#6 正体
「あの……エリゼさん。その、魔族って何なのです?」
ようやく言葉を絞り出したかのように、ディーノが私にそう尋ねる。私は応える。
「伝承によれば、魔族とは、魔物を使役し、我々を超越する魔導を操る種族。伝説の巨人族、ギガンテスを操り、王宮よりも巨大な城を未知の魔導で空に浮かべている、まさにあなた方こそ、魔族ではありませんか!?」
「ええ〜っ!ぼ、僕らが、魔族!?」
思ったよりも、違う反応を受ける。てっきり私は、この発言によって正体を明かすものだと思っていた。が、狼狽するばかり。なかなか、本性を見せようとしないな。
「ちょっと待って下さい!我々は、あなたが魔物と呼ぶ、あのモンスターの事すら何者かを知らないんですよ!?だから、倒したモンスターを回収し、それを調べようとしてたくらいなんです!魔物を操る魔族だなんて言われても、何のことやらとしか言いようがありません!」
「で、でも、あなたはギガンテスを操っていたではありませんか!?」
「ギガンテスって……あの、人型重機のこと?いや、あれはただの機械ですよ。魔物とか、そういうものじゃありませんって」
「翼竜すら一撃で倒す光の魔導、そして未知の浮遊魔導、まさにそれは、強大な魔導を操れる伝説の魔物ギガンテスそのものです!」
私は、随分と大胆なことをしている。魔族相手に、その正体を明かすよう促しているのだ。下手をすれば、命はない。
だが、私とて王国の公認を得た勇者パーティーの一人、いくら助けられたとは言え、魔族の軍門に降るわけにはいかない。どのみち魔族は、私を捉えて何かするつもり、例えば私の魔力を利用するなど、何か企んでいたはず。そして、用済みとなった時に、私を消しにかかるはず。どうせ命を奪われる。早いから、遅いかだけだ。
この私の渾身の告発に、目の前の魔族らは、どういうわけかため息を吐いている。が、銀髪の魔族は、私の足を掴む。
いよいよ、本性でも現すのかと思いきや、黙って私の足の傷の上に、何やら白い布のようなものを被せる。それはスライムのように弾力ある不思議な布で、それはあの傷を覆い隠してくれる。
「……とりあえず、これで治療は終わりだ。まあ、一週間ほどこの貼り薬を貼ってれば治るだろう。さて、ピエラントーニ中尉」
「はい、何でしょう?」
「このお嬢さんは、我々に対して相当誤解していることが分かった。貴官には、その辺りの対応を頼む。我々が何者で、どこから来たのか、ということを、ちゃんと説明すれば分かってもらえるだろう」
「そうですね、少なくとも、魔族じゃないということは分かってもらえますね」
「ところで、ベントーラ准尉」
「はっ!何でしょうか!」
「女性である貴官に頼みたい。こちらの魔法少女さんを、まず風呂に連れていって欲しい」
「そうですね、一度、清めた方がいいでしょうね」
「それもあるのだが……あと、軍服でいいから、代わりの服を一着、それとだな……実に言い難いことだが、下着の用意も」
「あの〜、軍医殿。なぜそこで、下着などと?」
「いや……このお嬢さん、履いてないんだ」
「えっ!そうなんですか!?」
「さっきから、治療しながら気になって仕方がないのだが……艦内で、これはまずい。だから准尉には、その辺りのお世話を頼みたい」
「はっ!承知しました!」
風呂……つまり、浴場に行くというのか?この城には、そんなものまであるのか。にしても、最後のやりとりが気になる。何かまずいことでもあるのだろうか?
「それじゃあ、まずはベントーラ准尉にお願いして、風呂と服装の手配を、その後は食事でも取りつつ、我々のことを話しましょうか」
そして私は、この医務室というところを出る。足に痛みはあるものの、治療のおかげか、歩けるくらいには痛みは引いた。そしてあの異様に明るい通路に戻る。
本当に彼らは、魔族ではないのか?にわかには信じられない。これほどの魔導を駆使しておきながら、魔族ではないと言い張るのは無理があるのではないか?などと思いつつも、私は彼らに導かれるがまま、風呂場へと向かう。