表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/54

#28 地上

「まもなく、エスタード大陸の上空に差し掛かります!高度2万3千、速力500!」


 地上が、見えてきた。ようやく私は、帰ってきた。

 出かける時は、切り刻まれるのではないかと考え、帰りは破滅の魔導で焼かれるかと思った。幾多の命の危機をも乗り越えて、ようやく私はこの大地に戻ってきたのだ。

 この船を操るこやつらが、魔族ではないと分かった。しかし、恐ろしい魔導を駆使する連中であることも、また理解した。このことはすぐにでも、エスコパル卿の耳に入れねばなるまい。


 ところで、彼らは我が大陸のことを、「エスタード大陸」と呼ぶ。我々はこの大陸こそ、唯一の大陸だと思っていたから、名など付けずにただ「大陸」としか呼んでいない。

 が、聞けば我々の星には、大陸が三つもあるという。だから、名前を付けて区別する必要に迫られる。

 そこで、この大陸に我々の王国の名が付けられた。その方が、我らとしても分かりやすい。おそらくはこのまま、この大陸はエスタード大陸と呼ばれ続けるだろう。


「やっと、見えてきましたな」


 艦橋には、艦長並みの歳の人物が現れる。交渉官と呼ばれるその人物は、我がエスタード王国と彼らとの間に、同盟条約を結ぶために来た。


「スカリオーネ様。エスコパル様との交渉がうまくいきますよう、魔導の女神テイアの名の下に、お祈り申し上げます」

「ああ、ありがとう。私にとっては、あなたから提供頂けた、その宰相閣下の補佐役の人と成りの情報が、とても参考になったよ」


 このお方とは、戦艦サン・マルティーニの中で話をさせて頂いた。話ぶりからするに、とても高貴なお方だと感じられた。話し方はとても丁寧で、しかし、どこか鋭い。

 このお方ならば、あのエスコパル卿とも渡り歩けるだろう。私はそう、確信する。


「では、これよりエスタード王国の王都、クローマ・アルヘシラーニャ・デ・アルドス・エルナーマス・グラマネートへと飛び立ちます」

「うむ、頼んだよ、大尉。それじゃあ、小さな魔導師さん、また王都にて」


格納庫へと入っていく交渉官のスカリオーネ様を、私は見送る。スカリオーネ様は私に手を振り、分厚い扉の奥に入っていった。


「よし、もうすっかり傷は消えた。これで、完治だな」


 スカリオーネ様の見送りの後、私は近くの医務室に寄る。そこで私は、ようやくあの貼り薬を剥がされる。

 本当に、すっかり傷が消えてしまった。あれだけの傷が、どこにあるのか分からないほど消えてしまった。あの白スライム風の貼り薬はすごい。なんという魔導なのか。


「にしても、あんたもここに最初に来た時から見ると、変わったよな」

「……そうですか?」

「うん、変わった。ここに初めてきた時は、まるで拾われたばかりの子犬みたいに、警戒心剥き出しだったもんな。それが今じゃどうして、いい顔色になったものだ」


 なんだか、ちょっと馬鹿にされた気分だな。だけど、確かにあの時は、恐怖心丸出しだった。でも、仕方がないだろう。巨人に乗せられ、空に浮かぶ城に来させられ、魔族だと思われる連中に囲まれていたのだ。怖がらない方が、どうかしている。


「まあこれで、魔法少女として存分に活躍できるぞ。せいぜい、頑張れや」

「あの、カザリーニ殿。私は魔導師であって、魔法少女ではありませんが」

「そうなのかい?ウルトラビューティーなんちゃらっていう呪文を唱えてたって話、聞いたぜ」


 くっそ、ディーノのやつ、私のあの恥ずかしい話を、この医者殿にもしたのか?


「まあ、なんにせよ、今度は怪我しないように注意するこった。この間みたいに、人型重機に飛びかかってきた龍の口に向かって、その魔法を放つようなことは、あんまりやらない方がいい。それじゃあ、お大事に」


 と、にこやかに手を振る医師。だけどこのカザリーニという医師も、どことなく無神経な感じがする。この船、そういう人が多くないか?私は手を振り返し、医務室を出る。


「ああ、やっと貼り薬が剥がせたんだね」


 と、医務室の前で声をかけてきたのは、ディーノだ。


「ええ、おかげさまで」


 といいつつも、私はあの話が医師に伝わったことを、かなり根に持っている。若干、睨み気味に応えてみる。

 が、この男は、その程度では動じない。


「ねえ、それじゃあ、僕と一緒に動画でも見ようか」

「動画ですか?」

「うん、実は『魔法少女ビューティーケア』の最初のシリーズの動画を、手に入れたんだよ」


 なんだ、また魔法少女か。どうしてこう、皆は私のことを、魔法少女に重ねるのだろうか?

 で、あまり乗り気ではなかったけれど、展望室に行って、そこでディーノと共にその動画を見る。

 これが、たまらなく面白い。


「あのビューティー・ファイヤーの迫力ある魔導!そして、ビューティー・アクアの知謀!決してあの二人は、ビューティー・デライトの支え役どころではありませんよ!あの二人だけでも、ダークイリネス相手に戦えますって!」

「そうだろうけど、この先、敵もどんどん強くなるからね。でもやっぱり僕は、ビューティー・アクアのあの健気な戦いぶりがいいなぁ」


 なぜ私は、ここでこんなやつと魔法少女の話で盛り上がっているのだろうか?たかが架空の物語に、これほどまでに熱くなれるとは……いや、でもこれ、面白い。

 吟遊詩人の語る武勇伝も面白いけれど、こちらの方が動く絵がある分、迫力があり、伝わりやすい。


「あれ?こんなところで二人、何を盛り上がってるのですか?」


 と、そこにクレーリアがやってくる。ディーノが、今見ていた魔法少女の動画の話をする。


「ちょうどエリゼさんと、魔法少女ビューティーケアを見ていたところなんだ。で、今、5話まで見たところで盛り上がっちゃってね……」


 そういえば、クレーリアもこの魔法少女が大好きだと話していた。話題にのってくるものと思っていたが、意外な反応が返ってくる。


「えっ、中尉殿、男のくせに、魔法少女なんて見てるんですか?引くわ〜引きますわぁ〜」

「あれ?男が見ちゃ、変かい?」

「ええ、しかも陸戦隊員で人型重機のパイロットがあんなもの見てるって、イメージ悪いですよ」


 あれ、気味悪がっているぞ。どうやら、男が見たらあまりいい印象がないものらしい。そういうものなのか。でも、なぜだろう?


「クレーリア、魔法少女って、男が見たら変って、そういうものなのです?」

「そうね、なんていうか……中尉の場合は特に、下心を感じるのよ」


 クレーリアは、基本的に男嫌いなようだ。比較的よく関わっているディーノですらも、信用している様子がない。過去に、何かあったのだろうか?


「とにかくエリゼちゃん、この男に引っかからないようにね。気をつけた方がいいよ」


 そう言い残して、クレーリアは展望室を去る。


「そうかなぁ、男が見たって、別にいいじゃないか」


 ディーノは、クレーリアに言葉に納得がいかないらしい。だけど、私はクレーリアの言葉で、ふと我に帰る。

 なんだって私は、こやつなどと意気投合していたんだ?我ながら、恥ずかしい。そこで私は、そのまま部屋へと戻る。

 考えてみれば、あれほど簡単に魔族を倒せるわけがないだろう。なぜそんな短絡的な物語に、心惹かれたのであろうか?

 と、思いつつも、続きが見たい。気になる。うう、あの男と関わることなく、続きを見る方法はないだろうか?あの敵である魔族、ダークイリネルが、どう倒されるのかが知りたい。だが、そのためにはあの男を攻略せねばならないのか?


 と、部屋の中で悶々としていると、扉を叩く音が響く。出てみるとそれは、ディーノだった。


「魔族が、見つかったかもしれない!」


 まだこやつは、魔法少女の話を振ってくるのか?そう感じた私だったが、ディーノの持ってきた話は、現実の方だった。

 大陸の中央部、人の立ち入れない場所で、魔族がいる痕跡が発見されたと言うのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] お、男が見て悪いか〜( ω-、)好きなんだからいいじゃないかっ!! (ガ○ラキとかボト○ズとかダ○ラム、ザ・コ○ピット好きオッサンの叫び) ゲームではメルテイ○ンサー、パ○ードールが大好き…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ