表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/54

#7 食事

 うう……やはりこいつらは、魔族だ。

 私の身体を、あのようなもので弄ぶなど、人族のすることではない。

 風呂場というところに入ると、全裸の私を待っていたのは、二本腕の魔物だった。それが私の身体のあちこちを弄り、泡だらけにされる。

 なんでも、水を節約するためだとかで、ここでは自分で自分の身体を洗うことができないという。このロボットとかいう魔物に、身を委ねるしかない。

 ベントーラという女も、同じくその魔物に身体を洗わせていたが、とにかくこの魔物の腕が全身を洗っている間は、手を横に伸ばしたまま動くなと女魔族から言われ、私はその場を耐える。しかし、なんとも屈辱的だ。

 で、最後にお湯をかけられて泡を洗い流されると、その後は浴槽にてお湯に浸かり、身体を温める。そこは良かったのだが、風呂から上がるや、何やら奇妙な服を手渡される。

 胸当てと股当て、とでもいうものだろうか?服の下に着る「下着」なるものを着せられた。これがなんの意味があるのかわからないが、ともかくこれをつけろという。

 で、その上から、群青色の男装の服を着せられる。私は、王国より認められた魔導師なるぞ。何ゆえこの騎士団のような格好をせねばならないのか?


「いやあ、だってエリゼちゃんのあの服、汚れてる上に、あっちこっち破れてるよ。さすがにあれを着るわけにはいかないでしょう?」


 この女、いちいち言うことが尤もだ。言い返せない私は、実に不甲斐ない。

 そして、私は食堂というところに連れて来られた。


「ああ、来た来た」


 そこで待っていたのは、私が最初に出会った魔族、ディーノだ。しかも、その周りには大勢の魔族がいる。


「あれが、魔法少女か?なんだ、まるで女性士官のような格好じゃないか」

「それはしょうがないよ。竜のようなモンスターに襲われて、危うく命を落とすところだったんだから。服もぼろぼろで、軍服を着てもらうしかないんだ」

「ほーん、そうなんか」


 ディーノが、他の魔族らと私の話をしているようだ。ここにいる魔族らは、ディーノよりも失礼なやつだな。やつら、私のことを魔導師ではなく、「魔法少女」などと呼んでいる。何だその呼び名は?意味は分からないが、何となく軽く見られているように聞こえる。まさしく、魔族と言わんばかりのやつらだ。で、私はベントーラという女魔族に引かれて、ディーノの元に連れて行かれる。


「それじゃあピエラントーニ中尉殿、あとはお願いします。私はまだ職務が残っているので。では」


 とだけ言い残し、ベントーラという女魔族はその場を去る。

 で、私はこの屈辱的な男装と、大勢の魔族の真ん中に置いて行かれた。しかもここにいる魔族は、男ばかりだ。

 ここは食事を摂る場所だと言うが、魔族の食事とは、何なのだろうか?まさか、私自身が食材として捧げられるのではあるまいな。

 だいたい、あれは何だ?食事を摂る場所だと言っていたが、奇妙な食べ物ばかりではないか。茶色の液体で染められた、何かの肉片と思われるものをナイフ切り刻んでそれをフォークに刺して口に運ぶ者、薄黄色の木の枝のようなものを摘んでは口に運ぶ者、陶器の皿かと思いきや、それに切り込みを入れて引っ張り上げ、その上に載った赤や緑の焼いた野菜と干し肉ごと、それを食らう者。魔族の食事とは、何と(おぞ)ましいものか?


「あ、なんだ、エリゼさんは、ハンバーグにフライドポテト、そしてピザが気になりますか?」


 その得体の知れない料理を指差して、私に誘いかけるディーノ。


「いや……やはり魔族とは、恐ろしきものを口にするものだと……」

「恐ろしいものじゃないですよ。食べてみれば分かります」


 といって、ディーノは黄色い小枝のようなものを私に渡す。

 私に、木の枝を食えというのか。なかなか鬼畜な魔族だな。しかし、私も草原を歩き回り、挙句に魔力を使い果たした。魔族のエサでも、腹に入れねばならぬほど追い込まれている。

 うう……王国公認の魔導師が、パーティーを追われて、小枝を食わされようとしている。虚しくなるなぁ。そんなことを思いながら、私は手渡されたその小枝を口に入れる。

 ……随分と、柔らかいな、これ。おまけに、塩の味が効いていて、美味い。枝だと思っていたが、これはイモの一種だ。蒸したイモに塩味をつけたもののようだが、それにしては癖になりそうな味だ。


「フライドポテト、気に入ったみたいですね」


 と言ってディーノは、ドサッと、その小枝のようなイモが入った皿を目の前に置く。さらに摘んで口に入れるが、とても美味い。気づけば私は、それを平らげていた。

 何という魔導を使えば、イモがこれほどまでに美味くなるというのだ?しかも、あれほどたくさん食べていても、イモの毒にやられている気配がない。あのイモは確か、食べ過ぎると頭痛や目眩が起きるものだが、山と積まれたそれを食べたというのに、何の変調もない。


「いい食べっぷりですねぇ。じゃあ、次はこれ、ピザ、いきましょうか」


 と、今度は干し肉と焼き野菜の乗った皿だ。それを皿ごと切り取って、私に手渡してきた。恐る恐るそれを受け取り、一口食べる。

 ああ、何ということだ。この皿は、食べられる。というか、皿じゃないな、これ。その皿と思しきキツネ色の下地の上には、干し肉と野菜だけでなく、チーズも敷かれている。暖かいそれは、私の喉を伝って身体に染み渡る。

 魔力が、みなぎる。魔族の食べるものだけに、凄まじいほどの回復力だ。今なら、あの翼竜(ワイバーン)など一撃で倒せそうなまでの水弾を放てる自信がある。

 と、なると、あの黒茶色の液体で覆われた謎の肉も、食べてみたい。あれは一体、何物だ?すっかり魔族飯に洗脳された私のお腹は、すでにあれを欲して止まない。

 それを見透かしたように、ディーノのやつが、私の前に、その謎肉をコトッと置く。


「さあ、エリゼさん、そろそろこのハンバーグが食べたくなったんじゃないですか?」


 気づけば私は、この魔族に向かって首を縦に振っている。ああ、私のお腹は、魔族の誘惑を前に、まさに堕ちようとしている。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] これが悪魔の誘惑という奴か( =^ω^) [気になる点] お好み焼きではなくピザかっ! お好み焼きも美味しいんだぞっ!(妙な対抗心) 私はシーフードミックスが大好きです。ピザ○ットではそ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ