このままでいてくれ
楊は俺を友達がいが無いと罵るが、楊の幼稚園時代の写真は、どっちが楊でどっちが傑だかわからない、クローンそのものにしか見えないものだ。
「今は似ていないけどね、当時はお前等兄弟そっくりじゃねぇかよ。お前は自分が一卵性双生児って忘れていないか?」
「あれ、かわちゃん。かわちゃんは右側じゃないですか。」
ひょこっと口出しをした玄人に、楊は自分の写真を見直し始めた。
「嘘ん。死んだひいじいちゃんとかがお前に教えた?ぼくちゃんは左でしょう。」
玄人はスッと写真を指差した。
「目の形が違う。傑の目はパパにちょっと似てて、かわちゃんはママそっくり。」
「嘘ん。見分けつくの?俺達双子だよ。」
俺はちょっと楊が壊れているのではと心配になって、楊の後頭部を叩くタイミングを失った。
だが彼はふーと息を吐くと一瞬素に戻った顔つきをしたが、再びおちゃらけた表情を浮かべて俺をニヤっと見返した。
いつもの顔で。
そこになぜかイラついたので、結局は奴の頭をパシッと叩いた。
「いたいなぁ。」
嬉しそうにクスクス笑う楊は、どうしよう、と俺に言い出した。
「何がだよ。」
「うん、この頃、ケツとそっくりだった頃さ、周りも見分けつかないからって目玉んと呼ばれるだけでね、俺もケツも名前を呼んで貰えなかったの。そんで二人して毎日泣いていたらさ、ママが。」
ハハっと楊は大きく朗らかに笑うと、きゅっと玄人を引き寄せて抱きしめた。
玄人はきゅうとなって目玉んになっている。
「ママが?どうした?」
「俺達の見分けがつけられる女の子が現れたら運命の子よって。どうしよう。俺の運命の相手はちびだったよ。梨々子も見分けられなかった。ちび、俺とちゅーするか、ちゅー。」
「やめてよ!放して!かわちゃん!」
楊の腕の中の玄人はジタバタと暴れ、本気で嫌がっていた。
「ホラ、お前は酔っているのかよ。まだ夕方だろ。」
玄人を楊から救出して膝に乗せると、玄人が楊に憎まれ口を叩いた。
「こういう親父臭い行動がモテない原因なんですよ。せっかくの美形なのに台無しです。」
「ホラ、これだよ。俺は美形じゃねぇよ、馬鹿。」
「本気か?お前は今日壊れているだけか?」
「何?百目鬼。やっぱり俺はハンサムだった?」
俺は玄人を放り出して立ち上がった。
「俺は庭に法事の折を投げ捨ててしまっていた。門の鍵も閉めてねぇし。」
「あ、僕も手伝います!」
「ねぇ、ちょっとお二人さん?」
玄関に向かった俺に矢張り付いてきた玄人と共に、楊の質問に答えなくて済むように急いで外履きをつっかけて外に出た。
この時には横で玄人がくすくす笑っていた。
「かわちゃんを今のままにしておきたいですよね。」
「お前もそうかよ。」
笑いながら玄関前のアプローチへと出て折を拾い上げるが、投げ捨てた時に蓋が開いてしまっていた。
「あー、せっかくの飯がよ。」
「ビニールの中で蓋が開いただけだから大丈夫ですよ。」
「昔のお前はそれでも絶対嫌がっていたけどね。」
玄人はニコニコしながら袋の中の折の状態を確かめるべく中を覗き込み、キャーと大きく悲鳴を上げた。
そしてそのまましゃがみ込んで顔を覆っている。
「虫でもいたか?」
結局飯を作る羽目になったかと溜息をつき、有名店の仕出しだったのにと恨めしく折の蓋を開けた。
ビニールごと折は再び地面にぼすんと落下した。
俺の手から力が全部抜けたのだ。
「ちくしょう!おい!かわやなぎ!かわやなぎ!ちくしょう!」
大声で楊の名を叫んだ。
それしか出来なくなった。
動けない俺の視線の中、楊が慌てた様子で玄関から飛び出してきた。
「どうしたの!」
「どうしたもこうしたもねぇよ!山口はどうした!淳平は!淳は無事なのかよ!淳は大丈夫なのかよ!」
俺の折の中に男の指が入っていたのである。
玄人が贈ったホピ族の太陽のモチーフを輝かせて。




