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12. 翼のない人間が空を飛ぶ方法

 

 喫茶店の一角。

 俺は、エレナとクレオスに天空城に行くための方法を掻い摘んで説明した。


 要するに気球だ。


 人類が最初に空を飛んだ道具。シンプル且つイージーな方法である。


「そ、そんな方法で本当に空を飛べるんですか!?」

「確かに、空気よりも軽い気体を集めて袋に入れれば浮くかもしれ無い……。けど、それは理論上の話だよ? 現実味がないんじゃないかな」


 エレナは驚いた様子で興味津々に。

 クレオスは、無理だと首を振った。


 ーー現実味と言われてもなぁ。俺は実際この目で何度も見ている訳だし……。



「手っ取り早いのは、ガス気球だな。二人とも、”ヘリウム”が取れる採掘田とか知ら無いよなぁ」

「なんだい? それは」

「聞いたことありませんね」


 分かってはいるが、この社会で希ガスの発見はまだまだ先。そもそもヘリウムを表す大陸共通語すら存在し無い。


「空気より軽い気体だよ。ヘリウムの合成生成は不可能だし、採掘田を探せるとは思えない。となれば、やりたくはないが”水素”を使うか?」

「また知ら無い言葉だね」

「なんですか?スイソって」


「最も軽くて可燃性の気体だよ。水を電気分解すれば無限に手に入るから入手難易度は超イージーだけどーー」

「デンキブンカイ……?」

「んー。電極で酸化還元を行なって電解合成する方法……と言っても通じ無いと思うから、わかりやすく言えば、水に二本の金属棒を突っ込んで雷魔法放つと出てくる気体的な」

「ふむふむ……。それで空気より軽い気体を集めて帆布で囲い、浮き上がるというのか……。本当にできるのかい?」


 クレオスは、疑り深く顔をしかめて俺に尋ねた。


「理論的には可能なはず。えぇっと……。空気1molが22.4/273×273×300だから約24ℓ。空気の平均分子量が約28gだから、水素分子は1.008×2=2.016g。1ℓ当たりの浮力は1.1g/Lだから、気球総重量を300kgとして、必要な量はざっと27.2万ℓってところか。つまり、だいたい縦横高さ20mの袋に水素を入れれば飛べるはず……。全然不可能ではないな」


 俺はざっと概算で実現性を確認する。


「分子量!? モル!? な、なんだいそれはっ!?」

「????」


 クレオスは興味津々に前屈みになり、エレナはポカンと俺を見つめていた。


「……説明すると原子論から徹夜コースだ……。またの機会にな。いや、だが水素は最終手段だな。できれば却下したい」


 俺は両手を上げて首を振る。


「どうしてですか?」

「水素は可燃性のガスだって言ったでしょ。下手したら静電気の火花放電だけでドカンだよ。


 俺が手をパッと広げて示した爆発の仕草に、エレナは息を飲んだ。



 ーー実際俺の文明でも水素を使った飛行船は何度も爆発してるし、そんな棺桶には正直乗りたくはない。



「となれば、熱気球だな」

「熱気球?それは違うものなのかい?」


 俺はカバンの中から紙と蝋筆を取り出し、絵を描く。


「球体ですか……? なんだか可愛いらしいですね」

「ほぉほぉ、それが模型図なのかな?」


 乱雑に書き殴った図が出来上がる。


「そ。下から熱して空気を温める」

「……そんなことで空を飛べるというのかい?」


 到底信じられないとクレオスは示した。



「ああ。熱で膨張した空気は体積に占める密度が低下する。密度が低ければ高いところに行こうとする訳で、暖かい空気は冷たい空気よりも上に行く性質を利用したものだ」


 クレオスは俺の説明を聞いて、ふと思い出したように手を叩いた。


「暖炉や焚き火で煙が上に昇る原理はそういう理由なのか」

「……そうだ」

 俺はクレオスの頭の回転速度に舌を巻いた。


 ーー天才かよ……。



「なるほど……。これは画期的だね」

「で、でも、それで人を乗せて飛ぶのは難しくありませんか? 人が空を飛ぶなんて……」


「無理かどうかを計算によっても求めるのが科学だ」


 俺は紙を裏返して計算式を書いていく。


「温度差によって得られる浮力はアルキメデスの原理とボイル・シャルルの法則という便利な公式があってだな。帆布の1㎡当たりの質量を0.2kgとして、外気温27度に大気圧1010hPa、耐熱温度を考えると気球内部温度を200度上限とした場合、必要な体積が250万ℓ。総質量が500kg。後は、空気密度から加熱に必要な発熱量計算ををして……。ええっとざっと秒間3000から4000Calってところか?」


「す、すまない。ボクには何をしているのか全くわから無いんだけど……」

「……ヤトさんは時々意味不明なことを言い出しますから……」



 二人は複雑な表情をして、何やら通じ合っている様子だった。



「すまんすまん。つまりだな、無茶苦茶高火力な火が必要な訳だが……。なんかいい方法ないか?具体的にいうと、焚き火の400倍ぐらいの」


 この世界の燃料は、アルコールや植物油ぐらいなもの。重たい液体燃料を積んで飛ぶなど論外だ。


 ーーなんかいい方法ないかなぁ。気体燃料を作るのは手間が掛かる……最悪水素で棺桶フライトか……。


 俺が悩んで腕を組んで悩むと、二人はニコニコとした笑顔を見せた。


「魔石があるじゃないか」

「炎魔石ですね!」


「……炎魔石?」


 聞き慣れ無い言葉に俺は聞き返した。


「おや、知ら無いのかい?炎属性の魔力の結晶さ。強力な魔獣の体内に生成されてたりするんだけど」


 クレオスは常識でしょ、と言わばかりに語った。


「神獣フェンリルにも雷魔石があったはずですよ? 数千万Gゴールドの値はついたと思いますが……」


 ーーなるほど……道理で億単位で売れた訳だ……。


「で?その炎魔石ってのはいくらで買えるんだ?」

「焚き火の400倍だと、サラマンダーとかの魔石を4つとかかなぁ。1個500万ぐらいしそうだけど」

「4つで足りるか?途中で燃料切れはマズイ」


 俺は石炭のような感覚で尋ねたが、クレオスは笑って答えた。


「内包する魔力量によるけど、三日三晩ぐらいは燃え続けるさ」


 ーーふむ。そういうものなのか。やっぱ魔法とか魔力とはよく分からんな……。


 いずれ徹底的に分析してやると誓う俺だが、今は目の前のことに集中しようと再びクレオスと熱気球の制作について話を詰めるのだった。

次話 『それいけ上空6000m』


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感じたままで構いませんので、よろしくお願いいたします。

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