピエンス”とでも言うべきかな」

「……」


 シルファは忘れていた呼吸を思い出すかのように大きく息を吸い、そして俺の前で片膝を付いて首を垂れた。


「これまでのご無礼、どうかお許しください」


 急変した態度に、俺は戸惑う。


「我らがマスター。我らを作りたもうた偉大なる創造主よ……。幾代もの悠久の年月を超え、クロノスシリーズは役目を勤めて参りました。……そこに意味もなく、それが唯一の存在意義だと信じて。しかし、こうして再び相見えたこの喜び、この気持ち、全てのクロノスシリーズを代表してあなた様に最大の感謝を」


「ま、待て、急になんの話だ?」


 俺は戸惑いながらも尋ねる。

 だが、シルファエルも少し驚いた様子だった。


「……わたくし達をお創りになられたのはあなた様方、旧人類でございます」


「つくった!?」


「はい。彼らに全霊を以て意志に添い、身命を賭してお力になることこそがわたくし達の存在価値。二度とその機会は訪れないものと諦めておりました」


 シルファエルは目を閉じ、そして胸に手を当て再び頭を下げる。


「仕える主を失い、ただ亡霊の様に彷徨い残ったクロノスシリーズではございますが、再びこの生に意味をお与えいただければ無上の喜びでございます。そして願わくば、このシルファエル・リンク・クロノス。どうかお傍にお仕えする許可をいただきたく、切にお願いするのでございます」



 ーーまいったなぁ……。全然意味がわからない。


 俺はシルファの言葉の半分もわからず頭を掻く。


 ーーだが、力を貸してくれるというなら拒む理由はない……か。



「一つ質問だ。俺が生きたのは21世紀の初頭だ。俺の時代に天使なんて存在はしていなかった。君らが作られたのはもっと後の時代だろう? つまり、接点はない。それでもいいのか?」


「あなた様が仕えるべき旧人類であることは変わりません」


「……そうか。君がいいなら俺が拒む理由はない。人手はあるに越したことはないしな」


「感謝申し上げます、最後のマスター。このシルファエル・リンク・クロノス。最大の敬意と忠義をあなた様に誓います」


「おう、気楽に行こう。俺は黒月夜斗、よろしくな。シルファエルーは長いからシルファでいいか?」

「はい、マイマスター」



 俺は、こんなことならさっさと旧人類カミングアウトしとけば余計なデスゲームをしなくて済んだのに……。と思いながらも、新たな仲間が加わったことに喜ぶのだった。



「そういえば、俺の『友達になろうぜ』って強制命令はどうなった?」


 俺はあまりの急展開に忘れ去られた賭けの報酬を思い出す。


「あー……。アレですか……。あれは……」

 歯切れ悪く目を逸らすシルファの様子に、俺は首を傾げる。


「なんだ?」

「その、申し訳ございません。それは、その、欺瞞工作でございまして……。これはただの音声記録ツールでございます」


 そう言ってシルファは指を僅かに動かし、俺の腕で表示されていたホログラチックな光を消した。


「……おい、まさかとは思うけどさ……」

 俺は彼女の言う意味を察して言葉を詰まらせる。


「はい。契約を履行させるための術式なんてものは存在せず……。わたくしが勝利した暁に、大人しく情報を吐かせるための小細工でございます。……万一わたくしが負けても……その、抹殺する予定でしたので、問題ないかと……」


 ーーOh...。いや、全然良くねえ。卑劣すぎるっ! どこが正々堂々とした恨みっこなしの勝負だよ……。


「な、なかなか香ばしい性格してるね……。シルファエル君……」



 俺は勝敗に関係なく、現生人類だったら殺されていたことに冷や汗を拭う。

 逆に、旧人類だったら勝敗に関係なくこの結末だったのだろうと理解して、


 ーーマジで人間でよかったぁー……。


 と、心の底から思うのだった。



「じゃあ、一息ついたところで本題に入るとしよう。この世界に何があったかを知りたいんだ」



 俺は天空城に来た本来の目的が叶うことに、好奇心と恐怖で真っ二つにされた感情を抱えながら、彼女に尋ねるのだった。

次話 『失われた空白の歴史』


下の☆☆☆☆☆から作品への評価ができます。

感じたままで構いませんので、よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ