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優しい俺達

 涙目となった玄人を抱きしめ、俺は大事な彼をあやすようにして囁いた。


「誰だ、お前に何かした奴。山口か?山口と喧嘩でもしたのか?」


 玄人は同性愛者ではなかった。

 それなのに、友達がいないばっかりに同性愛者の優しさに絆されて、終には恋愛感情まで抱いてしまったという間抜けな話だ。


 だが、その山口やまぐち淳平じゅんぺいという男は知れば知るほど可愛らしく面白い奴なので、異性愛者のはずの俺も落としてしまった程なのだから仕方がないだろう。


 山口は俺と同じくらいの長身のハンサムな男であるが、元公安の人間兵器だった経歴からか、その雅な外見をその他大勢に埋没させてしまうことができる不思議な男でもある。

 顔には作ったような笑顔を貼り付け、子供っぽい喋り方をして本心を隠していた男は、俺や玄人の前では情けなく本心を晒しては、泣いて喚いてフラフラしているのだ。

 面白いだろ。


「なんでもない、です。僕が言いつけを忘れていただけで、淳平君は関係ないのです。」


 誰か訳してくれよと、俺はぎゅっと目を瞑った。

 馬鹿な子の方が可愛いというけれども、会話が成り立たない馬鹿は困る。


「言いつけってなんだ?」


 一番話しやすそうな単語を選んで聞き直すと、俺の腕の中の俺の子供はモゾモゾと動いて顔をあげると、再びつぶらな涙を湛えた瞳で俺を縋るように見つめた。


「かわちゃんが言っていた、あれ、です。」


「俺は共感力が無いけどな、その説明じゃあ共感力のある奴でも訳がわからないと思うぞ。ちゃんと説明してくれ。」


 涙目の美女は顔を一気に赤らめた。

 怒りではなく、恥じらい?

 その表情が俺の好みであったので、俺は彼に久しぶりに口つけてしまった。

 コイツの顔は俺好みなのだから仕方が無い。


「ちょ、ちょっと良純さん。はな、話し中では?え?」


 慌てふためき少々の抵抗はあるが、彼がすぐに落ちる事は知っている。

 彼には性欲は無いが、快楽は好きなのだ。

 行為を続けながら、彼に欲情して行為に出るたびに最後の段階で自分が異性愛者でしかないと萎えて自己嫌悪に陥るのに、ついこの顔を見るとモノにしたくなってしまうのが不思議だと考える。


 この顔は白波家が守る蛇神様の男を狂わす顔だというのは、案外真実なのかもしれないな。


 バシッと頭を叩かれて、俺は動きを止めて自分を叩いた奴に振り返ると、それは楊だった。

 かなり息を切らせているところを見ると、彼は金虫家から走って戻って来たようだ。


「忘れ物か。邪魔するなよ。」


「邪魔って、お前は自分の子供に何をしているの。今日のちびはそんな追い討ちかけられたら辛いかもって、俺が急いで帰ってみれば。やっぱりって。お前は鬼畜かよ。」


 楊の「鬼畜」の言葉で思い出した。

 楊の玄人への忠告。

 楊の家には部下が二人居候をしているが、一人が馬鹿な恋人の山口で、もう一人が山口の相棒で鬼畜と名高い男だった。


「やられたのか。」


 ようやく事態を理解した俺は、呆れたような声で溜息をついた。

 玄人は俺に肌蹴させられた肌を楊に隠すように自分を抱きしめて真っ赤になっていたが、今の一言で茹で上がった蛸のように一層赤みを増してしまった。

 そして俺の後頭部は、再び楊に叩かれた。


「何をするの、かわちゃんは。」


「他に言いようってあるでしょうよ。」


 雛鳥を守る親鳥になった楊は、婚約者宅に戻らずにくどくどと俺を叱責して居座って一泊していったが、それは自分の身の不幸を忘れようとしていたからであろう。


 なぜ、共感力が無い俺が楊の心の内をそこまで理解してやれたのかは、彼が長い付き合いの親友だからというわけではなく、翌日楊が帰った後に玄人が梨々子からのメールを俺に見せてくれたからである。

 梨々子と玄人は馬鹿であることが共通していることと家が近所ということもあって、彼らは普通にメールもし合う仲良しの友人関係なのだ。


「式は六月か。楊は頑張ったんだな。」


 金虫梨々子の誕生日は四月十五日だ。

 彼はそこから二ヶ月の猶予を勝ち取ったのだ。


「梨々子って時々賢くなりますよね。彼女はジューンブライドに憧れていましたから、どうして誕生日の式に拘るのかと不思議だったのですよ。」


「可哀相だから、その事はかわちゃんには絶対に内緒だからな。」

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