#9 真実
「私がこれからお見せするものは、この世界、この宇宙の真の姿です。それはあなたにとって、いや、この地上に住む大勢の人々にとって、受け入れ難い真実かもしれない。ですが我々は敢えてそれを伝えることで、あなた方にこの先の未来に選ぶ道を決めるための、参考にして頂きたいと考えてます」
いつになく、ピリピリとした物言いをするディーノ。だが、私が今、目の前に現れた不思議な絵画に意識が集中している。
「と、堅い前置きですが、ここ画像を見ていただければ、我々のことを理解していただけるかと思います」
細い額に収められた、光る絵画。しかもその絵画は、実物と違わぬほどの精巧で写実的な絵。
そんな絵画が、額の中で動いている。
あまりの衝撃に、私は手に持ったカップを落としそうになる。何という魔導なのだ。この魔族の持つ底知れぬ力の一端を、見せつけられてしまった。
「あの……どうかしましたか?」
「あ、いや……何でもないです」
いかんいかん、魔族を前に動揺するわけにはいかない。私は、王国公認の魔導師だ、いかなる時も、冷静さを失ってはならない……そう言い聞かせて、心の衝動を鎮める。
で、その目の前の絵画は、大勢の人が描かれている。まるで王都の中央広場のように、人の往来が映し出されている。が、その奥には、まるで物見櫓のように高い建屋が幾つも並んでいる。
それらの表には、どれもガラスのようなものが貼られている。あのギガンテスもそうだが、こやつらは高価なガラス細工を惜しげもなく使う。しかも、歪みのない真っ平らなガラスばかり。どれだけの職人を使えば、あれほどの質と量のガラスが得られるのだろうか。
「で、今映っているのは、僕の出身である地球811上の、とある都市の光景です。僕らもつい40年ほど前に、地球328という星から技術供与を受けて、宇宙進出を果たしたんです」
「は、はぁ……」
また訳の分からないことを言い始めた。そのアースというのは、何のことだろうか?
「あの……アースというのは、何なのです?国の名前にしては、随分と殺風景な呼び名である気がするのですが」
「ええ、国ではありません。星の名前です」
「ほ……星?星とは、夜空に瞬くあの星のことですか?」
「ええ、まあ、そういったところです」
「と、いうことは、あなた方、魔族は、空高く星の国より現れたと申すのですか!?」
私はガタッと椅子から立ち上がって、興奮気味に叫ぶ。
「そうなんです。僕ら、宇宙から来たんですよ」
「その、宇宙とはなんなのです!星の国ということですか!?」
「あ、ええと……まあ、そういうことになりますか。星が広がった空間のことを言うので、その認識であながち、間違いではありませんね」
なんとこの魔族、星の国から来たと言い出した。そんな馬鹿げた話があるか……と思ってはみたがすでに私は、空に浮かんだままのこの馬鹿げた城の中にいる。
となれば、星の国から来たというのも、さほどおかしな話ではあるまい。
「だが、その星の国とは、どのようなところであるのですか?生きとし生けるものが、星の世界に立ち入るなど、およそ不可能ではありませんか?」
「そんなことはないです。この駆逐艦を始めとして、宇宙を往来できる船を使えば、誰でも行くことのできる場所なのです」
「……と、いうことは、先日亡くなった我が同志のアロンソ殿と会うこともまた、叶うと言われるのですか……」
「いや、死んだ人がいるのは、我々でも到達できないほど遠くの世界ですよ。せいぜい我々は、一万四千光年ほどの限られた場所を行き来できる程度です」
なんだ、死んだ者と会えるわけではないのか。我がパーティーにて唯一、私を信頼してくれていた、アロンソ殿と出会えるものと思っていたのに……いや、そういえばこやつらは、魔族であった。たとえ死者の国と繋がっていても、我らに安易に明かすことなど、するはずがないか。
「……では、我々の知る世界、その世界で行われている争いの歴史、そしてなぜ、我々がここにやってきたのかを、順を追って話しましょう」
そしてディーノは私に、その動く絵画を使って、様々なものを見せてくれる。そこで語られる中身は、まさに驚愕するばかりであった。
この大地が丸いことは、何となく聞いてはいた。が、その丸い大地が、太陽の周りを回っていると、この魔族は主張する。
そして、このように人の住む丸い大地というのは、実に千を超える数が存在しているという。
その千を超える「地球」と呼ばれる星々は、大きく二つに分かれているとこやつは言う。
「この一万四千光年の円形に分布する地球は、我々の属する宇宙統一連合と、その連合に敵対する銀河解放連盟とに分かれてます。その比率は、およそ六対四。互いの勢力は、各々の領域を守り、広げるべく、この広大な宇宙でしばしば争いを繰り広げているのですよ」
そう語るディーノが、この空に浮かぶ城のことを明かす。
曰く、これは城ではなく、船だと言うのだ。宇宙という星の世界を巡り、連盟という勢力と争うために作られた、戦闘を生業とする船。言われてみれば、城にしては窓が無さ過ぎる気がしていた。いや、船にしても無さ過ぎる方だが。
で、こやつらがここにやってきた理由だが。
我々をその勢力の一つ、連合と呼ばれる勢力に我々の星を組み入れるためだと、ディーノは言った。