クリスマス会でのあれこれ
二十二日に葉山を佐藤が落すためのクリスマス会を開催する予定だったが、前日の山口の怪我で中止となり、急遽二十三日に我が家に彼らが訪問することで普通のクリスマス会だけは開催できた。
僕と山口が頑張って包んだクリスマスプレゼントを、みんなに渡すことが出来たのは嬉しかった。
こんなことは僕の生まれて初めてなのである。
しかし喜んだ彼女達が僕と山口でなく良純和尚に抱きついたのは解せない。
確かに、彼が作ったのはお揃いといえども素晴らしいとんぼ玉が付いた金色の簪であったからだ。
勾玉のような面白い形の簪の土台部分はクリスティーナの工房に作らせたもので、デザインを渡す代わりに材料費だけで作ってくれたのだと言っていた。
「何てことを!作る権利だけをくれてやればデザイン料で儲けられたのに!これで僕用の一点物の製作が出来なくなったじゃないですか!」
「お前は俺を過労死させる気かよ。」
僕はぱしっと彼に頭を叩かれた。
「兄さん、俺は頭に付けれませんよ。」
「真砂子にやりゃあいいだろうが。元々コレは俺からじゃなくてクロからの贈り物なんだからさ、俺に言うな。玄人が選んだチョコレートと変なスプーンもあるからいいだろ。」
「俺は山さんが貰ったようなのも欲しい。」
山口の胸元には燻し銀の鎖がまかれており、銀の鎖にひしゃげたホピの太陽が鈍く光っている。
山口を我が家に帰る道中、彼は指輪を駄目にした事を僕に謝り続けた。
それはもううわ言の様に何度も謝り、我が家に戻っても、痛みで動けない事も相まった彼のそのひどい落ち込みぶりに、僕は彼を元気づけるべく、今度はお揃いのものを買って左の薬指にお揃いで嵌めましょうと、言いかけたほどだ。
そろそろ僕もホピの太陽モチーフが欲しくなったのだから、彼が指輪を失ったのは、僕にはすごくいいタイミングともいえるのだ。
ところが、言いかけた、で僕が未遂のままであるのは、良純和尚のせいである。
彼は嘆く山口を放って居間を出て行ったと思ったら、革製で筒状の小型鞄を持って戻ってきたのである。
僕はその中に隠し持っているであろう武器で煩い山口を殺すつもりなのかと一瞬脅えたのだが、その独特の皮の鞄は半田こてや繊細な先端のドライバーなどが色々と入っているただの工具箱であった。
恐らく良純和尚が自分でデザインしたであろうと、僕が鞄に熱い視線を送っている脇で、彼は魔法のように指輪を加工し直してしまったのだ。
割れてひしゃげたホピ族の指輪は、その歪んだ形によりペンダントヘッドとして存在感を増した。
僕がそれこそ自分のものにしたいと、熱い視線を毎日送ってしまうのは、小売店の当主として仕方のないことだろう。
「楊もあれを見て欲しいと騒いでいたね。」
「そりゃそうですよ。」
本気で欲しそうに相槌を打つ葉山に、良純和尚はいい声で笑う。
事実、山口の見舞いに来た楊は、自分には作ってはくれないんだと、いつものように居間の隅でひねくれてしゃがみ込んで動かなくなったのだ。
そこで良純和尚は楊が帰った後に僕にホピのモチーフを尋ねてきて、なんと、銀粘土でモチーフの刻まれたペンダントヘッドを作ってしまったのである。
飛べない鳥だが草原の神様で、すばしっこさと機敏さの象徴であるロードランナーは楊にぴったりだ。
クリスマス会に参加予定だった梨々子は、楊宅に居候の葉山と山口がいないと聞いて此方に参加をせずに楊を突撃した。
彼女は明日僕達と青森に発ち、その後は青森からに新潟へと冬休みは僕達と行動する。
楊と暫しのお別れとなるのだから仕方が無い。
それから、あの日の佐藤達は結局泊まりを押し切ったので、彼女達は僕を含めて仏間で、葉山達は良純和尚含めて居間に雑魚寝になった。
「これで良かったのよ。」
僕の隣に横になっている佐藤がポツリと呟いた。
「良かったの?」
声を抑えて尋ね返すと、佐藤はフフフっと笑う。
「先に体になっちゃうと、彼が本気になっても嘘みたいに思えるでしょ。だからいいの。彼も今回傷ついているから、そっとしてあげたい。」
そうして翌日の二十四日の早朝に彼らは相模原に帰り、僕らは羽田へと向かっている。
「髙さん夫妻も犬連れですか?」
羽田で合流する髙夫妻までも愛犬を連れてくる事に山口が驚いている。
彼は怪我のために助手席をぎりぎりに倒して横になっており、ケージに入れられたアンズは倒した助手席側の下に置かれ、後部座席でゴンタを抱いている僕は時々山口の髪も撫でていた。
「梨々子も髙さんが連れて来てくれるから良かったですよ。それにゴンタが一人で貨物室じゃ可哀相だから、隣に虎輔のケージを置いちゃおうかって。虎輔がいれば寂しくないし、寂しくなければ暴れないでいられるよね。」
犬は判る訳もないだろうが、ワフと返事だけはして大きく尻尾を振っている。
彼は我が家に来て良純和尚の完全な手下になった。
山口の言うことを聞かない時でも、良純和尚の前ではビシッと警察犬かと見間違うほどの従順さである。
「こいつらに青森の自然を堪能させてやればいいだろ。」
「あそこの冬は零下ですよ。犬でも凍死しませんか?」
「それが自然というものだろ。自然に還してやれ。」
僕は犬に人間の言葉がわからなくて良かったと思いながら、良純和尚の言葉にワフっと返事しているゴンタを優しく撫でてやった。




