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危機一髪は夢じゃない

 僕がたった今見たばかりの夢の前半部分は、僕に本当に起きたことだ。

 僕は葉山に押し倒され、僕は夢のとおりに叫んだ。

 しかし夢と違い、葉山は僕を解放しなかった。 


 葉山は僕の叫びに僕を解放するどころか、一層深い口づけを僕の抵抗がなくなるまで続けたのだ。

 僕は執拗な葉山の攻撃に、数分もしないで力が抜けてしまった。

 無抵抗に陥った僕に一時攻撃を中断した葉山は、必死な光を宿した瞳で、僕を射抜きながら僕の耳元で囁いた。


「本気で愛しているんだ。一度だけでいいから。」


 その一回であなたは満足できるかもですが、僕は山口を失ってしまうんじゃ無いのですか?

 そのくらいのことを言い返せないぐらい、葉山は本気で僕に挑んできており、僕のどんな返事もYES以外は聞く気が無いと彼は僕を威圧している。


「ま、まって、葉山さん、て、ああ~!」


「大丈夫。男の身体は俺自身で知っている。」


 それは自分の身体で実験したとか、いや、一人エッチで確認したって、いえ、僕は何を葉山さんで考えてしまったの、というか、あなたがそんなことをしているのを僕に想像させないで!

 あなたは僕の中では格好いい男のままでいて!


「ちょっと、ま、まって!」


「大丈夫。力を抜いて、……って、うわ!」


 僕の上から葉山が転げ落ちた。

 僕の顔と葉山の顔の間に無理矢理顔を捻じ込んだのは、神無月の途中で悪漢に負けて出雲に飛ばされた僕の犬神だった。

 葉山に抵抗する術など何もない、そんな僕をダイゴが助けてくれたのだ。


 突然現れた犬に驚いて僕の上から転げ落ちた男は、そのことで冷静に戻ったのか、立ち上がると傷ついた目で僕を一瞥だけしてから脱衣所を出て行った。

 僕は葉山に罪悪感や申し訳なさを感じつつ、久々のダイゴを抱きしめた。

 だってダイゴを抱き締めるのは久しぶりだ。


 ダイゴは出雲から戻って来た途端に、良純和尚によって僕から引き離されて、今や、楊の自宅の隣で新婚生活を送る、楊の相棒のたか悠介ゆうすけの妻でマタニティブルー真っ盛りの杏子きょうこのお守りをしているのだ。


 彼女が独身時代から飼っている雑種犬の虎輔とらすけに落ち着きがなく、身重の彼女を転ばせてしまって以来、彼女がちょっと壊れてしまったのだという。

 子供同然に可愛がっていた犬を可愛がりたいけれど怖くて近寄れず、酷い悪阻も重なって杏子がノイローゼだと夫の髙が良純和尚に相談し、ダイゴが良純和尚によって勝手に髙家に下げ払われたのである。


 僕とダイゴは呼び合えばいつでも逢えると高をくくっていたが、杏子のノイローゼは髙が音を上げるほどであった。


 ダイゴは常に杏子の側に控えて虎輔の監視をする破目になり、僕達は僕が髙家に訪問しない限り会えなくなってしまったのである。


「ありがとう、ダイゴ。愛しているよ。杏子ちゃんの子供が生まれたらまた一緒だね。そしたら、一緒に海に行こう。」


 ボクサーに似た外見で顔が黒色で全身がフォーン色をした大型犬は、薄情な僕を怒ることもせずに、優しく僕に体を擦り付けて僕を慰めてくれた。

 彼の毛並みは最高級のシルクビロードのようであり、僕はそのこってりとした滑らかさにいつも耽溺してしまう。


「ダイゴー!ダイゴー!」


 鬼婆のような凄まじい大声が隣家から響き、僕はその声に怯えて咄嗟にダイゴを抱きしめると、ダイゴも震えていることが判った。


「ごめんね、ダイゴ。」


 ダイゴは犬にしては本当に嫌そうな顔を僕にしてみせると、ぱっと姿を消して隣家に戻ったのだった。



 ぐるんっと僕は回転させられて、はっと物思いから冷めさせられた。


 なんと、山口の上にいた僕は、今や布団に転がされ、山口が僕を見下ろす格好なのである。

 そして僕を押し倒した彼の顔は、先程の緩んだ微笑みなど微塵もない、あの日の葉山と同じようなギリギリの真剣な表情に変わっていた。


「で、クロトは友君に何をされたって?……畜生!それは夢じゃないんだな!」


 山口が僕に触れることで僕の記憶が読めることを忘れていた。

 あぁ、しまった。

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